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時代が求めてるのは家族の「強み」を見極め引き出す看護

山崎 あけみ
総合人間科学部 看護学科 准教授

家族を看護の対象とする考え方

山崎 あけみ 総合人間科学部 看護学科 准教授

 長い間、看護の対象は主として患者本人だけに限られてきました。しかし、いま患者とその家族を一体としてケアする「家族看護学」の視点と実践が重要性を増しています。

 なぜでしょうか?誰かが病気になれば、当然その家族が受ける影響も無視できません。一方、家族の状況や言動もまた、患者の健康回復に大きく影響します。

 このように、けっして両者を切り離して考えることはできないのです。在宅医療を推進する医療行政の流れもあり、患者を抱える家族にはやるべきことが山積しています。ところが50年前に比べると、家庭あたりの平均人数は半減。単身世帯の割合も大幅に増え、家族そのものの基盤が弱まっています。

 このため、近年の看護の現場では多様な家族の特色を見極め、それぞれの「強み」を引き出していく力が必要とされているのです。

どうやってアプローチするか?

 患者と家族の状況を把握する手段として、ジェノグラムとエコマップの活用があります。ジェノグラムとは、家族の構成を示す家系図のこと。エコマップは知人や友人、医療機関といった外界との関係を示す相関図のようなものです。

 授業では、例えば難病の子どもをもつ家族のドキュメンタリービデオなどを見て、ジェノグラムとエコマップを作成。 家族内でいったいどのようなことが起こっていて、周囲に社会資源がどれだけあるのかを俯瞰します。実際にアプローチしていく際には、 「家族のことに立ち入らないでほしい」という頑なな態度が壁となることも少なくありません。ケアサービスなどを導入してもらうためには、 弱みを補うという考え方ではなく、まず「その家族の良さ」や「できていること」を見つけること。それをはっきりと言語化して、評価することが有効です。 そうして患者と家族のセルフケアをひきだすことで、問題の解決を目指す。講義ではあらゆるライフステージにおけるその方法や理論、 「家族看護学」の果たす役 割についても学んでいくことになります。

 そして3年生になれば、約半年間、臨床での実習が待っています。講義で学んだことは、きっとそのときの行動の指針となるでしょう。

すべては人への深い関心から

 看護には技術ばかりではなく、深い人間理解が不可欠。社会福祉学科や心理学科の科目をはじめ、幅広い教養を身につけることができるのは総合大学ならではのメリットです。 また本学科では、看護師・保健師・養護教諭I種の資格取得が可能。資格取得者の知識や技術が必要とされる場面は広がっており進路は病院にとどまらず、 行政や一般企業なども視野に入れることができます。

 そのほか、訪問看護ステーションや医療関連のNPOを立ち上げるという選択もあるでしょう。これから看護の分野を目指す皆さんにひと言アドバイスするとすれば、 できるだけ文系・理系の科目をバランスよく勉強しておいてほしいということ。また機会があれば、ぜひ病院や自助グループなどでのボランティア活動に参加してみてほしいということです。

 「現場」に少しでも触れておくことで、自分の適性を判断する一つの目安にもなりますし、かけがえのない経験になるでしょう。 看護学科は学ばなければならない領域も広く、かなり多忙な毎日を送ることになると思います。実習に出てからは、きっといろいろな悩みも生まれる。 しかしそれを乗り越えて大学を巣立つときには、大きな充実感と自信を得ているはずです。

山崎 あけみ 総合人間科学部 看護学科 准教授
山崎 あけみ(やまざき・あけみ)
総合人間科学部 看護学科 准教授

ファミリーインタビュー法、家族機能尺度を用いた仮説検証型研究に取り組んでいる。主な著書は、共編『家族看護学−19の臨床場面と8つの実践例から考える』南江堂(2008)。

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