大学教員としての業務は、教育・学内業務・研究の3つに大別できる。学生や保護者、卒業生などにとって、教育は学生との接点として最も理解されやすい。また、大学が組織である以上、入試や各種委員会、教授会などの学内業務もある程度はイメージできよう。
他方で、研究となると大学教員数以上の専門分野があり、対外的には非常に分かりにくい(ゆえに本媒体のような広報が重要)。ましてや「在外研究」と聞いて、現役学生は「先生が突然いなくなるやつか!」とか「●●ゼミに入りたかったのに!!」と慨嘆[i]したことを思い出すかもしれないが、「国外で研究する」という字面以上の内容を想像し難いであろう。
筆者は現在、学部間協定校であるタイ・チュラロンコン大学・経済学部にて在外研究に従事している。在外研究の魅力と必要性について、現場でネタ探しとネットワーク構築の観点から少しでもお伝えできれば幸いである。もちろん研究は十人十色であり、本稿はあくまでも個人の見解である。
在外研究の魅力の一つとして、現場との近接性が挙げられる。筆者のような実証研究を専門とする研究者にとっては、最大の魅力と言っても過言ではない。
タイのリサイクル工場で再生プラスチックの
品質を確認する筆者
具体的な事例を示すと、中国廃棄物輸入規制によって中国に依存してきたリサイクルの在り方の見直しが世界中で課題となっており、在外研究先のタイも例外ではなく対応に迫られている[ii]。メディアはファクトを伝え、政府機関はファクトから対策を取る。研究者はその対策を理論から検証して一般化し、中長期的な課題を導出することが求められる。
経済学を専門としている以上、数量データで分析することが必須である。ただし、筆者の研究対象は廃棄物やリサイクルであり、数量データだけでは確認できない技術や品質の問題があるため、現場で現物を見て現実を知ることも(論文に書けなくても)同様に重要となる。
すぐ行動できる現場の近くに身を置き、現場の声を聴き、現物・現実を確認できる在外研究は、代えがたい魅力がある。また、仮説を1つ検証すると、3つ程度の新たな課題が見つかることは現場の魅惑であり、在外研究は今後の研究課題の「ネタ」の宝庫といえる。
現場で情報をインプットすれば、当然、研究者は論文投稿や学会発表でアウトプットすることが求められる。論文投稿は日本でも可能であるが、国際学会等での国外発表は、通常業務中では日程調整が難しく発表の機会を逸することも数知れない。これに対して、在外研究中は頻繁に発表することが可能となる(のでストレスは、ほぼ自分の「能力」だけとなる)。
タイに着任して半年間で、筆者は本学の商学部と経済学部が連携しているタイのパンヤピワット経営大学(PIM)で開かれた国際会議での招聘報告[iii]や、ネパールで開催された日本学術振興会の国際シンポジウムで基調講演[iv]をしてきた(あと半年で5回は国際学会等で発表予定)。
ネパールでの国際シンポジウム後の
レセプションで現地化?!
初訪問のネパールでは、日本大使公邸での夕食会に招かれたり、合間を縫って廃棄物関連施設を訪問したり、レセプションなどでの異文化交流をしたり、機中でエベレストを臨めたり、とプラスαで得られるものも多かった。
初めての国で初めて出会った研究者であっても、研究内容を談笑しているうちに、共通の知人がいることが発覚することは非常に多い。「世界は広く、そして狭い」と実感できれば、新たな研究ネットワークが構築できた瞬間でもある。これに加えて、次の研究の「種まき」ができることは、国際学会等での国外発表の魅力であり、研究の「蛸壺化」の事前予防にもなる。
筆者が出発する直前に、入れ違いで在外研究から帰国した同僚が「人生で最も幸福な研究時間ですよ」と送り出してくれた。まさに言い得た表現だと、在外研究中に痛感している(ので、日本に戻りたくない気持ちは当然芽生える)。
他方で、研究以外の教育や学内業務において、在外研究で得た研究ネタやネットワークを「宝」に昇華させる作業は、学会発表や論文投稿とは異なる研究の社会還元の派生形として、帰任してから肝要となろう。
「日本の大学教育は役に立たない」と言う社会人の多くは「大学で何を研究したのか?」という問いに対して答えに窮する傾向がある。研究の第一歩として必要な能力の一つは、課題発見能力や課題設定能力であり、これらはAI(人工知能)時代に必須となる能力と言われている(が、どんな業種・職種でも既に必要なはずである)。
これらの能力を学生に教育するためには、多種多様な専門分野を持つ大学教員が不可欠であるし、個々の教員も数多くの課題が入った「引き出し」を保有していなければならない。
したがって、在外研究で得た研究ネタの宝庫から、新たな教材を棚卸しすることによって、大学教育でも大いに活用できる。また、在外研究で得た研究ネットワークは、国外研修プログラムの開発や国外協定校の発掘、留学生の獲得、学内改革の比較分析など多様な学内業務に生かすことも可能である。
教育・学内業務・研究が鼎立するのではなく、バランス良く歯車のように噛み合って回転していなければ、高等教育・研究機関として本学も今後生き残れないであろう。本稿が在外研究の理解への一助となり、学内外の関係者からの更なるご支援に繋がることを願ってやまない。
2019年冬号
学生記者が、中央大学を学生の切り口で紹介します。
外務省主催「国際問題プレゼンテーション・コンテスト」最優秀の外務大臣賞に 及川奏さん(法学部2年)/赤羽健さん(法学部1年)
Chuo-DNA
本学の歴史・建学の精神が卒業生や学生に受け継がれ、未来の中央大学になる様を映像化
Core Energy
世界に羽ばたく中央大学の「行動する知性」を大宙に散る無数の星の輝きの如く表現
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