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- 佐藤朋之 文学部ドイツ文学科 教授
自分とはどんな物語なのか?それを探る手がかりは文学の中にある
- 佐藤朋之
- 文学部ドイツ文学科 教授
変革の中で築かれた新たな世界像
いつの世にも、その時代だからこそ生まれた「物語」があります。
18世紀から19世紀にかけてのドイツでは、「ロマンチック」という概念を掲げた作家が多く登場しました。彼らの特徴は、均衡や調和を重視する「古典主義」に対して、神秘的なものへの憧れをテーマとしていたことです。
彼らは、同時期に起こった政治体制や産業構造の変革の影響を受け、また先端的な科学の世界からも積極的に創作のヒントを得ようとしました。
転換期にこそ、想像力はより自由に解き放たれ、新たな世界観が築かれていくのです。
あらゆる「物語」は歴史を背負っている
でも200年も前の出来事なんて、現代に生きる私たちとはあまり関係ないのではないか。
そんなふうに感じられるかもしれません。しかし、想像力と科学が混ざり合い、科学者と文学者の境界線があいまいであった時代。
そんなグレーゾーンから、「エセ科学」やスピリチュアリズムが誕生したという事実は、興味深いと思いませんか? 科学的な根拠が乏しいにもかかわらず、多くの人が信じていたり、惹きつけられたりする「よく分からないもの」は、皆さんの周りにもあると思います。それらを「くだらない」と切り捨てることは簡単です。
しかし、どんな歴史を背負って生まれてきたのか、一歩引いて眺めることで、「あやしげなもの」の正体を見極めることができるかもしれません。
作品を「再生産」する読み方を
文学を学ぶということは、単に感想を述べたり、没入したりすることではありません。
文学は「生きること」を表現したものですから、自分の生き方をふり返ることにもつながりますし、さらにいえば、「自分とはどんな物語なのか」を探り、自分をより素敵な「物語」へと作り変える手がかりにもなるのです。最近の講義では、「白雪姫」を取り上げました。
よくよく読むと、他のグリム童話とはちょっと趣が異なっていることに気づかされます。物語のなかで一生懸命に動き回っているのは姫ではなく、実は白雪姫の母である王妃。つまり、「白雪姫」は「王妃の物語」かもしれない。そうした角度からこの作品を読み直すと、これまでとは違った解釈が可能になると思います。時代によって、また人によってさまざまに受け止められながら、メルヒェンは新しい意味と普遍性を獲得してきました。自分なりに作品を「再生産」できるところに、文学を学ぶ意義と喜びがあるのです。
自分の生き方と学びを関連づける
もちろん、ドイツの文化を研究するからには、語学力を磨き、広く深い知識を得ることが不可欠。
簡単なことではありませんが、大学の4年間でなければ学べないことが多くあります。
「これをしなければならない」という姿勢ではなく、「いま自分がやっていること」や「興味をもっていること」と学びを関連づけながら、この貴重な時期を過ごしていただきたいと思います。ぜひドイツ文学科で、「自分の物語」を見つけるきっかけをつかんでください。
- 佐藤朋之(さとう・ともゆき)
- 文学部ドイツ文学科 教授
ドイツ・ロマン主義時代の文学と自然科学が専門。最近は、当時の科学者による<超能力>研究や代替医療の思想史的背景を中心に研究を進めている。