教員が発信する上智の学び

400年前からいまの課題を解決するためのヒントを抽出

川村信三
文学部 教授

歴史をつなぎ合わせ、比較する

川村信三 文学部 教授

 いわゆる「織豊政権」から江戸時代にかけての16・17世紀という時代は、ヨーロッパから渡来した宣教師がキリスト教を日本にもたらし、大きな影響を及ぼしました。私が扱っている研究テーマの中心は、この「キリシタン史」です。 その背景には、もちろんキリスト教の歴史、そしてヨーロッパの歴史がありますし、さらには、受け入れる側である日本社会の歴史があります。 双方の領域を学んでいくという点は、なかなか一般的な西洋史や日本史の講義では見られない、上智大学ならではの特徴だと思います。 例えば、有名な「島原・天草の乱」にキリシタンが深く関係していることはご存じでしょう。ただ一方で、当時の日本には、過酷な課税を強いられていた農民たちの姿がありました。 そこで、これらを複合的にとらえることによって、真相に迫っていくわけです。史学は、決して暗記すればいいという学問ではありません。 歴史上のさまざまな事柄をつなぎ合わせ、比較することで物事が立体的に見えてくる。そこが面白いのです。

まるでタイムカプセルのように

 私がこの研究分野に興味をもつきっかけになったのは、歴史学者・松田毅一先生の本でした。「ヨーロッパに残っている資料を研究しなければ、日本史の全貌は分からない」。その考えにならい、実際、講義では海外の文献を学生に読んでもらうことがあります。 例えば、宣教師たちがイタリア語やスペイン語、ポルトガル語などで書いた文書。ここには、日本の文献には載っていない、その時代の貴重な様子が記録されています。 忘れられた史実が、まるでタイムカプセルのように保存されているのです。また、こんな忘れられない体験もしました。以前、ローマのイエズス会文書館で、ポルトガル人宣教師・ルイス・フロイスが書いた400年前の書簡を閲覧したときのこと。 驚くことに、「10年前のもの」といわれたら、それを信じてしまうほど美しい状態だったのです。歴史を紐解く上で重要な記述内容であるばかりでなく、和紙の上質さや、色あせていない墨。 こうした、日本の技術の素晴らしさを知ることもできました。長い時を経てきた「本物」から多くのことを学べるのも、史学の魅力でしょう。

現代との共通項を見つけ出す

 地域研究に取り組むにしても、国際紛争の解決策を探る際にも、現代の問題と史学は決して切り離して考えるべきではありません。 歴史は結果論として語られがちですが、ぜひ皆さんに目を向けていただきたいのは、そこにどのような迷いや試行錯誤、そして決断に至るまでの流れがあったのかということです。 宣教師のザビエルは、単に先進的なヨーロッパの文化を伝えにきたわけではなく、異質な者同士が理解し合っていくために心血を注ぎました。 また、今でこそ「外交下手」と評される日本人ですが、豊臣秀吉などは非常に巧みな手腕で諸外国と渡り合っていました。数百年前の日本や世界から、現代人も同じように抱えている課題を抽出していく。 これが、私の講義でもっとも目指すところです。知識ではなく「教養」として学んだ史学は、将来どのような方面に進んだとしても、大事な礎となるに違いありません。

川村信三 文学部 教授
川村信三(かわむら・しんぞう)
文学部 教授

著書『キリシタン信徒組織の誕生と変容』(2003年)、『時のしるしを読み解いて』(2006年)、『二十一世紀キリスト教読本』(2008年)、『戦国宗教社会=思想史』(2010年)、編著『超領域交流史のこころみ』(2006年)、『100年の記憶・イエズス会再来日から一世紀』、論文「戦国および近世初期日本におけるキリスト教と民衆」『歴史評論』など。

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