Chuo Online

  • トップ
  • オピニオン
  • 研究
  • 教育
  • 人‐かお
  • RSS
  • ENGLISH

トップ>オピニオン>衆院総選挙、このあと小池都政はどうなる?

オピニオン

佐々木 信夫

佐々木 信夫 【略歴

衆院総選挙、このあと小池都政はどうなる?

佐々木 信夫/中央大学経済学部教授
専門分野 行政学、地方自治論

本ページの英語版はこちら

―良くも悪しくもこの1年余、日本政治に旋風を巻き起こしてきた人物がいる。都知事・小池百合子なる人物がそれだ。知事選、都議選、衆院選と続いた小池氏の動静を読む。―

飽くなき“権力亡者”にいつまでつき合う

 1つは首都の政治。5年も経たぬ間に3人も都知事が途中辞職した東京。その立て直しを期待され、昨年7月31日の都知事選で291万票を得て当選したのが小池百合子氏。今年7月2日の都議選で自ら立ち上げた地域政党「都民ファーストの会」を大勝(55議席)に導き、都議会自民を大敗(23議席)させた。都議会ドンとか都庁を伏魔殿と呼ぶなど敵視戦略で2つの選挙を制してきた。都議選に大勝利した瞬間が小池百合子主演の「小池劇場」(都政版)がピークを迎えた時だった。筆者は、その後の都政は敵を失い自らの仕掛けが敵になる、との見方からこの瞬間で「小池劇場は終焉した!」と本欄に書いた(17年8月31日付)。

 ところが第2幕があった。もう1つの国政進出がそれ。安倍首相の突然の衆院解散、10月22日総選挙と慌ただしい動きが始まると、この時とばかり、“私一人で立ち上げます!”と国政新党「希望の党」を立ち上げた。(国政版)「小池劇場」の幕が開いた瞬間だ。マスコミなど世の中はテンヤワンヤの大騒ぎ。“希望のスター現れる”との囃し立てぶり。“初の女性総理誕生”とまで書く新聞もあった。政治家らもこの動きには敏感に反応し、ここぞとばかり落選が予想される百数十名の民進系議員(元職含め)がバスに乗り遅れまいと駆け込んだ。「排除」の議論などいろいろあったが、ともかく、この選挙で「政権選択をめざし過半数(233)を制する」と捲し立て235名の候補を擁立した。それが希望の党である。

 その党代表の小池氏はあたかも首相の座に手が届きそうな絶頂の表情でテレビに出まくった。だが、その絶頂もつかの間のこと、第2幕は短命に終わる運命にあった。

 衆院選が本格化すると雲行きがおかしくなり、投票日にはもう政権の座はおろか、国民からソッポを向かれ、たったの50議席と惨敗した。どこに政権交代があるのか、その欠片すらない。希望が失望、絶望へと大反転したこの1ヶ月。「小池劇場」第2幕はあっけなく消え、今や見る影もない。今あるのは「なぜそうなったか」、犯人捜し、責任押し付け合いのオンパレードだ。

 今回、民進党を丸のみして政権を取ろうとした希望の党、それをめぐるゴタゴタ。その主犯は小池氏だろう。中身のない看板だけの民進党の面々も同罪だが、都政を置き去りにし、都政の実績もなく問題提起だけで1年を過ごしてきた小池氏が“私が日本を変える大政治家”とばかりに振舞った罪は重い。そのことを見抜けないで馳せ参じた民進系議員、スターのように囃し立てたメディア、評論家の罪も重い。危うい世論の空気も。日本政治の空白の1ヶ月だった。

 その小池氏。大敗に驚き潔く身を引くかと思いきや、「深く反省し、お詫びしたい」と反省の弁を語ったが、それは口先だけ。都知事は辞めないし、依然として希望の党代表を続けるという。そうまでして権力の座に恋々とする、“飽くなき権力亡者”に都民はいつまでつき合うのか。

小池都政、追い風は既に大逆風に変わった!

 7月の都議選の追い風は今回の衆院選で完全に消えた。むしろこの先、小池都政に冷たい大逆風として襲い掛ってこよう。盤石と思われた都内の政治基盤も脆いことが露呈した。この点について、ある選挙分析者は「都議選は公明が都民ファを応援したから勝っただけ」。「公明票に離反された自民が総崩れになった」[1]。もし従来通り自公協力の都議選だったら都民ファは殆ど勝てなかった。ひととき今回の総選挙で希望の党が過大評価されたのは「メディアの責任が大きい。維新が国政に出た時、東京のメディアは冷静に受け止めた。だが、彼らは、自分の地元の東京で起きた小池ブームを相対化できず、東京で起きていることは全国で起きると誤断した。」(同)というのだ。この識者の分析は鋭く、おそらくそれが真実だったと思う。

 ともかく、マスコミの支持、世論を追い風にしてきた小池都政の推進力はこの先、確実に落ちる。小池氏は、問題の指摘は上手だが“課題を収拾できない人”と皆が見抜いてしまったからだ。

 この状況が本人に見えているかどうか。1300万人の命と暮らしを預かり、スウェーデン並みの14兆円予算、日本最大の17万官僚制を擁する都政のトップに立つ小池都知事。一部でリコール運動が始まり、もはや「レイムダック」(死に体)と評する識者もいるが、本人は「都政に邁進する」と嘯く。「都政を踏み台に首相へ駆け上がる」、その野望を全面に出しての国政勝負に大失敗し“劇場2幕”の幕が下りたにも拘わらず、この先も政党代表と都知事の2足わらじを履き続けるという。

 どんな心臓と面の皮をお持ちか計り知れないが、常識では考えられない。果たしてこの先、都民の支持、都庁官僚の支持、都議会の支持、国民の支持は得られるのか。頼るのはマスコミの支持か。都知事の途中辞任が続く“混乱都政”の収拾を期待されての登板だったはず。だが、やっていることは、それに輪を掛けそれを上回る混乱、専横ぶりではないか。都知事ってそんなものか、都政ってそんな片手間の仕事なのか。都政をないがしろにし、自己ファーストで権力の座にしがみつく、そうした小池氏の姿に怒りと失望を感ずるのは、筆者だけだろうか。

この解散総選挙は何だったか、何に役だったか

 戦後2番目に低い投票率(53.68%)だった今回の衆院選。選挙は結果オーライか、自民は公示前議席と並ぶ284を確保し、自公与党が3分の2(310議席)を上回る形で選挙は終わり、野党は大敗した。11月1日に召集された特別国会では、何もなかったかのように安倍晋三氏が首班に指名された。国民は本当に安倍首相の続投を望んでいるのだろうか。

 一方、大敗した野党第1党の民進党の離合集散などドタバタ劇。1強多弱がより鮮明になった国会風景を見て皆さんは何を感じただろうか。日本に政党政治はあるのか。政党という名の単なる選挙互助会ではないか。民主主義とは名ばかり、単なる民衆主義、強くいえば衆愚政治ではないか。現代はメディアの報道が選挙結果を大きく左右する時代だが、商業主義のメディアに翻弄され右往左往した有権者も多かろう。政権選択と嘯き「希望の党」にスポットを当てて小池百合子をスターのように扱ったメディアは今どう抗弁するのだろう。

 選挙報道の新聞、テレビはどれも筆先は同じ、コメンターもみな同じ人。そこには小池氏を囃し立てるトーンはあっても有権者の目線に立った対論、争論、ディベートは殆どなかった。第4権力ともされるメディア、これが報ずる“過ち”を私達はどう見抜けばよいのか。

 民主主義にはコストが掛かると言われる。今回、私達の税金から650億円もの選挙費用が投入された。待機児童対策に使ったらどれほど役に立ったか、こんなムダな事をと怒っても、立場が代わると見方も変わる。新聞、テレビ、選挙業界は今回の選挙で民需が3000億円~4000億円もありビジネスチャンスだったとのことだ。各候補者が公費で打つ広告、政党の大広告などを受ける新聞、テレビは大儲け。印刷、貸し機材業者も大繁盛したという。

 そう言えば、背に腹は代えられないということか、どのメディアも安倍首相の自己都合解散劇に反対しなかった。これで理由がよく分かった。だが、それはどこか、おかしくないか。

 政治家の・政治家による・政治家のための解散総選挙―そういう表現しか筆者には思い浮かばない。リンカーンが謳い上げた“人民の・人民による・人民のための政治”などどこ吹く風。民主国家を標ぼうして戦後70年、しかし、この国は未だ政治三流国を脱し得ていない。来年は明治維新から数えて150年となるが、事態は日々より劣化する方向へ進んでいないか。

 ともかく、今回の解散に大義があったか。国民に何の選択を求めたのか、終わってみてもよく分からない。あるのは安倍政権延命の“自己都合解散”という印象のみ。ただもうひとつ、自公体制に大きな影響のない解散だった一方で、「民進党の区画整理事業」の性格を併せ持った。5年前に政権の座を追われて以後は民主党から少党合併で民進党へ、党首も岡田、蓮舫、前原と回転ドアのように代わったが、政策ももう一つあいまい。このあやふやな民進党が、立憲民主、希望(民進)、無所属(民主)、(参院)民進の4つの党に区画整理された。

 以前より分かりやすくなったと言えば、それがメリットかも知れないが、これではますます安倍1強体制が進む。日本の政治に希望はあるのか、どうも釈然としない。それは筆者だけの印象かと思ったら、各界の論客諸氏も同じようだった。3氏の見方も紹介しておこう。

その1.

 細川護熙氏(元首相)~「誰が勝ったのか、よくわかりません。そもそも何のための解散だったのか」(とはいえ)「大義なき解散は実は野党にとって好機でした。小池さんが希望の党の代表に就任した直後の一瞬は風が吹いたのですが、その後の混乱が台なしにしてしまいました」

「小池さんが昨年の知事選で大勝できたのは、彼女が自民党を排除されたことを見て、有権者が味方になってくれたからでした。にもかかわらず、今回自分が排除する側に回ってしまいました。それではうまくいくわけがありません。おごりがもたらした結果でしょう」[2]

その2.

 大宅映子氏(評論家)~「戦後これほどぐちゃぐちゃな選挙はなかったのではないでしょうか。公約、候補者、テレビなどメディアのすべてがぐちゃぐちゃ。結果、有権者は政策の良し悪しより政権の安定を選んだだけです。」

「自民党候補に入れた有権者たちも、自民党は支持するが安倍さんを信認したわけではないでしょう。独善的で『日本のエネルギーは多様性、ダイバーシティから生まれてくる』と言いながら、多様な価値観や生き方を排除し、異なるものは威嚇までする安倍さんの手法に否定的な保守の人は少なくない。」(安倍さんは)「要は人間ができていない、大人になりきれていないし、なろうと研鑽を積んでいるようにも見えません。」

「借金が1千兆円もありながら安倍さんは高齢者の福祉を削らずに子育ての資金を拡充すると言い出し、野党は消費税増税を凍結すると言い出す大衆迎合ぶり。」「今回、勝者はいません。むしろ解決すべき課題を放り出したことで、未来の日本が敗者として刻まれた選挙です。」[3]

その3.

 橋下徹氏(前大阪市長)~「今回の選挙では、民進党が希望の党と立憲民主党に整理されたことと、当選目当てであっちの政党に行ったり、こっちの政党に行ったりするチョロネズミが大方駆除されたことが大収穫なのだ。」

「個人一人の看板で勢いを得た政党など長続きはしない。政党の設立時点ではそのような大きな看板が必要なのかもしれないが、自民党に対抗できる野党になるためには、党内にいくつもの複数の看板が必要になる。」

「地方議員を増やし、議員の活動を高め、有権者から頼られる発信力のあるメンバーを増やしていく。チョロネズミに代わる新しいメンバーを増やしていく。強い野党になるためにはこのような王道を歩むしかない。」[4]

 この3氏の指摘がすべてを言い表している。キィワードが全て核心を突いている。

 筆者がひとつだけ加えるなら、またぞろ始まった野党再編、統一論についてだ。そもそも政党とは何か疑う動きにある。政党とは「政治的志向の一致に基づいて結成され、国民的利益を集約し、選挙民の支持を背景に”政権“を担当、ないし政権獲得をめざす政治的集団」[5]を指すが、いま始まった動きはそれに合うものか。そして選挙とは「”代表の”の選出、”政策の選択”という機能と指導者の創出、政府の形成という機能」を指すがそれを満たしているか。

 勝つために仕掛ける選挙、自己都合解散を繰り返す日本の「解散権は首相の専権事項」という解釈はもはや古い時代の遺物でしかない。もう独裁を許す解散権行使などは認めないことだ。

 日本がモデルにしたイギリスの議院内閣制。確かにイギリスもかつては首相が自由に解散権を行使できた。しかし、2011年からは「議会任期固定法」により首相の解散権が制限されている。ことしの6月、メイ首相の元で下院(衆議院に相当、任期5年)の解散総選挙が行われたが、このメイ首相は下院を解散するにつき、下院の3分の2以上の多数の賛成を得る必要があった。それには与党だけではなく、野党にも広く解散へのコンセンサスが必要だった。今回のイギリスは首相の判断をほぼ全会一致(賛成522票、反対13票)で受け入れ解散している。結果はメイ首相に苦杯だったが。日本でも次期国会でこの点をよく玩味し、もはや解散権に胡坐をかいて仕事をしない首相、内閣など認めるべきではない。

都政はどうなるか、小池都知事は再起できるか

 では、こうした状況を受けて今後の都政はどうなるかだ。筆者なりに整理してみた。7月の都議選では小池新党(都民ファーストの会)が127議席中55議席を得て大勝したが、今回の衆議選では姉妹党と思われる「希望の党」は大惨敗した。特におひざ元の都内25小選挙区のうち勝利したのは1つであり、比例を含めても獲得議席は4に過ぎない。東京都内のこの結果が東京都政に影響を及ぼさないはずがない。

都知事の威信

 まず都知事・小池百合子の立場についてだ。「小池都政はこれからレイムダック化することが予想される」(片山善博・元鳥取知事)[6]という見方が強い。都政をないがしろにして国政選挙で敗北した小池氏の振る舞い、その影響は間違いなく大きい。都庁官僚の目も冷ややかだ。もともと選挙前でも、就任1年目の庁内の小池評価は46.6点。同時期の舛添要一は63.6点、石原慎太郎は71.1点。[7]。前任の都知事らと比較しても極端に低かったが、今回の国政進出でその信認は完全に失われてしまった。0点に近いのでは。信頼できないトップの言動、動きに部下が冷ややかな反応をするのは企業とて同じ。トップのリーダーシップは部下のフォロアーシップが噛み合ってこそ初めて機能する。小池氏はもはや1人で吠える空回りリーダーではないのか。

2足わらじ

 都議選後、「都政に専念する」と明言していたにもかかわらず、舌の根も乾かぬうちに「私が先頭に立つ」と国政政党を1人で立ち上げ、「政権選択の選挙」だとはしゃぎ走り回った小池氏。大敗後も、深く反省し「都政に邁進する」と口では言うが、党代表を降りる気もなく、党代表と都知事との2足わらじを相変わらず履き続けるというのだ。

「スニーカーとハイヒールを片足ずつ履いていては歩き難いでしょう!」という選挙中の小泉進次郎氏(自民党筆頭副幹事長)のやさしい忠言(?)も「キャンキャン吠えているだけ」と一笑に伏した小池氏。都民からの衆院選に出るか、都知事に専念するか、どちらかを選べという声にも耳を貸さず、大敗後も代表として国政政党の主要な意思決定に深く関与するという態度だ。「国政に色目を使わずに地道に都政の執行に専念すべきだ」(前掲・片山)といった知事経験者としてのコメントにも応えようとしていない。

国との関係

 筆者はこうみる。2020年に迫った東京五輪の準備自体危ぶまれるのだ。これまで選挙で連勝してきた小池氏だが、今回の完敗で国と都の関係は選挙前とは大きく違ってこよう。安倍政権は選挙で敵対したからといって変なことはしないと思うが、しかし、都民の人気が絶大でそれを背後に国にモノ申してきた小池氏とは違い、都民の支持がなくなったいま国側は全く怖くない。五輪準備もこの先、ゴタゴタ続きになるのでは。それに国が救いの手を差し出すとは思えない。

都議会との関係

 都議会との関係も大きな問題。小池氏が掲げた“東京大改革は都議選に勝つこと、”この目標“は見事に達成されたが、それだけでは大した意味はない。自分を支える勢力にお友達が増えた程度の話だ。そうではなく、“古い議会を新しい議会に変える”との話はどうなるかだ。法制局でもつくってバンバン議員は仕事をするかと思ったら、どうも違う。小池氏の都民ファ運営が独裁との評で、既に2名の有力議員が離党した。「希望の党に連なる都民ファへの指導力が低下する可能性もある。都民ファは分解の過程に入ることも想定される。特に民進党出身の都議が動揺していると聞く」。

 これは先述の片山氏の指摘だが、都民ファの内部の最大勢力は実は希望の党の9割以上が民進出身者であるのとよく似ている。一番数が多いのが民進系議員で、もし彼らが集団離党すれば、もはや都民ファは1年生の小池塾生と一部の自民系議員だけになる。その自民も今回の復調で離党する可能性がある。このドミノで都民ファは少数会派に転落してしまう。

 都民ファと与党を組む都議会公明(23議席)の動きも怪しい。国政同様に自公体制を望み、都民ファとの与党体制を解消する方向に行ったら、小池都政を支える勢力は無に帰してしまう。

小池都政の今後の課題―それを解決できるか

 では、仮に小池氏が希望の党代表を辞め、都知事に専念するとした場合、この先小池都政はうまく前進できるかどうか。課題を幾つか挙げてみるが、なかなか難しいのでないか。

 第1は、小池都政のこれまでの都政運営の仕方を変えられるかどうか。議会にも職員にも都民にも相談なく進めるワンマン都政のやり方をだ。情報公開、見える化を売りにするが、一方で政策形成や決定過程は外部顧問に依存し、組織を無視するワンマン決定でブラックボックスに近い。合意形成より知事独裁に近い都政運営をどのように変えていくのか、変えられるだろうか。

 第2は、豊洲移転と築地再整備の折衷案を実際「形」にできるかだ。そもそも豊洲移転延期から2年以上が過ぎる見通しで時間とカネが相当掛る。しかも都議選直前、自分のAI(人工頭脳)で決めたという豊洲移転と築地再開発の両立という方針は、採算面からみても成立不可能ではないか。500社に及ぶ築地市場の利用業者の信用は完全に失われている。カネと時間を失い、信用を失ったこの大プロジェクトを立て直すことができるのか。

 第3は、2020五輪の準備は相当遅れているが、ほんとうに大丈夫か。築地市場跡地を通す幹線の環状2号線の整備及びバス3000台以上が駐車できる駐車場の整備は、豊洲への全面移転が完了してからでないと始まらない。その移転自体、ズルズル延び来年10月以降という。それだけでなく、全体的に遅れているのが五輪向け都市整備だ。“総合的に判断”と言うが、ワンイッシューにこだわり整合性を欠く都市整備の現状を小池氏自身の力で変えられるか。間に合わないとなれば、急転しインフラ整備は国が前面に立ってやらざるを得ない状況に追い込まれる事態すらあるかも。そうなると、小池都政は国内外の信用を完全に失ってしまう。

 第4は、本来都政が取り組むべき「都市問題」の解決、都市政策の実行ができるかだ。もともと都民は小池氏に政策問題の解決をあまり期待していない感じだが、しかしそうは言っていられない。事態は刻々と進む。待機児童の解消など少子化対策、待機老人、インフラ劣化など「老いる東京」対策、首都直下など防災対策という、都民生活に直結する政策問題はより深刻化する。財政措置をし、どんどん解決して行かなければならない。自分が関心のある無電柱化などに凝っているようだが、それ自体、都民生活上の優先順位は低い。上述の優先順位の高い問題にどのようなプログラムとスケジュールで取り組むのか。それには都庁という巨大官僚制を動かすエネルギーが要る。信用を失った中で、これができるか。

 第5は、東京都内というコップ内だけでなく、日本全体の東京一極集中批判に都政はどんな対応をするのか。独りよがりの東京論をかざしていると、老人介護施設の首都圏広域展開ひとつ協力を願えない。五輪施設の他県整備でゴタゴタした小池氏の手法に不信を持つ知事、市長は多い。よく考えて欲しい。東京という大都市は水ひとつ、エネルギーひとつ、食糧ひとつ、自前で供給する能力のない、他に依存して成り立っている砂上の楼閣のような都市であることを。近隣諸県のみならず、全国、アジア、世界からの協力なくして東京は生きていけない。その大都市を預かる経営者として、東京エゴではない都政運営が出来るかどうか。一極集中是正に東京を2割減反するぐらいの大胆な政策が必要ではないか。

 この先、これまでのように豊洲移転や五輪見直しの騒動を引き続きやれる余裕はもはやない。課題解決の答えしか都民は期待していない。問題提起都政から問題解決都政に変えることが必須だ。ただその際、何を変えるのかだ。“東京大改革”というお経を唱えているだけでは、そのうちポシャる。小池都政は存亡の危機にある。そうした自覚があるかどうか、残された時間はそうない。

 

建言「もう“国政との2足わらじ”は止めろ」

 小池氏に問う。これだけ厳しい状況に立たされている小池都政にあっても、このまま希望の党代表を続けるのか。国政で何を変えるために、それが都政にどのように役立つがために国政に軸足を残そうとするのか、よく分からない。少数野党を率い国政に片足を置いたままで都政がうまくいくはずがない。ひとりの人間にそんなエネルギーはない。ここは政党代表を離れ、都政にしっかり専念すべきだ。それでも大変な時期のはず。都知事の通常の仕事、前例のない「老いる東京」問題、2020東京五輪の準備と、都知事が3人必要な状況にあるのだ。[8]

 小池都知事!あなたはもうこの先は都政に専念すべきです。都知事ってもう1人の首相ですよ。1、2年でクビになる国の首相より本気でやれば、3期12年都知事は務められます。

 いま見誤ってならないのは、小池都政への風がやんだというより、もはや大逆風に変わっているということ。進退自体が問われるほどの厳しい状況だ。もともと小池氏は都知事になる準備をしていた人ではない。突然前知事が辞職したから降って沸いたようにお鉢が回ってきたに過ぎない。なので、都政自体をもうひとつ判っていない感じがする。就任から1年以上経つ今でも、自分の皮膚“感覚”で都政を語っているようにしか見えない。本当にやるべきこと、都政を動かすプロモートは何かが見えていないのではないか。

 大東京を動かすには、大企業を代表する経済界との連携も不可欠。だが経済界は未だ小池都政に協力する姿勢を見せていない。労組の「連合」を頼りにしているようだが、選挙はともかく大都市経営には限界がある。民間との関係で片肺飛行の都政。これでは東京の持つ力を出せるはずがない。労組も大事だが、経済界、政界、区市、各種団体、都民、他県ともしっかりスクラムを組むべきだ。情報公開という意味で、五輪は五輪で今どんな準備段階にあるのか工程表を明示し、世に説明すべきだ。ひとつひとつ謙虚に物事を解決し実績を積んで行ってこそ、小池都政に“明日”は拓ける。

  1. ^ 小熊英二「『希望』が幻想だったわけ」『朝日新聞・論壇時評』(17年10月26日)引用。
  2. ^ 「勝ったのは何か」『朝日新聞・オピニオン』(17年10月25日)細川護熙氏の論壇から抜粋。
  3. ^ 「勝ったのは何か」『朝日新聞・オピニオン』(17年10月25日)大宅映子氏の論壇から抜粋。
  4. ^ 「橋下徹『保守の立民推し』は浅いしセコい」『PRESIDENT Online』(17年10月24日)から抜粋。
  5. ^ 阿部斉・内田満編『現代政治学小辞典』(有斐閣、1978年)
  6. ^ 「都政へ余波 どこまで」『日本経済新聞・都内版』(17年10月24日)片山善博氏のコメントから抜粋。
  7. ^ 「小池知事の1年・職員が採点」『都政新報』(17年8月1日)
  8. ^ 「都政へ余波 どこまで」『日本経済新聞・都内版』(17年10月24日)拙者のコメントから引用。
佐々木 信夫(ささき・のぶお)/中央大学経済学部教授
専門分野 行政学、地方自治論

1948年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了、慶應義塾大学法学博士。東京都庁16年勤務を経て、89年聖学院大学教授、94年中央大学教授。2000年米カリフォルニア大学(UCLA)客員研究員、2001年から中央大学大学院経済学研究科教授・経済学部教授。専門は行政学、地方自治論、都市行政学。第31次地方制度調査会委員、日本学術会議会員(政治学)など歴任。現在、大阪市・府特別顧問など兼務。 
都政に関する著書に『老いる東京』(角川新書、17年3月)、『東京の大問題』(マイナビ新書、16年12月)、『都知事―権力と都政』(中公新書、11年1月)、『東京都政』(03年2月)『「都庁―もうひとつの政府』(1991年2月)など。来年3月『ニッポン合州国』刊行予定。NHK地域放送文化賞、日本都市学会賞受賞。テレビ、ラジオへ出演、新聞紙上コメント、地方講演なども多い。

[広告]企画・制作 読売新聞社ビジネス局