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人―かお

小田 格さん 【略歴

私の仕事と研究――大学評価と言語政策

小田 格さん/公益財団法人大学基準協会総務部総務企画課長、大学評価研究所特任研究員

 2018年もスポーツの話題には事欠かない一年でしたが、そのなかでも大谷翔平選手のメジャーデビューには絶大なインパクトがあったように思います。彼の最大の特徴は投手と打者の「二刀流」ですが、これには今なお賛否両論があります。もとより日本では1つの事柄に専念することこそが美徳とされ、そうでなければ「二兎追うものは一兎も得ず」というような批判がついてまわるのが常です。もっとも、最近ではこうした旧来の風潮に物申す人も徐々に増えてきているようにも感じます。

私の仕事――「大学評価」

 私は大学院の修士課程を修了してから、大学基準協会という団体の事務局に勤務しています。

 大学基準協会は1947年に設立されたわが国で唯一の国・公・私立大学を横断する大学団体です。今では、高等教育に関する調査研究や海外の関係機関との連携などさまざまな活動を行っていますが、メインとなるのは評価事業です。

 残念ながらあまり知られていないのですが、日本には「認証評価」という高等教育機関の評価制度があります。この制度では、大学と短期大学は7年に1度、ロースクールなどの専門職大学院は5年に1度、文部科学大臣の認証した機関の評価を受けることが義務づけられています。また、制度によって義務づけられてはいませんが、今日では、医学や薬学などの専門分野のプログラムを評価する動きも広がりつつあります。

 現在、大学基準協会では、大学、短期大学、7分野の専門職大学院の認証評価と、獣医学分野のプログラムの評価を実施していますが、いずれも大学の教職員をはじめとした専門家の方々に委員に就任していただき、大学から提出された書類や実地調査の結果に基づき評価を行ってもらいます。そのため、事務局はいわば裏方であり、評価プロセスが円滑に進むよう各種の調整・準備を行ったりすることが仕事の中心ですが、とはいえ、高等教育制度や評価システムを熟知していないとしっかりとした黒子の役割も果たせませんから、関連情報の収集や調査研究なども欠かすことができません。

 ところで、どうして大学の評価を行う必要があるのでしょうか。これにはいくつかの回答が考えられますが、ここではその1例をお示ししたいと思います。

「あなたの学位は応募の資格を満たしません」。せっかく頑張って大学を卒業したのに、もし就職希望の企業や進学したい大学院からこのようにいわれたら、みなさんはどう思われますか? 日本国内ではおよそ想像できないかもしれませんが、海外ではこうしたケースに遭遇することもあるかもしれません。

 グローバル化が進展している昨今、国境を越えた人材の流動はめずらしいことではなくなりました。しかし、各国・地域の高等教育制度は依然として一様ではありません。このような状況下では、国際的な動向を十分に踏まえながら、学位の通用性を高めるために、それぞれの国・地域で高等教育機関の評価を行い、質の保証を図ることも必要となってくるのです。

 さて、背景の説明が長くなりましたが、私は大学基準協会で、はじめの7年間は専門職大学院の認証評価に携わり、その後は広報やコンプライアンスに関する業務に従事しています。

 専門職大学院の認証評価は、ロースクールを皮切りに、経営系専門職大学院(経営管理、技術経営、会計等)、公共政策系専門職大学院などの分野を担当しましたが、各界の第一線で活躍する先生方との仕事は非常にエキサイティングなものでした。また、現在の部署に異動してからは、創立70周年の記念事業や研究所の設立など大きなプロジェクトに取り組むこともでき、貴重な体験をすることができました。

私の研究――「言語政策」

台湾評鑑協会(TWAEA)でのプレゼンテーション

 普段は上記のような仕事をしていますが、業務時間外では修士課程以来の研究も続けてきました。私は法学部法律学科を卒業してから文学研究科中国言語文化専攻に進んだのですが、主に研究しているのは中国の言語政策です。

 中国では、非常に多くの言語が使われていますが、漢民族の言語である「漢語」も決して一枚岩ではなく、その内面はとても多様性に満ちたものとなっています。「普通話」と呼ばれる標準中国語と、長江以南で使用されている諸方言、例えば上海語や広東語などとは、ヨーロッパの個別言語と同じくらいの差異があるといっても過言ではありません。こうした中国東南部の諸方言が放送領域でどのように使用されており、またこれをめぐる政策がどのようになっているのか。これが近年の主要な研究テーマとなっています。

 最近では、社会人で大学院に進学する方も少なくないですし、企業や官公庁に所属しながら研究を続けている方に学会等でお会いすることもあります。私は仕事をしながら論文を書いたり、学会で発表するのは大変ではないかとよく聞かれます。

 もちろんサラリーマンですから一定の時間的制約はありますが、今では大学の先生方も研究以外の業務に割く時間が多いはずです。また、学部からストレートで大学院に進学した学生も、よほど裕福な家庭の方は別として、時間的・経済的には厳しい状況にあるように思います。こうした意味では、みなそれぞれ限られた時間とお金を使って研究されているので、とりわけ社会人だけが大変という訳でもないでしょう。

 私の場合、自分の業務に直結する研究を行っている訳ではありません。しかし、仕事と研究が無縁かといえば、そうでもありません。

 例えば、近年では台湾の評価機関と交流する機会が多く、中国語で発表を行ったり、通訳をしたりすることもありますが、これは研究を続けてこなければ難しかったと思っています。また、私は、数年前から法学部の「総合講座1 グローバル化世界における多言語主義」という科目で中国語圏の言語政策に関する授業を担当していますが、ここでは自分の研究成果を教育に応用することができるとともに、大学の現場に教員として立つことによって、通常の業務を行ううえでの多くの示唆やアイデアを得ています。

 このほか、数年前にはグローバル・コミュニケーション分野の専門職大学院の認証評価事業の立ち上げ業務を担当したのですが、その際に検討を行って下さった委員の先生に、ある学会への入会を勧められ、今年はそこで発表することにもなりました。仕事と研究の接点が生まれる瞬間には、いつも不思議な気分と痛快さを同時に味わっています。

 いかがでしたでしょうか。「へぇ~、なんか変わった人もいるんだなぁ」という感想をもっていただけたとしたら、今回、私に与えられた役割は十分に果たされたのではないかと思っています。人生は1度きりです。何か1つに打ち込むことも素晴らしいですが、私はこれからもマルチタスクでユニークなことをやっていきたいと思っています。

小田 格(おだ・いたる)さん
東京都出身。2002年中央大学附属高等学校卒業。2006年中央大学法学部法律学科卒業。2008年中央大学大学院文学研究科中国言語文化専攻修士課程修了。同年財団法人大学基準協会事務局入局。2018年日本言語政策学会第20回記念研究大会発表賞(一般研究発表部門)受賞。

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