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文化とは博物館に保存されているものではなく 今生きている私たち自身が文化そのものなのです。

エレーナ・ガジェゴ
外国語学部イスパニア語学科 准教授

言葉だけを使いこなせるだけでは翻訳はできない

エレーナ・ガジェゴ 外国語学部イスパニア語学科 准教授

 私は、明治、大正、昭和の日本の文芸作品をスペイン語に翻訳し、お互いの文化を比較する研究をしています。これまでに、武者小路実篤の『友情』、森鴎外の『高瀬舟』『山椒大夫』『最後の一句』などの作品をスペイン語に翻訳してきました。

このような傑作といわれる作品を翻訳するときに、いちばん気を使うことは翻訳自体も傑作にしなければいけないということです。 日本語固有の文学的な文体を、原文と同じように美しいまま、スペイン語に翻訳するには、双方の言葉がわかるだけではなく背景にある文化も深く理解していなくてはいけません。

 例えば、森鴎外の作品には拍子木が出てきますが、ヨーロッパの人は拍子木を知らないので、どんな形状で、何のために使われているのかがわからなくては情景を想像することができません。それを理解してもらうには、日本が木造文化の国であり、火事が起こりやすく広がりやすいことや「火の用心」という概念を知ってもらう必要があります。

 文化的背景が異なるヨーロッパでは、このように日本の文化についてわかりにくいことがたくさんあります。国籍を問わず人間はいろいろな悩みをもっていますが、悩みの解決方法は、各国の文化によって異なります。例えば、名誉を汚された時、江戸時代までの日本人は切腹しますが、欧米人は名誉を汚した相手を殺します。

 汚れを血で洗い流すという考え方は共通ですが、誰が血を流すのかがまったく異なります。 夏目漱石の『こころ』で主人公は自殺しますが、欧米の小説の場合、同じ問題にぶつかったとしても主人公が自殺するかどうか、疑問です。

文化とは博物館に保存されているものではなく、私たちそのもの

 文化とは博物館に保存されているものではなく、今生きている私たち自身が文化そのものなのです。

 その意味で、文化に興味がない人は、人間自体への興味がないのと同じです。私たちの目的は、文学を通して人間の心を理解することですから、まずは文化について考えなくてはなりません。

 異文化を理解するために大切なことは、まず自分の文化を知ることです。人間と文化は同じですから、他人を理解しようと思ったら、己を知らなくてはなりません。自分の文化を知り、両方の文化、両方の言語を深く勉強してはじめて比較文化、比較文学ができるようになるのです。

幅広い地域で使われているイスパニア語を学ぶメリット

 イスパニア語は、スペインやラテンアメリカの国々をはじめアフリカにも広がっており、世界19ヵ国以上で使われています。本学科には、文学の他にもメキシコ経済やコロンビア社会やスペイン美術など、さまざまな専門家がおり、学生は関心に応じて幅広い地域の専門分野を学ぶことができます。また、イスパニア語という言語はとても柔軟性があるので、一度習得すれば応用的に使えるというメリットがあります。

 アフリカの赤道ギニアなどの異なる環境や文化に見事に適応するという「柔軟性」と、ここ数百年の間、大きな変化を見せることがなかったという「堅牢さ」を兼ね備えた言語でもあります。大学の教室で学ぶイスパニア語も、非常に幅広く使えるわけです。

 このように、イスパニア語を学ぶメリット、おもしろさは、さまざまな地域の人々とも、そして異なる時代の人びとともコミュニケーションをとれることにあるのです。

エレーナ・ガジェゴ 外国語学部イスパニア語学科 准教授
エレーナ・ガジェゴ
外国語学部イスパニア語学科 准教授

インド・ヨーロッパ語族に属するイスパニア語はポルトガル語やフランス語と同族言語で、話者数は約3億3千万人、スペイン、中南米など多くの国の公用語になっています。イスパニア語は国連創設以来の公用語の一つでもあり、英語に次ぐ国際言語と呼ぶにふさわしい言語です。本学科はイスパニア語の確かな言語運用能力を土台に、イスパニア語圏の包括的理解を目指して言語、文学、歴史、美術、経済、社会などを研究していく学科です。イスパニア語圏の地域研究の専門家として、外交、ビジネス、国際協力、学術研究など多方面で現地の生(ファースト・ハンド)の情報を活用できる人材の養成を目指しています。

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