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自ら思考を徹底して検証することで得られる「知的なタフさ」

澁谷 智治
理工学部 情報理工学科 准教授

「誤り訂正符号」とは

澁谷 智治 理工学部 情報理工学科 准教授

 皆さんは周囲が騒がしい雑踏のなかで話の内容を正しく相手に伝えたいとき、どうするでしょうか。例えば大きな声で話をする。シンプルですが、そんな工夫をするでしょう。実は、携帯電話やインターネットで使われるデジタル信号の世界でも、情報を正しく伝えるため、さまざまな工夫がなされています。実際、声を大きくするように、電波のエネルギーを強くするというのも有効な手段の一つです。ただ、この方法は大容量のバッテリーや大きなアンテナを必要とするため、小型化が進む携帯機器では利便性の面から限界があります。そこで力を発揮するのが、私の専門とする「誤り訂正符号」という研究分野になります。

 研究内容をごく単純化して説明するなら、雑踏のなかで、言葉を繰り返したり、念押ししたりすることに喩えられるでしょうか。「0」という信号を単に「0」として送信するのでなく、「000」とあえて繰り返して送信する。情報通信の世界では“冗長化”などといいますが、そうすることで、送信中に何かの間違いで信号が「010」と置き換わってしまっても、元の情報は「0」だったに違いないと判断できるわけです。こうした冗長化の仕組みやそれを正確に読み取る仕組みを数学的に設計することが「誤り訂正符号」研究の一部になります。

世界一のチャンピオンに

 「0」と「1」からなるデジタル信号のやりとりに誤りは生じない。そう思われるかもしれません。しかし実際には、携帯電話での情報の送受信、ハードディスクからのデータの読み出しなど、ほとんどの場合において、多様なノイズなどが原因となりエラーが発生しています。そうしたなかで、完全に正確な情報を伝えるには、データを“無限に冗長化”しなければならないとかつては考えられていたのです。ところが今から60年ほど前、米国の数学者・シャノンは、「一定の冗長のなかで、伝送の誤りを限りなく小さくできるデータ化(符号化)の体系がある」ことを証明しました。実はこの定理こそが、我々の研究を非常に特徴的なものにしているといえます。
一般に工学の分野では、昨日よりも今日、今日よりも明日、と技術や性能を磨いていく場合が多く、その限界がどこにあるのか事前には分かりません。ところが私たちの研究では、理論的なゴールが非常に明確。そこに到達すれば、決して誰にも抜かれない世界一のチャンピオンになれるのです。
もちろん、理論値を工学的に実現するには、まだまだ越えなければならない壁があります。
とはいえ、近年は、数学的手法の中に「人工知能」や「統計物理学」の知見なども取り込むことで、技術は急速に進化中。携帯電話をはじめ市販商品の革新を強力にバックアップしています。

人を納得させられる力を

 私たちのように数学的理論を活用する研究分野でもっとも求められること--。
一言でいえば、それは「知的なタフさ」だと私は思います。理屈を積み上げて、理論を証明していくという行為においては、そこにわずかなりとも破綻がないか、自らの思考を自らが徹底して検証する姿勢が必要です。なぜなら「これでいいだろう」と妥協をした瞬間に、すべてが崩れ去る可能性が生じるからです。逆にいえば、そうした「知的なタフさ」を手に入れることができるのが、大学での学びでしょう。自らをとことんまで納得させる力は、研究の世界だけに留まらず、社会に出て周囲の人を納得させる力にもつながるはず。現実の社会では、もちろん妥協や折り合いも大切ですが、一方で重要な「理屈を確実に積み上げる技」も、ぜひ身につけてほしいと思います。

澁谷 智治 理工学部 情報理工学科 准教授
澁谷 智治(しぶや・ともはる)
理工学部 情報理工学科 准教授

誤り訂正符号の理論と応用、およびその関連分野の研究に従事。主な著書に『代数系と符号理論入門』(コロナ社)など。卒業研究や修士論文の指導を通じて後進の育成にも心血を注いでいる。

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