本研究の関心は、知的障害者家族の親子関係です。1970年代、日本の全身性障害者は、自由に地域で暮らすことのできる生活を求め、障害者自立生活運動を行いました。そして現在、多くの全身性障害者・身体障害者は、自身で集合住宅の一室を借り、介助者によるケアを受け、生活をしています。しかし、知的障害者における自立は、なかなか進んでいないのが現状です。現在、障害者総合支援法(2013年施行)の下、知的障害者が、親ではなく、大型施設でもない地域で、大勢により制限された暮らしに悩まされることなく自由に生きることのできる生活が保障されていますが、知的障害者の多くが、親が老いによって自らも他者のサポート(介護)が必要になるまで、家族と同居生活を送り続けているのが現状です。現在施行されている制度以前は、まず、知的障害者が利用できる制度が十分に整えられていない現状を改善する必要がありました。そのため、知的障害者をめぐる自立に関する研究では、「制度」に焦点を当てたものが主流でした。その研究の成果が実り、現在の制度に至る功績はとても大きいことには間違いありませんが、それ以降も大多数の知的障害者の生活環境は依然として根本的な変化を見ないままです。そこで、研究者が、「親子関係」に焦点を当て調査に出てみると、知的障害者と親には、子の自立が必要とは意識しながらも、手元から離すことができない葛藤が見られました。
全ての知的障害者というわけではありませんが、まず、多くの人にコミュニケーションにおける困難があります。単に言葉による発話というだけでなく、考えることに難しさがあります。そのため、親には、将来の希望を子に尋ねたり、将来の選択を子に委ねたりすることができないという前提があります。また、知的障害者にはさまざまな“こだわり”があります。研究者自身にも知的障害のある兄弟がいますが、出かけ先で知らない場所に入ることを強く拒むことや、コップや花瓶などに水が入っているのを見つけるとかまわずに飲み干してしまうなど、知的障害者には、本人が決めたら譲れない行動が多数あります。親は、共に生活するためにこの一つ一つの“こだわり”に向きあい日々生活を送っていますので、その個々の経験や“こだわり”を他者に伝え、新たに福祉サービスを利用するということには様々なハードルがあると考えるわけです。親が子を“離し難い”つまり、自立が進まないという状況は、こうした、さまざまな文脈によって形成されています。紙幅に限りがありますので、知的障害者の親が抱える“離れ難さ”の要因全てを挙げることはできませんが、このように、本研究では、従来「制度」をよりよいものにすることに着目し行われてきた自立研究の焦点を知的障害者の「親子関係」に移し、知的障害者の自立の再考に取り組んでいます。
修士課程のころと大きく変わったことは、博士過程の学生は、より一層、口頭報告や投稿論文を通して自身の研究を対外的に発表することが求められるということです。そのために、調査を行い、構想を練り直すことはもちろんですが、国内外の研究者と交流し、議論をしながら論考を重ねる必要があります。また、社会学は、社会との関わりにおいて考える学問ですので、広範かつ多角的な視点から議論を展開するためにも、自身の研究領域や対象に足場を固めながらも、その背後にある社会に対してもアンテナを張り続ける必要があります。そこで、日本学術振興会の特別研究員としていただくことのできる特別研究員奨励費というものが大きな助けとなります。
今年度は、2018年5月19日家族問題研究会大会(早稲田大学)、2018年6月10日関東社会学会大会(武蔵大学)、2018年9月1日理論社会学会大会(愛媛大学)、2018年9月9日家族社会学会大会(中央大学)、で発表を行いました。またこれから、2019年3月17日関東社会学会2018年度第2回研究例会(東洋大学)、2019年5月8〜10日いずれか1日Nordic Network Disability Research.(UCC Campus Carlsberg. Copenhagen. Denmark.)での報告を予定しています。
さらに、二つの国際学会に参加することができ、世界中の研究者との交流を図ることができました(2018年9月11日〜13日Lancaster Disability Studies Conference(Lancaster University. Lancaster. UK.)、2018年10月1〜3日Global Social Economy Forum(Bilbao. Spain))。
国内外のフィールドワーク調査では、大阪(日雇い労働、貧困、被差別部落、在日外国人の問題)沖縄(米軍基地、戦争、ジェンダー、障害者やマイノリティの問題)において短期調査を行いました。それから、スウェーデンやデンマークを再訪し、知的障害者における自立生活の先駆的な実践について調査を行うなど、多くのフィールドへ積極的に足を伸ばすことができました。これらの多くは(一部、中央大学大学院による研究発表に対する助成)特別研究員奨励費によって支えていただいたものです。
日本学術振興会の研究員は、研究をなによりも優先することが求められるため、例外を除き副業が認められていません。よって、現場で報酬を得ながら対象について観察するという調査のスタイルを継続することができないなど懸念される点も多々あることは確かです。しかし、博士課程という期間、日本学術振興会の研究員として研究を行うことで得られるチャンスもこのように数多あります。揺るぎない研究テーマを発見し、研究計画書を作成し、申請することは、容易ではないことも事実ですが、もし、できることでしたら、日本学術振興会特別研究員DCへ挑戦されることを強くお勧めします。
最後に、限りある博士課程での期間、研究に集中できる環境に感謝し、今後も博士論文を通して研究を結実できるよう、精一杯取り組んでいきたいと思います。
2019年冬号
学生記者が、中央大学を学生の切り口で紹介します。
外務省主催「国際問題プレゼンテーション・コンテスト」最優秀の外務大臣賞に 及川奏さん(法学部2年)/赤羽健さん(法学部1年)
Chuo-DNA
本学の歴史・建学の精神が卒業生や学生に受け継がれ、未来の中央大学になる様を映像化
Core Energy
世界に羽ばたく中央大学の「行動する知性」を大宙に散る無数の星の輝きの如く表現
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