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吉田 達

吉田 達 【略歴

『中央評論』の特集「思想するニッポン」について

吉田 達/中央大学理工学部准教授
専門分野 思想史

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『中央評論』について

 『中央評論』は本学出版部が1949年以来発行している総合教養雑誌です。現在は、各学部から一名ずつ選出された教員が編集委員として参画し、年4回発行の季刊誌の特集を企画・運営しています。

 本誌の特集は、世界や日本が直面している現在進行中の事態に切りこむもの、風化させてはならない過去の事件に新たな光をあてるもの、現代の学問研究の最前線を紹介するもの、あるいはまた古今東西の人間が問いつづけている古くて新しい問題にあらためて向きあうものなど、じつに豊富なバリエーションを誇っています。論より証拠、ウェブ上で公開されているバックナンバー一覧をちょっとのぞいてみて下さいhttp://www2.chuo-u.ac.jp/up/zasshi/chu-hyo-270.htm新規ウインドウ。どうですか、このメニュー。すこしでも興味を抱いた方はぜひ現物を手にとってページをめくることをお勧めします。今年春にわれらが編集委員長・秋山嘉先生がちょうどこちらのコーナーで書いておられた通りhttp://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/opinion/20120305.htm新規ウインドウ、「多彩な内容に驚かれること請け合い」であることを、私からも保証いたします。老婆心ながら申し添えれば、本学図書館の雑誌コーナーにゆけばバックナンバーはいつでもお読みいただけます。もちろん、生協にてご購入いただければなおのこと大歓迎です。

特集「思想するニッポン」のめざすもの

 今回は「思想するニッポン」という特集を組みました。「日本思想史入門」というタイトルでもよいのですが、これではいかにも野暮ったいので、すこしばかりひねりを加えた次第です。発行のタイミングがロンドン・オリンピックと重なり、日本を応援する声がこの国をおおう時期にみなさんのお手元に届くこととなりました。いまさらいうまでもなく、オリンピックの日本選手団に送られる「がんばれ日本!」の声援は、昨年の東日本大震災と原発事故以来のあの「がんばろう!日本」の声援と地つづきであるにちがいありません。

 しかし、今回の特集はそれらの声援からは一歩引いたところでしばし立ちどまって静かに考えることをめざしています。いえ、どうか誤解のないようお願いします。日本選手団に声援を送らないとか、復興に協力しないとか、そういうことではありません。私たちが当たり前のように語っている「日本」なるものの奥ゆきの深さをあらためて感じとってみよう、とりわけ「日本」という場所で日本語によって営まれてきた思考の積みかさね――日本における思想の歴史――をもう一度ふりかえってみよう、というだけのことです。

 いってみれば、ロンドンの熱気を伝えるTVの前で声援を送ったあなたが、寝床に身を横たえてから眠りが訪れるまでのほんの数分間、本特集に眼をさらして、「そもそも日本というのはどういう国なのだろう」という素朴な疑問を抱いたり、「日本にはこんなことを考えたひとがいたんだ」というささやかな驚きを感じたりしていただくだけでもよいのです。その疑問や驚きの種は、やがて1年たち、5年たち、10年たつあいだに、あなたの心に根を下ろして大きく花開くかもしれないのですから。あるいはまた、「自分だったらこの問題はこんなふうに考える」というふうに、新たな思考の種を受けとるひともおられるかもしれません。本特集は、そんなふうに何年も後に発芽し開花するかもしれない種をつめこんだささやかなカプセルなのです。

特集「思想するニッポン」の概要

 最後に、本特集に寄せられた文章を簡潔に紹介します。

 土屋裕史(国立公文書館研究員) 「林羅山・林鵝峰(がほう)・林鳳岡(ほうこう)の旧跡を訪ねて――江戸の古地図を歩く」
 林家は、17~8世紀、徳川将軍家につかえた学者一族。その一族の事績はいまも東京・上野の街にひっそりとたたずんでいます。上野の街歩きのガイドとしても楽しめます。

 岸田知子(文学部教授) 「日本人と漢字・漢文・漢語」
 日本人にとって漢字・漢文・漢語は何であったか、そして漢字・漢文・漢語をふくむ日本語の将来はどうなるのか、を問うもの。たったひとつの漢字のうちにも、日本の思想の歴史はおりこまれているのです。

 野崎守英(元・文学部教授) 「“懐かしさ”という語をめぐって――日本語が切り取る感情の立ち方の一面」
 『万葉集』の歌を手がかりに、現在のわれわれにとっても身近な「懐かしさ」という感情の内実を照らしだします。日本語のうちに潜む感受性の基層の発掘現場をぜひご覧になってください。

 尾形弘紀(武蔵野美術大学非常勤講師) 「世界の「つわり」を見る視覚」
 「世界の「つわり」を見る」とは、新たな生命のきざしをとらえるということ。「つわり」をめぐって『徒然草』、『枕草子』、『万葉集』さらには、萩原(はぎわら)朔太郎(さくたろう)、草間彌生(くさまやよい)までを一気に駆け抜けます。

 吉田達(理工学部准教授) 「雑草的理性のために――鶴見俊輔の「限界芸術」論をめぐって」
 鶴見俊輔のいう限界芸術――われわれが日々なにげなく口ずさんだり書(描)きつけたりする鼻歌や落書きのような素人芸術――の概念を検討し、そこに雑草的理性という新たな理性概念を読みとろうとするこころみです。

 武内龍介(河合塾コスモ講師) 「“こころ”と“あたま”」
 三木成夫は昭和期の日本で活躍した異色の解剖学者。この「詩人科学者」の思索を手がかりにして5世紀初頭の中国の詩人・陶淵明(とうえんめい)の漢詩を読み解きます。

 新田滋(専修大学経済学部教授) 「南朝幻想論序説――日本人はなぜ思想しえないか」
 本特集そのものへの批判のようにも見えますが、新田氏の問題提起は同時に、日本で地に足のついた思想が生まれるための条件についての議論ともなっています。

 尾留川方孝(文学部兼任講師) 「古典の回避=古典の生成」
 新田氏の文章とともに日本思想の成立可能性を根本的に問いかける議論であり、さらには現在の日本の大学における日本思想研究のありかたへの問いかけでもあります。

吉田 達(よしだ とおる)/中央大学理工学部准教授
専門分野 思想史
1964年神奈川県生まれ。1993年 中央大学大学院文学研究科哲学専攻満期退学。1995年 東北大学大学院国際文化研究科ヨーロッパ文化論講座中退。同講座・助手、東北大学・東北学院大学非常勤講師などを経て2010年に中央大学理工学部助教。現在は准教授。著書『ヘーゲル 具体的普遍の哲学』(東北大学出版会 2009年)など。ヘーゲルを中心とする近代ヨーロッパ思想と鶴見俊輔を中心とする戦後日本の思想を研究中。