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トップ>特別企画>常磐興産株式会社代表取締役会長・斎藤一彦氏×2014年度卒業生 中央大学座談会

特別企画

常磐興産株式会社代表取締役会長・斎藤一彦氏×2014年度卒業生 中央大学座談会

復興への道を歩む、震災後の東北を見つめて

震災から得たさまざまな「気づき」

平山令二

中澤
 東日本大震災は、地域はもちろん人々の心にも大きな影響を与えました。卒業生の皆さんも、被災地域を訪れたことで心境に変化があったのではないでしょうか。
宮崎
 危機を何とか乗り越えようと必死で生きている方々に出会って、それまで見聞きしてきたニュースに、人の姿が見えるようになりました。今では、被災地の状況を人ごとではなく自分のこととして考えて、もっと向き合って行動したいと思います。また、懸命に働く現地の大人たちの姿を見てとてもカッコいいと感じ、土地に根ざした生き方を尊重する気持ちも生まれました。自分の生き方や、働く理由などを見つめ直すきっかけにもなったと思います。
草野
 私は福島県出身で、震災の翌月に大学入学のために東京に来ました。震災前から決まっていたこととは言え、心のどこかに「自分は逃げちゃったのかな、本当にこれでよかったのかな」という思いがあり、ずっと悩んでいました。でも、福島を東京から見たからこそ気づけたことも多く、今の自分なら戻って何かできるんじゃないかと。地元の友だちも皆、震災をきっかけに改めて福島のことを考えるようになったと言っています。どうしたら故郷の役に立てるかと一生懸命考える、そんな同世代がいる限り、福島の未来は明るいのではないかと思います。
芦沢
 私は父が秋田県出身なので、東北のことはある程度知っているつもりでした。でも実際に被災地に行ってみて、自分は一部しか知らなかったこと、東京にいては見えてこないことがたくさんあることを実感しました。また、被災地の調査研究では、国や行政の人がよかれと思ってやったことでも、必ずしも地元の人のためになるとは限らないと知りました。ここから私が学んだのは、例えその人の意見や行動が自分の意にそぐわなくても、その人なりの信念や正義に従ってやっていることなのだから、頭から否定してはいけないということです。意見が違う人に出会っても、そう心がけるようになりました。
中澤
 違う意見も、頭から否定せずに受け入れるという態度は大事ですね。復興をスムーズに進めるためのポイントと言えるかもしれません。
斎藤
 皆さん、被災地での経験からさまざまなことを学ばれたようですね。私が震災から教えられたのは、人の支えのありがたさです。余震で壊滅的な状態になった後、私の中では「何としてでも社員の雇用を守らねば」という思いと、「もう閉めざるを得ないだろう」という思いがせめぎ合っていました。しかし、皆さんの支えのおかげでほぼ全員の雇用を守ることができました。これは奇跡に近いと思っています。支えてくれた人々はもちろん、残ってくれた社員にも心から感謝したい。今振り返ってみても、本当に人に恵まれたなと思います。

地域や人とのつながりを大切に

中澤
「スパリゾートハワイアンズ」復活の秘訣は、一山一家の精神、外からやって来た人々の支援、そして社員や周囲にいる「人」に恵まれたことにあるのですね。しかし、雇用を守り抜けたのは会長の強い意志があってこそだと思います。その根底には何があったのでしょうか。
斎藤
 我が社の事業地は、いわきと北茨城にしかありません。震災と原発事故ではどちらの地域も被害を受けましたから、ほかに行き先がなかった、つまり逃げられなかったのです。それならこの地で頑張るしかないし、130年近い社歴を私の代で断ち切るわけにもいきません。何としてもこの地を守らねば、何としても会社を復興させねば──。私の根底にはそんな思いがありました。
草野
 逃げようと思えば方法はあるのに、物理的にも精神的にも「逃げなかった」からこそ復活できたのだと思います。私はこれから故郷の福島に戻って社会人になります。その前にいいお話を聞かせていただきました。
斎藤
 逃げなかったのは私だけでなく、社員も同じなんですよ。震災から「スパリゾートハワイアンズ」再開までに退職したのは2名だけで、それも私的な事情があってのことでした。こんなに皆が残ってくれるなんて、私は思いもしなかったんです。ショーを行うフラガールの中には東京や神奈川の出身者もいて、震災で一旦故郷に帰ったので、もうここには戻ってこないだろうと覚悟していました。ところが4月22日にレッスンを再開したら、全員が揃って来てくれたのです。その姿を見て、私は「復活できる」と確信しました。
中澤
 会長のお話からは、土地に深く根ざしているからこそここを出発点にするしかないという覚悟が感じられます。また、物事を動かしていくうえで原動力になるのは、やはり人と人との関係なのだと思いました。お金や経済は二次的なもので、一番大切なのは「人」なのですね。
斎藤
 そうですね。卒業生の皆さんにも、これからたくさんの人と出会ってほしいと思います。長い人生、いいときばかりでも悪いときばかりでもありません。それでも地道にコツコツやっていれば、ときにチャンスがやって来ます。そのチャンスを逃さないようにしてください。我が社の場合は、そのチャンスが映画『フラガール』のヒットでした。おかげで急激にお客様が増え、ホテルの収容人数を増やそうと建て替えている最中に震災が来たのです。一時は絶望しましたが、皆様に助けられ、今はこうして着実に復興への道を歩んでいます。
平山
 私も震災の6か月後に気仙沼市に行き、地元の方々が頑張っている姿を見て、東北の人が持つ底力を感じました。それ以降、毎年学生を連れて現地を訪ねています。今日出席した卒業生は3人とも、地元の方々のお話から多くの気づきを得たと言いましたが、先方も「若い人と話すと元気が出るよ」と言ってくださっています。人を救うのはやはり人。それを知る機会を作るのは大学の使命でもあります。もう一つ、会長がおっしゃった「一山一家」の精神を実行するには、「家」をまとめ上げるリーダーが必要です。復興にはリーダーシップと人を元気づける仕組みが不可欠で、会長はそれを見事に実践されました。こうした先達の業績を、今後も学生に伝えていきたいと思います。

斎藤 一彦(さいとう・かずひこ)/常磐興産株式会社代表取締役会長

1945年、福島県いわき市生まれ。68年に中央大学法学部を卒業し、常磐湯本温泉観光(現・常磐興産)に入社。いわき市に位置する同社の温浴施設「常磐ハワイアンセンター」を「スパリゾートハワイアンズ」と改め、入場者数の増加に貢献する。同社観光事業本部ホテルハワイアンズ総支配人、常磐興産取締役観光事業本部長、同社代表取締役社長を経て現職。

平山 令二(ひらやま・れいじ)/中央大学法学部教授 前学生部長(2013/04-2015/03)
専門分野 ドイツ語・ドイツ文学

1951年新潟市生まれ。東京大学人文科学研究科博士課程(ドイツ文学専攻)中退。山形大学講師などを経て、1984年より中央大学法学部勤務(ドイツ語担当)。専攻はドイツ語・ドイツ文化。現在の研究テーマは、レッシングやゲーテなどの18世紀ドイツ文学・思想。ドイツのユダヤ人文化。ホロコーストからユダヤ人を救った人々も研究している。趣味としては、小学生時代は円生にあこがれ落語家志望。中学・高校は劇画にあこがれ漫画家志望(「少年マガジン」新人賞に二度応募し落選)大学生時代は同人誌で小説を書いていた。どれも物にならず。

司会:中澤 秀雄(なかざわ・ひでお)/中央大学法学部教授
専門分野 政治社会学・地域社会学

東京都出身。1994年東京大学卒。2001年東京大学から博士(社会学)の学位を取得。札幌学院大学社会情報学部講師、千葉大学文学部准教授を経て2009年から現職。日本社会学会、地域社会学会等に所属。主著は『住民投票運動とローカルレジーム』(ハーベスト社)『環境の社会学』(共著、有斐閣)『平成史』(共著、河出書房新社)など。『住民投票運動と~』により第5回日本社会学会奨励賞、第32回東京市政調査会藤田賞、第1回日本都市社会学会若手奨励賞を受賞。

宮崎 汐里(みやざき・しおり)/文学部卒

気仙沼市で学生ボランティア団体のリーダーをつとめる

草野 大貴(くさの・だいき)/法学部卒

中澤ゼミで震災後のいわき市を調査研究

芦沢 公仁(あしざわ・きみひと)/法学部卒

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