私は、もともと理系の大学院で木造建築の耐震性の研究をしており、大学院を辞した後は、教育関係の仕事に従事していました。
その後、医師や建築士など、高い専門性や確かな技術を持ちながら法的弱者である人々を守る法曹になりたいと思い、2010年に中央大学法科大学院の未修コースに入学し、2013年に卒業、同年の司法試験に合格し、現在は、家事相続・不動産・建築紛争・労働問題・医療過誤等、一般民事を取り扱う法律事務所で、アソシエート弁護士として、勤務しています。
法科大学院での3年間は、今思うと、長いようで、あっという間の3年間だったなあというのが実感です。
入学当初は、未修コースと言いながら、自分以外、理系完全未修の人間など皆無の状況で、正直、授業についていくのに四苦八苦、青入り吐息の毎日でした。
しかし、周りの同級生とゼミなどで、熱く意見を交わし、疑問点があればオフィスアワーを利用して質問にいくなど、徐々に法律の勉強にも慣れていき、段々と法律の理解も進むなど、常に法律と向き合った充実した3年間でした。
最近、法科大学院制度について、よく批判的な意見を耳にします。しかし、そのような人たちには「通ってもいないのに何がわかるのか」と、声を大にしていいたい。
少なくとも、自分のような社会人経験者にとっては、10才以上年下ながら、法曹になるという共通の目標を持ち、互いに遠慮することなく熱く討論できるような「同士」ともいうべき仲間は、法科大学院に通わなければ、得られなかったものと断言できますし、彼ら「同士」がいなければ、これほど順調に司法試験に合格できはしなかったと、強く感じています。
私の所属する法律事務所では、家事相続・不動産など広く一般民事の事件を取り扱っていますが、私自身も、家事相続、不動産事件に加え、理系出身という特徴を活かし、医療法務や建築紛争など、医師や建築士など、専門職の人々の関係する案件を多く取り扱っています。
このような医療法務や建築紛争を扱っていて思うことは、医師や建築士など、専門職といわれる人々の所属する医療機関、施工会社、設計事務所といった場所は、同規模の他業種に比べ、法務環境が前時代的かつ脆弱で、医師や建築士といった人々は、高い専門性や技術知識を有しているにもかかわらず、法的には守られていない「法的弱者」であるということです。
たとえば、私は、弁護士会の勉強会や昔所属していた理系研究室の研究会に参加し、医師や建築士さんと名刺交換をする機会があるのですが、その際、「弁護士さんですか。私は、悪いことはしてませんよ(笑)」などといわれることがあります。
他の業種であれば、各種契約に際してのリガールチェックなど予防法務が重要であること、紛争が顕在化しない段階で弁護士の関与が大切であることが、極めて当たり前になりつつある中、経営者レベルの医師や建築士が、「弁護士=悪いことした時に何とかしてくれる人」といった、前時代的法務感覚を持ち続けていることに驚きを隠せません。
ある著名病院の院長と面談した際には、「少子高齢化の中、医師の人材確保、医療機関の継続的経営の安定のためには、労働環境の整備は不可欠です」との話をさせて頂いたのですが、病院長から「日本において、世界的に見て高水準な医療の提供が可能なのは、労働法などと顧みず、医師が献身的に医療を提供してきたからだ。そのような医療環境を放棄しろというのか」と一喝されました。
このような前時代的労務管理意識の低さが、過重労働の医師の離職を招き、過去の全残業代の支払による経営の圧迫など、医療機関における様々な法的問題を招いているといっても過言ではないでしょう。
また、医療事故や、介護施設での誤嚥事故など、いわゆる紛争事案においては、医療機関や介護施設の法的環境が脆弱な中、「出来る限り患者を救いたい、出来る限り入所者の希望をかなえたい」という医療関係者や介護専門職の「思い」が裏目に出た結果、高額な損害賠償など、その責任を問われた事案も少なくありません。
例えば、医療事故においては、専門医が不在で、法的には診療を引き受けず他院への転送も可能であった中、専門医と電話で連絡指示を仰ぎながら治療を行ったが死亡してしまった事案において、病院及び担当医師の責任が問われた事案があります。
また、高齢者の食事の提供において、本人及び家族が強くパン食を希望したことからパンを提供したところ、誤嚥により死亡した事案において、施設及び担当者の責任が問われた事案があります。
これらの紛争は、法的環境が整備されていたなら、回避または早期の解決が可能であったものも少なくありません。
私は、このような法的脆弱な環境に置かれた専門職を守るため、顧問先や関係先の医療機関や介護施設などに対し、各種契約の際のリーガルチェック、雇用契約書や就業規則の整備などを推奨しています。
また、院長や経営幹部、専門職向けのセミナー、勉強会、クレーム事例を取り扱ったワークショップ等開催を提案していますが、これらは、正しい法務感覚を身に着けるのに有用なものとして、医療機関や施設からのニーズが高く、その実施に際し、法科大学院で行った実務体験型授業や、同級生と熱く議論を交わしたゼミでの経験が、十分に活かされていると感じています。
ここまで、法的弱者である専門職を守るということを強調してきましたが、法的弱者である専門職を守るということは、専門職の提供するサービスの質を向上させ、ひいては、サービスの提供を受けるすべての人々の利益につながることも忘れてはいけません。
私も、専門職にとどまらず、全ての法的弱者を守れるように、あるいは、全ての法的弱者の利益に貢献できるように、これまで以上に専門性を高め、信頼される法曹になるために、一層精進していきたいと思います。
2019年冬号
学生記者が、中央大学を学生の切り口で紹介します。
外務省主催「国際問題プレゼンテーション・コンテスト」最優秀の外務大臣賞に 及川奏さん(法学部2年)/赤羽健さん(法学部1年)
Chuo-DNA
本学の歴史・建学の精神が卒業生や学生に受け継がれ、未来の中央大学になる様を映像化
Core Energy
世界に羽ばたく中央大学の「行動する知性」を大宙に散る無数の星の輝きの如く表現
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