教員が発信する上智の学び

「当たり前」を疑うことが社会や自分の成り立ちを知ることにつながる

芳賀 学
総合人間科学部 社会学科 教授

新宗教の信者は特別な存在か?

芳賀 学 総合人間科学部社会学科教授

 例えば現代新宗教。多くの人はそれを自分とは関係ない、特別な存在と思っているかもしれません。

 しかし、宗教とは広い意味で「何かを信じ、そこに生きる意味や価値を見出すこと」──。そう考えれば、新宗教の信者も決して特別な人たちとは言えないでしょう。例えば皆さんは、「個性を大事にすることは重要だ」と言われたらどうでしょうか?きっといまの日本人の多くは、「確かにそのとおりだ」と納得するでしょう。実はこれも、ある考え方を信じ、それに基づいて生きていることに違いはありません。確かに、新宗教を信じている人と個性の重要性を信じている人とでは、信じている対象の次元も、また人数も大きく異なるでしょうが、根本的な構造は同じなのです。私は、こうした人間の暮らしや生き方を成り立たせている宗教やそれを含む文化に強い関心を持ち、研究しています。なぜならそれは、他ならぬ自分自身の成り立ちを知ることにつながるから。

 人間は、確固たる自我を築いたうえで、宗教や文化を信じ、受け入れているのではありません。むしろ、時代や地域によっても変化する「信じられるもの」によってつくられているのです。

「よさこい系祭り」に見る社会の変化

 最近の私の研究対象に、「よさこい系」と呼ばれるお祭りがあります。

 これはいまから50年以上前に高知で生まれ、その後1990年代に「YOSAKOIソーラン祭り」として札幌に伝播。現在は、全国各地に同様のお祭りが広がっています。従来の伝統的な祭りは、地域ごとに独自性を持ち、その町の人たちによって行われるのが特徴です。

 ところが、「よさこい系祭り」は基本的に全国どこでも同じスタイル。開催地以外からもチームが遠征してくる場合があります。なぜ地域の伝統的な祭りが衰退するなかで、「よさこい系祭り」が人気を集めているのか。ここには、従来型の地域共同体の崩壊を見て取ることができるでしょう。

 同じ町内に住んでいても、密接な付き合いをしない生活様式が地方にも広がってきているのです。

 まさにこうした現代人の暮らし方の変化は、社会学のテーマの一つ。それをつぶさに調査し、分析していくことで、これからの社会が向っている方向、さらには私たち一人一人の行動やものの考え方の変化を明らかにしていくことが、社会学の役割であり、醍醐味なのです。

ますます重要になる社会学的な視点

 社会学においては、一般的に当たり前だと思われている物事や事象について、「それがなぜ当たり前になっているのか」という問いかけを行うことが大切になります。

 「当たり前」を客観視し、相対化してみると、実はそこに時代や地域、立場による違いがあることが見えてくるからです。きっとこうした視点は、社会が高度化、複雑化するなかで、ますます重要なものになるでしょう。一つの問題の解決が、別の深刻な問題を引き起こす──。

 そうした事態が頻繁に発生する現代社会では、さまざまな方向から問題を見つめ、多様な方法論を粘り強く組み合わせる、まさに社会学的な手法が欠かせないのです。

 また、繰り返しになりますが、普段当たり前だと思っていることに焦点をあて、深く考えることは、人間が、また自分自身がどのようにして形作られているのかを発見することにつながります。

 私自身一貫して、自我、アイデンティティの成り立ちに興味をもって研究を続けていますが、フィールドワークなど多様な手法を使い、それを追究する社会学という学問に魅力を感じています。

芳賀 学 総合人間科学部社会学科教授
芳賀 学(はが・まなぶ)
総合人間科学部 社会学科 教授

新宗教と精神文化を中心に、現代日本人のアイデンティティとさまざまな文化現象との関連について広く研究している。最近の著書:『若者の現在 文化』(共編著)2012年、『本を生み出す力』(共著)2011年。

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