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暮らしの環境を守るために何を変えていくべきか

筑紫 圭一
法学部 地球環境法学科 准教授

ある判決が意味するもの

筑紫 圭一 法学部 地球環境法学科 准教授

 環境を十分に保護するには、どのような法理論や法制度が必要なのか。私が担当している「生活環境法」の講義で扱う内容でいいますと、例えば「廃棄物処理法」という住民の生活環境を守るための法規制があります。

 しかし、業者のずさんな管理によって汚染物質が漏れ出し、健康が脅かされてしまう。そんな事態に陥ったとしたらどうでしょうか。ある地域では、周辺住民が規制権限をもつ自治体を相手に訴訟を起こしました。その裁判では裁判所が住民の請求を認め、自治体に対し規制権限の行使を命じたのです。

 この判決が意味することは2つ。「十分な法制度があっても必ずしもうまく機能しないことがある」ということ。そして運用に不備がある場合は「裁判所も環境規制を後押しできる」という事実です。

法制度は改善をくり返す

 実はこれまで、裁判所の命により国や自治体に規制実施を義務づけることは、非常に困難でした。こうした判例を出すことに、「裁判所は非常に消極的」という歴史の積み重ねがあったからです。

 しかし、学説の強力な支持を背景に、2004年、行政による処分などに対して適法性を問うための「行政事件訴訟法」が改正されました。一定の条件を満たす場合には、「義務付け判決」を出すことができる、と明記されたのです。そもそも廃棄物処理法も、新たな問題に直面するたびに何度も改正されています。

 既存の法制度に不備があれば、それを是正するための法理論が必要となる。その構築こそが、私たち研究者に求められていることの一つです。

幅広い科目と専門家との課外活動

 上智大学の地球環境法学科がスタートしたのは、1997年。実は、私は第一期生です。当時の仲間たちは、裁判官など法曹分野に進んだ人、専門知識を活かし、環境コンサルタントや公的機関の専門家になった人、あるいは私のように研究者となった者もいます。もちろん一般企業に就職した人も多い。そんな皆が学生時代を振り返って口にするのは「複数の考え方の要点を正確に把握し、全体を調整する能力が身についた」ということです。まず、原則を大事にする。その上で問題があれば、現実に即した形で解決していく。 そんな思考プロセスは、職業を問わず大いに役立っているようです。

 ちなみに、私がかつて仲間と楽しい時間を過ごした「環境サークル」は現在も存続していますし、環境の専門家を招いての課外活動なども活発に実施されています。上智大学は、「環境に関心がある人には最適な場である」−これは、“経験者”としての実感です。

筑紫 圭一 法学部 地球環境法学科 准教授
筑紫 圭一(ちくし・けいいち)
法学部 地球環境法学科 准教授

専門は、行政法・環境法。主著として、『行政裁量論』(放送大学教育振興会、2011年)(共著)、『自治体の環境政策と環境条例』ジュリスト1408号2頁(2010年)など。

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