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トップ>教育>学びに向かう力をどうハカるか?~コンピテンシー自己評価アンケート分析~

教育

禰覇 陽子

禰覇 陽子 【略歴

齋藤 祐

齋藤 祐 【略歴

学びに向かう力をどうハカるか?

~コンピテンシー自己評価アンケート分析~

齋藤 祐/中央大学附属中学校・高等学校 国語科教諭
禰覇 陽子/中央大学附属中学校・高等学校 情報科講師

SSH認定を受けて

 2018年度、本校がSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校となったことを受け、コンピテンシー・ベースの観点別評価体制の開発を行うこととなった。新しい学習指導要領においてコンピテンシー(資質・能力)は、幼稚園から高等学校まで一貫して育まれるべきものとして位置づけられている。しかし、そもそも「見えない学力」であるコンピテンシーをどうすれば測れるのか。そこで手がかりとなったのが、中央大学理工学部によって開発された“C-compass”である。

“C-compass”と“Chufu-compass”

 中央大学“C-compass”(シー・コンパス)は、7カテゴリ36項目を用いたアンケートによって、コンピテンシーの到達段階を測ることを可能にしている。そこで本校では、大学生向けに用意された“C-compass”の7つのカテゴリのうち、「多様性創発力」を除いた6カテゴリを採用した。一方、“C-compass”において同一カテゴリにまとめられていた「コミュニケーション力」を2つに分解、かつ、全項目の回答可能レベル数を5から4に削減、質問項目を半分に精選するなどして、全7(6+1)カテゴリ14項目のアンケートを“Chufu-compass”(チュウフ・コンパス)として策定した。

“Chufu-compass”の全容は以下にまとめられている。
http://chu-fu.ed.jp/topics/wp-content/uploads/2019/01/6d7424708078f66ef6202548e92abbbb.pdf

第1回調査実施

 2018年7に実施したコンピテンシー調査では、都立科学技術高等学校(SSH経験校)・都立多摩科学技術高等学校(現SSH校)の協力を得ることができた。さらに、中央大学理工学部に在籍する本校の卒業生にも協力を仰いだ結果、アンケート回収総数は2,000件を超えることとなった。

 なお、アンケート分析に当たっては、リッカート尺度の4件法に使われる手法を参考に、代表値を用いた数値要約が必要な部分は間隔尺度、それ以外は順序尺度の扱いとした。また、代表値が近い質問項目どうしの回答傾向・共通項を探るべく、spearmanの順位相関係数・polychoric相関係数から算出した距離を用い、Ward法による階層的クラスター分析を行った(図1~2)。加えて、複数項目間の関係性を見るためにクロス分析を行い、集計結果は、分布の状況を感覚的にとらえるためバルーンプロットで表した(図3~4,図7~13)。

ICT版_アンケート見本【Googleforms】

結果と考察

 第1回コンピテンシー・アンケート調査の結果として、以下のことが明らかとなった。

1)“Chufu-compass”のカテゴライズ自体に妥当性があること

 クラスタリングすると、回答データの傾向がカテゴリごとにまとまりを見せた。この結果より、カテゴリの分け方に信憑性があることが示される。

図1~2 クラスタリング(クリックすると拡大します)

2)カテゴリⅡ【01課題発見・02論理的思考】とカテゴリⅢ【01探究する意欲・02推論する力】との間に関連があること

 各カテゴリ間の回答傾向をクロス分析として2軸で整理した際、特にこの両カテゴリについては、レベル2近辺に回答が集中するという特異な傾向が見られることがわかった。

図3~4 カテゴリⅡ・Ⅲ クロス集計

3)カテゴリⅤ(1)【01傾聴力・02内容理解】とカテゴリⅥ【01共創力・Ⅵ-02行動力】との間に関連があること

 他者の話に耳を傾け、その内容を把握しようとするカテゴリⅤ(1)と、お互いの存在を認め合い、協力して物事をやり遂げようとするカテゴリⅥは、意外にも回答傾向としての近さがあることがわかった。

4)高校生一般が苦手な項目としてカテゴリⅠ【 01知識】、カテゴリⅣ【01目標設定・02計画管理】、カテゴリⅤ(2) 【01記述力・02説明力】の3カテゴリ5項目が抽出できそうであること

 カリキュラムも校風も異なる3校の間で、苦手意識をもつカテゴリが同一だった。

5)入学形態ごとに生徒のコンピテンシーが異なる傾向があること

 推薦入試(A)一般入試(B)附属中学からの内部進学生(C)という括りで回答結果の比較を行った結果、内部進学生のコンピテンシー水準が相対的に低いことがわかった。

図5~6 高1・高2入学形態別 カテゴリⅢ・Ⅳ(クリックすると拡大します)

6)教科横断型授業「教養総合Ⅰ」の講座ごとに生徒のコンピテンシーが異なる傾向があること

 教科横断型授業「教養総合Ⅰ」の講座別に受講生のコンピテンシーを比較したところ、講座ごとに傾向の違いが見られた。

図7~9 教養総合科目別 カテゴリⅢ・Ⅳ(クリックすると拡大します)

7)高校3年生・大学生へと学齢を重ねても、コンピテンシーの高まりがスムーズに移行しているわけではないこと

図10~13 高1・高2・高3(理系)+卒業生(理工学部) 4カ年比較(クリックすると拡大します)

「10年トランジション調査」との関連

 「学校と社会をつなぐ調査」(通称「10年トランジション調査」代表:溝上慎一氏)の2時点目成果報告書で以下の2点が結果としてまとめられている。

  1. 高校2年生の半数は、さほど資質・能力を変化させることなく大学生になる
  2. 高校2年時の家庭学習や対人関係・コミュニケーション、キャリア意識が、大学1年時の資質・能力を 含め、さまざまな側面における学習に影響を及ぼす

 この調査における①の指摘は、今回の我々の調査における「高校3年生・大学生へと学齢を重ねても、コンピテンシーの高まりがスムーズに移行しているわけではない」という分析結果に符合している。

 また、この調査によれば、遅くとも高等学校2年生の段階までに、自身の「キャリア意識」、つまり将来への見通しに基づいた「家庭学習」=「自主的な学びの姿勢」を獲得することが必要である、ということになる(高3ギャップ)。そのためには、さまざまな価値観を持った他者との「対人関係・コミュニケーション」を構築する力が必要になるのは言うまでもない。これは、“Chufu-compass”3校比較の中で導かれた、以下の高校生一般のコンピテンシー課題とも一致している。

  • 「当事者意識」に基づいた「見通し」をもつこと【自主的な学びの姿勢】
  • 「他者意識」に基づいた「アウトプット」を行うこと【対人関係・コミュニケーション】

「10年トランジション調査」を踏まえて今回の我々の取り組みを振り返った際、高校2年生という学齢をひとつの目安とすることができるならば、本校の「教養総合」はまさに、青年期におけるコンピテンシーの完成期に位置づけられていることになる。

今後の展望

 今回の分析は「出力すべきもの」が予め決まっていない状態で、データの背後に存在する本質的な構造を見出し、日々の教育活動に寄与することを目標として始まった。今年度はまだ1回目の調査なので「点」に過ぎないが、今後これを「線」として精緻にしていきたい。

 なお、“Chufu-compass”は、具体個別の授業評価ではない。あくまで生徒の自己評価としての指標を備えた、気づきのための仕掛けにすぎない。この点に留意したうえで、生徒に直接関わる教員の意識それ自体が変われば、目の前の生徒たちは能力への自信を深め、自身の力で自己を育んでいけるようになるのではないだろうか。

参考文献
齋藤 祐(さいとう・ゆう)/中央大学附属中学校・高等学校 国語科教諭
東京学芸大学教育学部卒。2005年 中央大学杉並高等学校教諭。2018年より現職。研究内容:国語教育。コンピテンシー開発。本研究ではアンケート調査項目の考案・分析の指針決定を担当。
禰覇 陽子(ねは・ようこ)/中央大学附属中学校・高等学校 情報科講師
武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部卒。研究内容:情報教育。理数教育。本研究では分析手法の提案・分析実務を担当。

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