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研究

小宮山 剛司

小宮山 剛司 【略歴

理工学部応用化学科での研究生活

小宮山 剛司/中央大学大学院理工学研究科・日本学術振興会特別研究員DC2

 中央大学での9年間の生活がもうすぐ終わろうとしている。特に大学院では、いろいろな経験をした。アメリカ、オーストラリア、スペイン、オランダ、イタリアの国際会議で発表し、ベルリン工科大学に短期留学し、原著論文や総説を書いた。プライベートでは素敵な女性と結婚し、結婚式も挙げた。修了式を間近に控えたある日、本学研究助成課の鈴木さんから、大学院生活についての寄稿を提案いただき、僭越ながらお引き受けさせていただいた。ひとつのサンプルとして、学部生や進学を迷う大学院生の参考になれば幸いである。

1.研究室配属から博士後期課程修了まで

 エネルギー問題や石油化学に関する問題を解決する研究者になりたいとぼんやり考えていた。化学系で研究者になるためには大学院を修了しなければいけないと聞かされ、学部2年生の冬頃、大学院への進学を意識した。学部3年時、大学院にわざわざ進学するからには良くも悪くも厳しい研究室がいいだろうと考え、当時、定員が毎年2人という少人数の環境に惹かれたこともあり、2月末の研究室配属では、檜山為次郎先生の研究室を選択した。檜山研では、有機化合物の新しい合成法(簡単にいえば、有機分子を連結させる方法論)の開発を行っている。新しい反応がみつかれば、これまでにない有機分子が合成可能になり、新しい機能の開拓につながると期待し、皆で切磋琢磨している。

 独特の匂い、見慣れない実験器具、かっこいい先輩たちに囲まれ、学部4年の4月、実験技術を学ぶという名目で、先輩が手がけていたテーマを手伝うことになった。意気揚々と実験を始めたが、何度実験しても先輩と同じ結果が得られず、私の実験が下手すぎるのではないかと、ひどく落胆した。これが私の研究生活のスタートである。先輩と共にいろいろ調べた結果、入念に除去しておくべき不純物が、今回のケースでは逆に反応を促進しているとわかった。研究に予断、思い込みは禁物で、でてきた結果を真摯に受け止めるべし、などと当時は思えず、ただ自分の実験操作が悪かった訳ではないと安堵した。

 同年9月に初めて自分の研究テーマを貰った。研究テーマは、とある分子を簡単に合成する手法の開発であった。ゴールが与えられ、その手段は基本的に自分に一任された。先輩に教えを請いながら文献を調べたり、あれやこれやと実験したものの、反応効率は20%に留まった。卒業研究の発表が迫り、焦りで闇雲に実験したが、どれもうまくいかなかった。暗澹たる気持ちの中、自分なりに作業仮説をたてて反応液の濃度の影響を調べてみたいと教員に伝えた。あまりいい顔をされなかったが、こっそり実験してみると、反応効率が劇的に改善し、関係者皆びっくりであった。当たり前だが研究の正解?は誰も分からない、とにかく仮説を立てて自分で手を動かすことの重要性を思い知った。この成果をひっさげ、年度末の学会で発表させて貰えることになった。卒研発表や学会の準備に追われ、研究室で寝泊りを繰り返しながら、なんとか1年を走り抜けた。

 その間、隔週で行われる報告会と文献抄録会(他人の研究成果を紹介する会)を通して、他人と同じ研究をするな、誰も考えていないことを考えろ、論文のための研究はするな、その先のビジョンを描け、そんな事を言われ続けてきたので、修士課程に進学してしばらく研究を進めているうちに、何ができたら面白いか、意義があるかということを常に考えるようになった。研究では、「何が明らかになっていないのか」をまず把握しなければならない。これは本やネットを調べても書かかれていないため、自分で考えるほかない。この着想力、発想力が研究者になるために重要であると思う。ぽつぽつとアイディアが出てくるようになると、それを研究したいと思うようになる。果たしてそのアイディアを実現できるのか、自分にそれを達成できる能力はあるか、それらを検証するには修士課程の2年間では短すぎると思うようになった。こうして修士1年の冬になりかけた頃、博士後期課程に進学を決めた。一回きりの人生なので進学しなければ後悔すると思ったし、自分の力を試したい気持ちもあった。(なお、初めて進学の意志を両親に伝えたとき、両親からの理解は得られなかった。学生生活を2年も延長している私がもうしばらく学生を続けたいと言い出したので、さぞ困惑させたと思う。自分の進路について親から口を出されたのはこれが初めてだった。幾度か説得し、最後は背中を押してくれた。深謝。)

 進学意志を伝えたこともあり、修士2年からは教授室で研究の進捗や展望について議論する機会が週に一回設けられるようになった。進捗を急かされたり、新テーマのアイディアを提案してはダメ出しされ、の繰り返しであった。(思い返すと胃が痛くなる。)先生の口癖、他人のにおいがする研究はするな、を意識しつつ、いろいろ知恵を絞り、実験を繰り返して、幸いにも博士論文のテーマになったトリアルキルシリル型反応剤を用いるクロスカップリング反応に辿り着いた。こんな反応ができたら面白いな、から始まり、運良く芽が出た結果である。初めて自分で書いた論文は紆余曲折を経て、最終的にドイツの学術誌Angew. Chem. Int. Ed.誌に速報として受理された。論文はMITの材料化学者Swager教授からの推薦によりSynfacts誌で紹介され、続報も同誌に受理されHot Paperに採択されるなど、有り難いことにそれなりに評価して貰えた。博士1年の冬、講演に来たベルリン工科大学のOestreich教授と研究ディスカッションする機会が貰え、良い研究してるなと褒められたので調子に乗って短期留学の打診をしたところ受け入れて貰え、博士2年の秋に短期留学を経験することができた。帰国し、就職先を決め、公聴会を終え、博士論文を提出して今に至る。怒涛の6年間であった。

2.おわりに

 学とはならふと読み、すべて自己よりも優れた人々の善事・善行を模倣して、自分もその地位にまで達することを意味する。幕末志士、橋本左内が残したこの言葉は、実験テーマの考え方、実験計画の立て方、実験結果の解釈、論文の書き方、プレゼンテーション技法、などなど、一連の大学院での学びにピタリと当てはまる。5年後10年後世界はどうなっているか予測が難しい現代において、大学院に進学し、研究の基礎をしっかり身に付けることは悪い選択ではないと思う。

 中央大学には国際会議の発表支援制度があり、年一回、移動・宿泊などに必要な経費を支援してくれる。博士進学しない修士学生が海外で発表させて貰えるケースは珍しく、他大学の学生にしばしば驚かれる。短期留学にかかる費用も中央大学から支援いただき、本当に感謝している。学会などを通じてできたライバルとも戦友ともいえる仲間は、一生の財産である。このような環境を提供してくれる大学に改めて感謝すると同時に、より良い社会の実現に自分も一役買えるようこれからも邁進し続けることをここで約束し、本稿の結びとする。

小宮山 剛司(こみやま・たけし)/中央大学大学院理工学研究科・日本学術振興会特別研究員DC2
埼玉県出身。1991年生まれ。2014年中央大学理工学部応用化学科卒業。2019年中央大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。2017年11月にベルリン工科大学に訪問研究員として短期留学。2018年より日本学術振興振興会特別研究員DC2。2019年4月より化学企業に就職。大学院では、安定な有機ケイ素反応剤を用いるクロスカップリング反応の開発に従事。その間、第32回中央大学渋谷健一奨励賞、2019年;第22回ケイ素化学協会シンポジウム 優秀ポスター賞、2018年;第65回 有機金属化学討論会 優秀ポスター賞、2018年;第97回 日本化学会春季年会 優勝講演賞(産業)、2017年;第71回 有機合成化学協会関東支部シンポジウム 優秀講演賞、2016年;第5回 日本化学会化学フェスタ 優秀ポスター賞、2015年 などを受賞。発表論文はこちら

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