教員が発信する上智の学び

"常識"にとらわれず グローバルかつローカルに 世界を見据える

赤堀 雅幸
総合グローバル学部 総合グローバル学科 教授

異文化を実感をもって理解する

赤堀 雅幸 総合グローバル学部総合グローバル学科教授

 国際関係論、地域研究という2つの専門を並行して学ぶ総合グローバル学科の狙いは、世界を大局的に見据えながら、地域を知り、地に足の着いた思考をできるようにすることです。

 今後、多様化の進む世界で、例えば文化の異なる人と仕事を進めていくためには、語学力や異文化についての知識、国家間の関係を俯瞰する力ももちろん重要でしょう。ですが同時に、日本と違う文化をもつ社会もまた、自分と同じような人間が生きている社会だということを、実感を持って理解することがとても大切なのです。私の専門は人類学で、主にイスラーム地域を研究しています。イスラームというと、戒律の厳しい宗教という印象をもつ人が多いでしょう。

 しかし、戒律が厳しいということと、人々がその宗教のもとでどう生きるかは別のこと。ムスリムでもお酒を飲む人はいるし、偶像崇拝を徹底して禁止する厳格な一神教というイスラム教のイメージからすると意外ですが、サウディアラビアなど特に戒律の厳しい一部の国を除けば、聖者崇敬も盛んです。病気を治してくれる聖者、作物を成長させてくれる聖者など、さまざまな聖者の記念日にはお祭りが行われ、屋台も出て、そこでお祈りすることも、家族の健康や幸せといったこと。そうした現地の日常を理解すると、人々の根本的な願いはどこも同じだということを実感できます。

固定化した思想を突き崩す

 日本とまったく異なる文化や伝統をもつ地域について学ぶことで、日本を相対化できるのも学びの面白さでしょう。

 例えば昔の日本では「男子厨房に入らず」という言葉があり、食材の買い物も主に女性の役割でしたが、女性の外出が制限されるムスリムたちの間では、昔からおもてへ買い物に行くのは男性がほとんど。

 私たちの"常識"は決して絶対的なものではなく、日本もあくまで世界の一地域にすぎないのです。人類学には、細かな日常のことがらを扱いながら、普遍的な気づきに至るダイナミックな魅力があります。また、唯一の正しい真実を求めるのではなく、こんな理解の仕方、あんな解釈の方法もあると示すことで、固定化した思想を突き崩す役割もあります。

 総合グローバル学科ではこうした人類学の成果も取り入れ、資本主義や合理主義といったこれまで近代を支えてきた考え方では割り切れなくなった今の世界をどのようにとらえ、人類にとって何が大切なのかを慎重に見極めていくのに役立つような学びを提供したいと考えます。

自分で世界を見る力と専門性を

 イスラームというと中東のイメージが強いと思いますが、信仰する人の数で考えるとインドネシアなどの東南アジア地域が圧倒的に多くなります。欧米を含み、世界で幅広く信仰されていて、信徒の数も世界人口の約4分の1を占めます。

 しかし、日本でイスラームというものが、十分に理解されているとは言えません。一方、日本の文化がイスラーム圏などで、実感をもって理解されているとも言い難い。海外で日本を語り、理解してもらえる力をもつ人材の育成も、私たちの役割の一つでしょう。

 高等教育としての大学の大きな目的は、高校などで蓄積した知識をもとに、自分で価値判断ができる人材を育てることです。いまやビジネスも、一面的なものの見方では成立しません。そうした今後の世界で活躍していくためには、「世界を見極める力」と「自分を売れる専門性」、さらに「周囲と協力して働いていけるバランス感覚」が必要となるに違いありません。

 総合グローバル学科では、そんな能力を養うための知識、姿勢、技法を伝えていきたいと思います。

赤堀 雅幸 総合グローバル学部総合グローバル学科教授
赤堀 雅幸(あかほり・まさゆき)
総合グローバル学部 総合グローバル学科 教授

現代イスラームの多様な形と世界との関わりを研究し、専門の人類学とともに、グローバル学の一環としての地域研究のあり方を探究している。最近の著作:『エジプトを植民地化する』(共訳)2014年)。

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