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理論と現実の接点に身を置きながら「不思議なパズル」を解く喜び

中里 透
経済学部経済学科 准教授

経済政策と経済学のあいだ

中里 透 経済学部経済学科 准教授

 最近、「アベノミクス」が内外の注目を集めています。バブル崩壊後、日本は長期にわたる経済の低迷とデフレ(持続的な物価の下落)に苦しんできましたが、大胆な金融緩和と機動的な財政出動、それに民間投資を引きだす成長戦略によって、「デフレ脱却」が実現できるのではないかとの期待感がその背景にあるようです。

このような経済政策と景気変動や経済成長の関係を、経済全体の視点から分析するのが「マクロ経済学」と呼ばれる研究分野です。この経済学の分析ツールをもとに、統計的な手法とデータを駆使しながら、政府や中央銀行が行う政策の効果を分析するのが、エコノミストの役割ということになります。たとえば、日本はいま巨額の政府債務を抱えていますが、このような財政悪化の影響についてどのように考えるか?どうすれば財政再建と経済成長と両立させていくことができるのか?もちろん、単に分析をするだけでなく、さまざまな機会を利用して政策提言を行い、メディアにも積極的に発信していくことが必要です。経済学は社会科学なので、実際の社会との交流が大事。大学のキャンパスの中だけでなく、その外側にも、学ぶ場は広がっています。

仮説をデータで検証する楽しさ

 経済学部は「文系」の学部に分類されるのが一般的ですが、経済学の実際の内容は、「文系科目」から想定される普通のイメージからはちょっと離れていて、むしろ「理系」に近いところがあります。経済学では仮説検証のプロセスが重要で、それぞれのテーマについて、理論的なフレームワークをもとに自分なりの仮説を立てたうえで、大量のデータを使って検証を行います。

 もっとも、数学とは違って「正解」がひとつだけ得られるという性質のものではありません。たとえば、財政赤字の解消策についても、人によって見解はさまざまです。歳出削減に重点を置くか、増税に依存するか、あるいは経済成長による税収増に期待するか。社会一般に広く受け入れられている考え方が、必ずしも経済学の視点から見た場合に正しいとは限らないという点も、経済政策をめぐる議論の面白いところです。エコノミストとして喜びを感じるのは、理論的な分析と直感的なイメージをもとに立てた仮説が、データから得られた結論とピタッと一致したとき。その分析が世の中のためになる政策提言に結びつくなら、こんなうれしいことはありません。

 最近、関心を持っているのは、財政赤字と債券市場の関係です。日本は大きな財政赤字を抱えているにもかかわらず、長期金利(10年物の国債利回り)は1%を下回る水準で推移しています。この不思議なパズルを解き明かすのが、目下のテーマです。

「雑食系」と「ロジカルシンキング」

 講義では毎回、本題に入る前に最近の出来事を取り上げて、簡単な解説を行います。経済学を学ぶということは、客観的な視点から冷静に物事を見る目を養うこと。「ロジカルシンキング」というか、受講生のみなさんには社会の「通念」や世の中の「常識」にとらわれずに、一歩引いたところから論理立てて物事を考える力を身につけてほしいと思っています。そのためには「雑食系」であるということも大事かもしれません。世の中の幅広い事柄に関心をもち、さまざまな課題に積極的に関わってもらいたいと思います。社会との接点をもつことによって、物事の見方の幅が広がります。あと、月に一、二冊でもよいですから、本を読む習慣を身につけるとよいと思います。読書は新たな知識を得るのに最適な時間の過ごし方ですし、本を読むことで自分自身との対話も進みます。きちんと本を読んでいると「大人度」も高まるかもしれません。

中里 透 経済学部経済学科 准教授
中里 透(なかざと・とおる)
経済学部経済学科 准教授

専門はマクロ経済学・財政運営。最近の論文に「1996年から98年にかけての財政運営が景気・物価動向に与えた影響について」(内閣府企画監修・井堀利宏編『財政政策と社会保障』慶應義塾大学出版会)など。

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