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おとぎ話を理論的に読み解くことで 「クリティカル・シンキング」を身につける

小川 公代
外国語学部 英語学科 准教授

おとぎ話を理論的に分析する

小川 公代 外国語学部 英語学科 准教授

 授業のひとつで、英語で書かれた物語を理論的に(精神分析理論、ジェンダー理論、批判理論を使って)分析していく、ということを行っています。 誰もがその内容を知っていて、欧米でもさまざまな研究がなされているおとぎ話は、英語で物語を批評することに慣れたり、その分析手法を身につけたりするのに、 とても適した素材なんです。例えばグリム兄弟の「赤ずきん」。近年複数映画化されていることでも、この物語の魅力は証明できるでしょう。 少女が被る「赤い」ずきんは身体的な成熟、「狼」は人間の性的欲動を象徴することは、複数の批評家たちによって分析されてきました。

 この背景知識をもとに、「赤ずきん」を下敷きにしたアンジェラ・カーターの短編作品「狼たちの仲間」のフェミニズム的な提言も読みとることができますし、 西欧文化に根付く「超自我(理性)vs.欲動」の議論を理解することもできます。このような思考トレーニングは、よりプロット(筋書き)の複雑な文学作品を読み解くことを可能にするだけでなく、 人間の心理を解く手掛かりともなるのです。ディズニーの映画もまたおとぎ話の解釈のかたちといえますが、現代社会に溢れる消費文化と文学作品の境目があいまいになってきているよい例といえるでしょう。 私たちが消費する文化を無批判に受容しないで、どう分析できるか学び、クリティカルに思考し、理解を深めていく。こうした経験を重ねていくことで、 高校までとは一味違う、アカデミックな頭の使い方に慣れ親しんでもらうことが、この授業の一つの目的です。

まず英語の体系を頭の中に構築する

 また、物語や文学は「言葉」そのものと向き合う機会も多く与えてくれます。当然ながら、西洋文化に浸透している言葉がすべて、すんなりと日本語に変換できるわけではありません。 例えば日本語の「成熟」は成熟した“結果”を示すときに使うことが多いように思いますが、英語の「maturity」は成熟する“過程”をそのニュアンスに含んでいます。 こうした違いは、機械的に辞書を引いているだけではなかなか理解できません。言葉というものは、それぞれの文化や歴史のもとで実に多彩な使われ方をしていて、高い柔軟性を持っています。 ですから、英語を日本語に置き換えていこうとするのではなく、英語なら英語だけの体系をまず頭の中に構築していくことが大切。日本語と英語のつながりや関連性を考えていくのは、 その体系がしっかり固まってからでいいのです。英語圏のみならず、世界中で語り継がれ、読み継がれてきたおとぎ話について英語で議論し、解釈を試みる行為は、 自分の中に確固たる英語のシステムを築いていくのに効果的な手段といえるでしょう。

流行するグローバル化のなかで

 今後も社会のグローバル化は、着実に進んでいきます。ビジネスの世界に目を向けても、その流れと完全に無関係でいられる企業は決して多くないはず。 そのなかで私たちは、好むと好まざるとにかかわらず、異なる考え方を持つ多様な人たちと英語で意思疎通できることが求められるに違いありません。
そこで英語学科では、世界で通用する「クリティカル・シンキング」—物事や他の人の考え方を客観的に分析し、論理的に自らの考えを組み立てていく能力—の養成にも、 いっそう力を入れていく予定です。

 もちろん当学科には、英語研究や英語教育、英語圏の地域研究をはじめ、さまざまな分野のプロフェッショナルが揃っていますから、特定の領域で専門的なスキルを磨いていきたいという人にとって、十分な環境が用意されています。
ただ一方で、「これから自分のやりたいことを見つけたい」という人も私たちは大歓迎。時代や環境に流されることなく、物事を客観的に見つめ、自ら考え抜く力をしっかりと身につけることで、将来の可能性を広げていってほしいと思います。

小川 公代 外国語学部 英語学科 准教授
小川 公代(おがわ・きみよ)
外国語学部 英語学科 准教授

専門はロマン派時代のイギリス・アイルランド文学。『ジェイン・オースティン研究』(学会誌)編集委員。主な著書は『イギリス文化入門』(共著)、『病と身体の英文学』(共著)。

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