教員が発信する上智の学び

「平和」とは戦争だけでなく 貧困や差別、環境破壊のない世界

小山 英之
神学部 神学科 准教授

原点は「北アイルランド紛争」

小山 英之 神学部 神学科 准教授

 私は「平和学」や「民族関係論」という科目を中心に授業を担当しています。「平和」とは、単に「戦争がない」状態を指すだけではありません。 一人ひとりの人間が大切にされて、自然環境との調和の中に生きていくこと。つまり平和学とは、貧困や社会的差別、民族紛争、環境問題など幅広い領域にわたる学問といえます。
私にとって、この分野の原点は「北アイルランド紛争」の研究でした。カトリックの司祭として彼の地に赴き、素晴らしい人間性の人々がどうして武装闘争に走らなければならなかったのか、 宗教はそこにどう関わっているのか。この紛争の地に身を置いてはじめて、社会的不正の下に生きなければならない人々の苦しみと怒り、そして哀しさを知りました。

自尊心から寛容、そして赦しへ

 社会の仕組みに結びついた暴力は、関係者双方の人間性を失わせてしまいます。
大切なのはこの社会の中に自分の「場」や「役割」があり、そして「かけがえのない存在である」という深い自覚をもつこと。 それが自信と自尊心の成長の糧となり、他者への理解と寛容、さらに赦しの行為へつながっていくのです。 私は学生たちとともに「ソフィアなんみんサービス」というサークルで難民支援の活動に取り組んだり、また3.11以降は東北の被災地へ行き、 ボランティア活動に携わったりしています。過去一貫して経済成長至上主義で走ってきた日本は、いま大きな難局を迎えているといえます。 人として、どう生きるべきか。復興、そして社会再生へ向けて、深く再考しなければならないときだと思います。

幅広い素養と人生経験が基盤に

 平和学は歴史学、宗教学、社会学、哲学、政治学など、分野を超えた学際的な知識を必要とします。
すべてにおいて専門家である必要はありませんが、幅広い視点をもつための基礎的な素養は不可欠。 加えて自身の人生体験と学問の関わりが、平和学を体得していくうえでの基盤となっていきます。 神学部も「神学系」「キリスト教倫理系」「キリスト教文化系」に分かれてはいるものの、実際はすべてが関係し合っており、 それぞれが独立して存在しているわけではありません。
例えば「文化」とは芸術作品のことだけでなく、根本的な人間のあり方を表現したもの。つまり、人間がいかによく生きられるかという「倫理」と、根底は同じであるといえるのです。

人と世界が変容していく視座とは

 キリスト教が長い伝統と歴史の中で育んできた美術や建築、音楽。学生が神学科に興味をもつ理由は実にさまざまです。人は多面的な存在であるからこそ、スタートも学び方も一様ではありません。 ですから私も、信仰者としてだけでなく、多様な角度から授業を行うよう心がけています。しかし、あえて神学を教える立場として皆さんに伝えるとすれば、 それはこの世界はあなた方一人ひとりを必要としているということ。皆さんの行動こそが、平和な社会をつくるために重要な役割を担っているということです。 人間とはどんな存在なのか、罪とは何なのか−。深い人間理解のなかから学びを得て、自らの成長とともに、世界が変容していく。 神学科は、そのための重要な視座を与えられると確信しています。

小山 英之 神学部 神学科 准教授
小山 英之(こやま・ひでゆき)
神学部 神学科 准教授

主な著書は『新・平和学の現在』(共著)。2011年7月にはカンボジアでのエコロジー会議に出席し、難民を支援するNGOネットワーク「なんみんフォーラム」の理事を担当。

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