私は現在、神奈川県議会議員を務めさせていただいております。議員と聞いて「お祭や行事に来て、挨拶をして帰る人たち」と思った方、正しいです。イベントに来賓として参列するのは、地元活動のひとつではあります。ただ、それだけではなく多種多様な活動をしているのですが、一般の方からすると想像の域外なのかもしれません。
では、地方議員は日頃どのような活動をしているのか。私の例で恐縮ですが、【地元活動編】と【議会活動編】とに分けて報告させていただきます。
冒頭記したように、お祭や行事にはよく出席します。来賓として招待されるのが大半ですが、オープンなイベントには招待されていなくても積極的に顔を出します。地域の人たちと直接触れ合っていろいろなご意見を伺うためです。焼きそばを買いながら、売り子のおばちゃんと何気ない会話をするのが楽しかったりします。
街頭演説もやります。通勤・通学時に、駅でマイク持って演説している政治家をお見掛けになることがあると思いますが、あれです。やる場所や時間帯によって、話の長さや内容を変化させています。朝の通勤時、人の流れが速い駅でやる場合は、キーワードを強調した1分や3分の内容を、午後のバスロータリーでやる時には、バス待ちのお客さんは5分~10分はとどまっていらっしゃるので、ゆっくりとした口調で少し長めで深い内容を、といった具合です。また、朝早い時はうるさくないようにマイクの音量を低くしたり、場合によってはノーマイクでチラシだけ配ったり、臨機応変にやっています。
お困りごとの相談は随時やっております。道路の舗装、河原のゴミ処理など土木関係が多いですが、いじめや高齢者福祉などのご相談もあります。そのつど、解決に向けて関係各所と協議・協力をしていきますが、当事者の言い分をそれぞれ伺い、状況を整理・確認することに留意しています。
議場で「演壇」に立ち「演説」をする。代表質問や一般質問と呼ばれるものですが、これが典型的に想像される議員の姿だと思います。行政執行部に対し、議員独自の政策や想いをぶつける絶好の機会であり、議員にとっては最高の見せ場でもあります。故に、やる気度や(いい意味での)緊張感はMAXになりますが、その反面、入念な準備が必要となります。
日頃から関心を持っているテーマについて、改めて、情報収集・問題点整理、そして解決策を考えます。その過程で、行政当局に現在の状況や施策について確認・議論します。時には議論が沸騰し険悪な雰囲気になることもありますが、本音で語り合うことで内容も深まり、ふいに新たな道筋が出てきたりします。議員の視点とお役人の視点との融合の結果でしょうか。
こうして本番を迎え、本会議場で「演壇」に立ち「演説」をすることとなります。稀に原稿無しで演説される議員もいますが、ほとんどが原稿を読む形となります。とはいえ、抑揚や時間配分を気にしたりと、壇上では頭をフル回転させています。心臓もバクバクしていますが、中央大学在学時に辞達学会(弁論部)で鍛えられたお陰か、外見上は落ち着いて見えるようです。「貫禄あるなあ」とお褒めの言葉をいただきました。
議員の質問(提案)に対し、行政執行部からの答弁があります。はぐらかす内容のものもあれば、その提案やっていきましょうという前向きな内容のものもあります。公式の場である本会議で、いかに前向きな答弁を引き出すかが、議員の腕の見せ所です。この際のポイントは「共感」だと思っています。提案した内容が、「確かにその通り、そうした方がいい、そうすべきだ」と「共感」できるものであれば、たとえひとりの議員の発言であっても、行政側は動いてくれます。この点は地方政治の醍醐味といえるでしょう。
例えば、以前私は、代表質問で「オストメイト支援」について取り上げました。病気や事故などが原因で腸壁に人口的に作られた便や尿の排泄口を持っている人のことを「オストメイト」、排泄物を貯める袋を「ストーマ用装具」といいますが、ストーマ用装具は、使用者の肌に直接触れるものであるため、材質や形状など多種多様であり、オストメイトの方はそれぞれ自分に合ったストーマ用装具を使っていらっしゃいます。多種多様のため、大規模災害発生時に備えて公的に備蓄するのは難しく、なかなか進んでいないのが現状です。しかし、オストメイトの方は装具なしでは、即、要支援者になってしまいます。公的備蓄は難しくても、使用者が使い慣れたストーマ用装具を自分で準備し、これを指定避難場所等に保管しておく、つまり「保管場所を提供する」ことは可能なのではないか、との提案に、知事からは「保管場所の確保について、まだ実施していない自治体と課題を共有し、実現に向けて働きかけていく」との答弁を得、その後、実際に保管場所の提供が実現しました。「共感」が得られた結果だと自負しています。
本会議のほかに、議員は各種委員会に所属し、ここでの議論も活動の主軸となります。私は現在、産業労働常任委員会に所属し、神奈川県の経済・エネルギー・雇用関係について議論しています。
加えて、視察活動があります。他所でよいとされているモノやシステムを学んで、自分の地域でも応用すべく視察に行くわけですが、「百聞は一見に如かず」は正にその通り。伝聞やイメージより、実際に見てきた方が格段に議論が深まります。
ところで、私は中央大学大学院戦略研究科修士課程(以下、CBS)で学ばせていただきました。CBSは「失敗の本質」や「SECIモデル」で有名な野中郁次郎先生の流れを汲んでいるビジネススクールですが、ここで学んだ組織論や知識創造論は、今の仕事においてとても役立っています。オストメイト支援の話も、オストメイトの方とたまたま交わした会話の中から浮かび上がった問題点でしたが、たまたまの話が県の施策として実現したそのプロセスは、SECIモデルの発露といえます。
学問的部分もさることながら、CBSで熱心な教授陣にご指導いただき、多彩な学友に出会えたことは私の財産となっています。
ここまで、私の体験的な「地方議員活動」を報告して参りました。拙い文章で申し訳ありませんが、議員の仕事のイメージをつかんでもらえたら幸いです。
議員としての任期も終盤に入り、仕事のおもしろさ、楽しさ、を感じると同時に、難しさ、力量不足を痛感しているところです。「果たして自分は議員としてどれだけ仕事ができているか」と反省ばかりの毎日ですが、多くの皆さまからいただいている信任とご縁に感謝して、今後も精進して参ります。
2019年冬号
学生記者が、中央大学を学生の切り口で紹介します。
外務省主催「国際問題プレゼンテーション・コンテスト」最優秀の外務大臣賞に 及川奏さん(法学部2年)/赤羽健さん(法学部1年)
Chuo-DNA
本学の歴史・建学の精神が卒業生や学生に受け継がれ、未来の中央大学になる様を映像化
Core Energy
世界に羽ばたく中央大学の「行動する知性」を大宙に散る無数の星の輝きの如く表現
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