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現代社会でも重要な「問いを問う」力。哲学的思考が新たな価値観をひらく

寺田 俊郎
文学部哲学科 教授

”問う”ことで”世界の見え方”が変わる

寺田 俊郎 文学部哲学科 教授

 あらゆる物事を自由に“問う”ことができる。これが哲学の大きな特徴の一つです。例えば皆さんは、「友情とは何か」という問いを真剣に考えたことがあるでしょうか。

 一見分かりきったことのように思えるこうした問題も、実は哲学の重要なテーマ。ソクラテスの時代から存在する“伝統的な問い”の一つで、誰もが納得する明確な答えはいまだに出ていません。それでも哲学者たちは、「この問いに答えはない」「答えは人それぞれだ」として思考を終わらせることはありません。 なぜなら、一つの問題を深く、深く考え抜くことで、たとえ最終的な答えは出なくとも、“世界の見え方”が変わってくる。そのことに重要な価値を見いだしているからです。問い続けることで、新たな世界観や人間観をひらいていくことができる。これこそが、哲学の最大の魅力だと私は考えています。

哲学は「全人称的な学問」

 では「問い続ける」ためにどうしたらいいのか。その方法の一つとして、哲学が大切にしているのが「対話」です。他者と協力して、考えを発展させていく−。例に挙げた「友情とは何か」という問いでも、実際に友達同士で話し合ってみれば、それに対する考え方が人それぞれ大きく異なることにきっと驚くでしょう。その驚きこそが、思考を深めていく力になるのです。

 つまり、「私はこう考える」「あなたはこう考える」を大事にするのが哲学という学問。その意味で私は、哲学は「全人称的な学問」だと考えています。学問というと一般に、客観的な、いわば三人称的な事実だけを対象にするイメージがあるかもしれません。実際、「科学」とはそういうものでしょう。しかし哲学は、一人称、二人称を決して排除しない。これもまた、哲学の際立った特徴、魅力ではないでしょうか。

ファシリテーターとしての役割に期待

 近年、特にヨーロッパでは、国のエネルギー政策について議論する諮問委員会などに科学者や経済学者、企業人らと並んで、哲学者が名を連ねることがあります。

 例えば原発の是非を考える際に、客観的なデータからは見えてこない部分に光をあて、より根本的な問いを発することが求められているわけです。今後はさらに一歩突っ込んで、こうした議論の場で哲学者がファシリテーターの役割を務めていくことを私自身は期待しています。問題を多角的に掘り下げ、そしてときに「問い自体をも問う」という習性をもった哲学者には、議論を活性化し、より本質的なものにする力がある思うのです。

哲学は現実の社会とつながっている

 哲学というと、現実の社会とは乖離した、閉じた世界のものというイメージもあるかもしれません。

 しかし、決してそうではないのです。あらゆる社会問題が高度化、複雑化するなかで、「問い」を封じることなく、ていねいに議論を積み重ねていく姿勢はより重要になってきています。そうしたなか上智大学の哲学科では、古代、中世、近代の哲学を体系的に学ぶとともに、演習を通じて対話の力を鍛え、確かな哲学的思考の土台を養成します。

 身につけた「問う力」と「対話する力」は、将来どのような進路を選んでも、きっと活かせるはず。ぜひそれぞれの関心と夢をもって、当学科を目指してもらえればと思います。

寺田 俊郎 文学部哲学科 教授
寺田 俊郎(てらだ・としろう)
文学部哲学科 教授

主な研究分野は実践哲学、臨床哲学。主な著書として『世界市民の哲学』(共編著、2012年)、『応用哲学を学ぶ人のために』(共著、2011年)、『グローバルエシックスを考える』(共編著、2008年)他。

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