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トップ>研究>超巨大地震サイクル解明に向けた三陸海岸における沖積層・地殻変動研究

研究

丹羽 雄一

丹羽 雄一 【略歴

超巨大地震サイクル解明に向けた三陸海岸における沖積層・地殻変動研究

丹羽 雄一/中央大学理工学部助教
専門分野 地学、地形学、第四紀学

東北地方太平洋岸における地震サイクル

 2011年に発生した東北地方太平洋沖地震では、東北地方太平洋岸の三陸海岸で最大1m強の沈降が起こった[1]。この地域は2011年以前の数10~100年間に関しても沈降傾向であったことが測地観測記録から知られている[2]。一方で、三陸海岸にはかつて浅い海であった場所が隆起してつくられた海成段丘が分布していると従来から指摘され、過去10万~数10万年間では隆起傾向であると言われてきた[3]。短期間では沈降、長期間では隆起という、対象期間によって異なる地殻変動の向きを根拠に、当該海岸では最終的には隆起傾向になるような地震サイクルのモデルがこれまで提案されてきた[4]

地震サイクル解明に向けた地形・地質研究の問題点

 海成段丘の存在が三陸海岸における長期間の隆起傾向の根拠とされているが、実際は地形の認定や形成年代に関する情報が希薄である。例えば、当該海岸南半分で海成段丘とされてきた平坦面の分布は断片的なため[3]、確実に海成段丘と言い切れるものはない。現時点では海成段丘の分布の特徴のみから当該海岸における10万~数10万年間の地殻変動傾向を論じることはできないため、それ以外の地形・地質学的特徴から測地観測よりも長い時間スケールの地殻変動を推定していく必要がある。


図1:三陸海岸の位置と研究背景・問題点・解決すべき課題

地殻変動の記録媒体としての沖積層

 測地観測よりも長期間の地殻変動を推定する上で、三陸海岸に点在する沖積平野に着目して研究を進めている。沖積層は最近1万年ほどの間に陸と海の境界付近の環境で形成されてきた。そのため、採取した沖積層試料から過去の海面付近で形成された堆積物を認定できれば、堆積物の積み重なり方の特徴や、堆積物の分布高度と年代から、地殻変動が推定できる可能性がある。こうした検討を三陸海岸に分布する複数の沖積平野で行っている[5]

図2:沖積層試料の一例:堆積物の粒径・堆積構造・含まれている生物化石の特徴から堆積環境を推定している

三陸海岸において推定される地殻変動

 三陸海岸のうち宮古以南では、沈降によって相対的な海面高度が上昇したことを示す堆積物の上方への積み重なりや、隆起や沈降が生じていないとした際に想定される海面高度よりも低い過去の海面高度が観測され、三陸海岸の南半分は過去数千~1万年間で見ると沈降傾向である可能性が示された[5]。つまり、三陸海岸のうち、少なくとも南半分は過去数千~1万年間の沈降傾向を地震サイクルの解釈に反映させる必要があると考えられる。引き続き、三陸海岸北半分でも沖積層の解析を行い、地殻変動が三陸海岸一帯で同様なのかどうかを検討し、地震サイクルモデル解明に向けた基礎的な知見を収集していく予定である。

  • ^ Ozawa et al. (2011;Nature 475, 373 – 377.)
  • ^ Kato (1983;Tectonophysics 97, 183 – 200.)
  • ^ 小池・町田(2001;東京大学出版会, 105p.) 4. Goldfinger et al. (2013;Seismological research Letters 84, 24 – 32.)など
  • ^ Goldfinger et al. (2013;Seismological research Letters 84, 24 – 32.)など
  • ^ Niwa et al. (2017;Quaternary International 456C, 1 – 16.)など
丹羽 雄一(にわ・ゆういち)/中央大学理工学部助教
専門分野 地学、地形学、第四紀学
愛知県出身。1983年生まれ。2007年東京大学理学部地学科卒業。2012年東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻博士課程修了。博士(環境学)。
東北大学災害科学国際研究所 助教を経て2017年より現職。
専門は地形学、第四紀学。2011年の東北地方太平洋沖地震以降、三陸海岸の地形・地質調査を精力的に行い、超巨大地震サイクル解明に向けた地殻変動の解読に努める。
特に沖積平野の発達過程の復元とそれに基づいた地殻変動の推定に関する研究を主として行っている。

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