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「祟り」と呼ばれるものの多くは、社会全体の不安を抑える物語として生まれた

北條 勝貴
文学部 史学科 准教授

「祟り」や「占い」には、役割がある

北條 勝貴 文学部 史学科 准教授

 一般に祟(たた)りというと、近世の怪談や、近年のホラーブームの影響で、恐怖の対象としてのみ紹介されていますが、元々は、何か人間にとって説明がつかない天候不順や災害、疫病などが発現したときに生まれてきたものだと考えられます。
人間は原因がわからないと不安になりますよね。その不安が社会全体に蔓延することを抑えるために、占いを行い、これは何々の神の祟りであると物語を創り出したわけです。
それによって、祭祀などの対処法もみえてくるので、社会不安の過度な増大を防ぐことができたのです。

政治的な道具としての「祟り」や「占い」

 〈祟り〉の導入された古墳時代後期頃には、物語は支配層の周辺で発生していました。しかし、必ずしもそれだけとは限りません。例えば、ある村に疫病が大流行し「何が原因なのか?なぜ我々は苦しまなくてはいけないのか?」という不安が生じたとします。すると、周囲の村々で共有されている巫祝(ふしゅく)[神事を司どる者]が登場します。
日本の場合は神憑りをするシャーマン的な巫女と、男の審神者(さにわ)がカップルで活動する場合が多く、彼らに災いの原因を占ってもらうわけです。儀式を通じてシャーマンに神霊が憑依すると、一種のトランス状態になります。彼女は意味不明のことを口走りますから、村人たちには理解できません。そのとき審神者が「神様が苦しんでいます。何か心当たりはありませんか?」と尋ねます。
すると「この間、村の鎮守で大掃除をしたとき、神木の枝を払ったがお祀りをしなかった」といった話が出てきます。そこで審神者は、 「それに違いない。神木に依った神霊が切られて痛がっているのです。罪を詫びるお祀りをすれば疫病はおさまるでしょう」などと言うわけです。審神者やシャーマンの押し付けではなく、村人たちとのキャッチボールで物語が生まれているので、ある程度の説得力、納得感があるわけです。 こういったものが、村の昔話や民間伝承として伝えられてきたのです。古来の神話には、政治統合の手段となったものももちろんありましたが、必ず何らかの形で社会が反映されます。 逆に言えば、押し付けの物語は定着しません。いかに蓋然性や説得力を持たせるかが重要なのです。

年表から読み取れないところに歴史学のおもしろさがある

 人間の営みの結果である歴史には、永久不変の原理、法則が底流にあり、それは各民族に共通、普遍的なものだと想定されていた時代もありました。
しかし、最近では、普遍的な法則を追究していく過程で、多くの具体的な事象が削ぎ落とされてしまったという反省があり、むしろ歴史は原理原則では語れず、非常に多様で豊かなものだと考えられるようになりました。各国、各民族、各共同体に、それぞれ固有の歴史があり、 その豊かさを発見していくことこそ、歴史学の使命だとする認識に変わってきたのです。歴史学とは、何十年も研究経験を積めばすべてわかるという学問ではなく、高校を卒業したばかりの一年次生にも、新しい歴史の局面を発見できる可能性があるのです。
私たち一人ひとりに、それぞれにしか掴みえない歴史の姿がある。ですから、個々の学生がもっている問題意識をつぶさずに、大切に育てていくことが、現在の史学科の重要な責任だと思っています。

北條 勝貴 文学部 史学科 准教授
北條 勝貴(ほうじょう・かつたか)
文学部 史学科 准教授

自然環境と人間の関わりの歴史を、東アジア的な視野で追究。文学や民俗学、人類学など、他分野との協働も盛んに行っている。著書に、『環境と心性の文化史』(共編著)、『日本災害史』(共編著)など。

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