波形に型打ちされた文字盤を覆う七宝の透き通った青さ
松本幸四郎(以下、松本)この小さな円盤の上に、真っ青な海が広がっているよう。美しいですね。このように透明感があるのに奥行きも感じさせる色合いをどうやって表現しているのですか。
戸谷航(以下、戸谷)金属の素地へ独自に調合した釉薬を薄く塗って窯で焼く――。その工程を何度か繰り返し、表面を研磨して意図した色に近づけていきます。焼成温度や時間のわずかなずれでも色合いが微妙に変化するので、色をそろえるためには一つひとつ人の手で調整しなくてはなりません。
松本釉薬を塗るだけでなく、その前段階の釉薬の調合から手がけているとは思いませんでした。手仕事だからこそ出せる色なのですね。七宝と言っても一点物の工芸品の創作とは異なる難しさもあったのではありませんか。
戸谷一般的な商品では釉薬を1ミリから1.5ミリの厚さに塗り重ねるのですが、今回のプロジェクトでは0.3ミリという薄さで濃い青色を出さなくてはなりませんでした。また、セイコー独自の厳しい環境保護基準をクリアするため、一般的な釉薬に約4割含まれている鉛も使えません。無鉛釉薬は小さな気泡ができやすいのです。しかも、量産品なので仕上がりをそろえる必要があります。どれを取っても私にとって初めての経験で、「これでいける」という方向性をみいだすまで時間がかかりました。
作業の数値化や理屈を超え、経験の積み重ねによって新たな世界を切り開いていく戸谷さんの姿勢に、松本さんも自らの仕事への思いが重なるようです。
「光の当たり具合によっても色合いが微妙に変化して、見ていて飽きませんね」と
プレザージュを手にして話す松本さん。