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トップ>教育>生き物と環境の謎に挑む生徒の育成 SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の取り組みを中心に

教育

岡崎 弘幸

岡崎 弘幸 【略歴

生き物と環境の謎に挑む生徒の育成

SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の取り組みを中心に

岡崎 弘幸/中央大学附属中学校・高等学校理科(生物科)教諭
専門分野 動物生態学 生物教育学 理科教育法

 本校は2018年4月からスーパーサイエンスハイスクール(以下SSHと略)に指定されました。これまでの本校(以下中附と略)の教育活動を土台として、新しい時代に即した教育プログラムを開発することが目的です。中附って文系の学校かと思っていましたが、どうしてSSHの指定を受けたのですか、SSHの指定を受けてこれまでと何が変わるのですかという質問が多く寄せられるようになりました。そこで中附におけるSSHの取り組みを説明しながら、私自身が取り組んでいる、またこれから取り組もうとしている教育活動についてお話したいと思います。

中附におけるSSHの目的と取り組み

 SSHは文部科学省が2002年度から始めた、先進的な科学技術、理科・数学教育を通して、生徒の科学的能力や科学的思考力等を培うことで、将来の国際的な社会を牽引する科学技術人材を育成するための取り組みです。科学を楽しむ心や科学への夢を育み、生徒たちの個性と能力を伸ばしていくことを目指しています。

 中附でのSSHの研究開発課題は、「次代のイノベーションを担う、大学進学後も活躍する科学技術人材を育成する教育課程の開発」です。①課題研究を複数の学年にまたがって指導することにより、次代のイノベーションを担う科学技術人材に求められる能力と資質が向上する、②英語科と理科の教科融合科目「Project in English Ⅲ」の開発で国際性が向上する、③コンピテンシーベースの観点別評価体制を開発し、知識・技能および思考力・判断力・表現力だけでなく生徒の内面に育まれる「学びに向かう力・人間性」といった資質も含んだ評価と指導を行うことで大学進学後も成長する科学技術人材を育成する、という3つの目標を掲げています。具体的には、高校1年生では様々な分野の研究者の講演会などを聞き、高校2年次の「Project in ScienceⅠ」では、「ランカウイ島の自然環境調査と観光資源開拓(マレーシア研修)」、「数学・英語で学びを考える(カナダ研修)」、「スポーツトレーニング(国内研修)」、「プログラミング(国内研修)」の4つの自然科学系科目から関心のある授業を選択し課題研究に取り組みます。また、2019年度からは「トランスサイエンス科学と歴史」をSSH科目として立ち上げ、日本における科学技術開発がどのように展開されたか、その中でどのような問題が起こっているのかというテーマに対して、福島原発事故や沖縄の軍事・基地問題をとりあげ、文理の枠を超えた授業を展開する予定です。高校3年次の「Project in Science Ⅱ」では理系の卒業研究を行い、論文を書きます。研究の過程では高校教員だけでなく、中央大学理工学部の教授陣のアドバイスを受けることもでき、春季の講義聴講や卒業論文発表会は中央大学理工学部で行います。「Project in English Ⅲ」では科学を題材とした英語も学ぶことができ、国際学会や国際大会にも対応できる生きた英語力を身に付けることができます。2018年度からはこれまで以上に中央大学理工学部と連携して、卒業研究だけでなくコンピテンシーベースの評価体制の研究も行っています。次に、現在行っている教育活動を具体的に紹介したいと思います。

教科融合型授業の開発

 理系の生徒は、高校3年生で物理、化学、生物から2科目を選択しますが、物理と生物の授業を融合した授業を特定の分野で行っています。一例として挙げられるのは物理の光学、生物の光受容器(目のつくりとはたらき)分野です。この分野の授業では、物理選択者と生物選択者が一緒に同じ教室で学びます。私たちの目は、水晶体という凸レンズで光を屈折させて、網膜というフィルムに映像を映します。そこで凸レンズの性質を物理学的に実験で学び、映像が反転して映ることや、ピントを合わせるためにはレンズを前後に動かさなければならないことなどを学びます。ところが私たちヒトの目は、ピントを調節する時にレンズを前後に動かしたりはしていません。ではどうやってピントを合わせているのでしょうか?実際には、ヒトの目は水晶体の厚さを変えることができるのです。目のレンズが特殊なタンパク質でできているのはこのためです。網膜には見ている映像は逆さまに映りますが、そう見えないのは大脳のはたらきのお陰です。実験を交えながら、班で考えたり、意見を述べたりと、アクティブラーニング的な授業を展開します。今後、理科の中で融合できる分野(単元)については徐々に開発していくつもりです。また教科横断型の融合も開発中です。

物理と生物の教科融合型授業に耳を傾ける生徒たち

実験合宿

 中附では高校3年生(希望者)を対象に、夏休みや試験休みを利用して実験合宿を行っています。普段の授業では時間がかかる実験や観察を1泊2日で行います。宿泊は学校です。シャワー設備もあり、仲間と一緒に夜遅くまで実験したり、課題を解いたりします。生物を例にすると、ブタの目の解剖や野菜からDNAを抽出したり、ギムネマ茶を飲みながらチョコレートを食べると味覚が変わってしまう実験、ミラクルフルーツを食べた後、レモンを食べると甘くなる実験、夜行性の動物を一晩中観察することなどを行いました。2018年は、ウニの精子と卵を各自が受精させ、受精卵から生物の体がどのように作られていくのかについて、顕微鏡を使って何時間も観察。受精後の体細胞分裂は卵割というのですが、その卵割を生きた状態で観察しました。受精卵というたった一個の細胞が二つ、四つ、そして八つと増えていく様子にきっと感動したはずです。実験室は一晩中使えるようにし、眠い目をこすりながら朝まで観察する生徒もいました。また2018年度からSSH指定校になったことを受け、実験合宿を高校1年、2年生も参加できるようにしました。

遺伝子組み換え実験に取り組む生徒たち

生物部(WILDLIFE)の活動

 私は生物部の顧問ですが、主に野生動物の生態調査を高尾山や青梅の丘陵で行ってきました。高尾山ではムササビの調査、青梅ではアナグマやタヌキ、キツネの観察を行っています。高尾山には毎月1~2回登り、日没後30分経つと巣穴から出てくるムササビを調査します。年間を通して何を食べているのか、また食べる樹葉の嗜好性は何で決まるのか、夜行性といわれるムササビの活動時間はどうなっているのかなどを調べてきました。その結果、樹葉の嗜好性は葉に含まれる甘味や旨味を呈するアミノ酸が関わっていることが分かり、2017年度京都大学で開催された日本進化学会で発表し、高校生ポスター部門で最優秀賞をいただきました。ムササビの活動も自作でセンサーを開発し、一晩に活動ピークが2回あり、夜行性動物といえども一晩中動いているわけではないことなどを解明しました。これは2016年度日本生態学会で発表し、優秀賞を受賞しました。野外での生態と調査には地図が読めなければなりません。そこで生物部ではオリエンテーリングを行います。地図を読みながら、丘陵地に設置されたポイントを探すのですが、コース設定は各自が決めます。大会にも参加し、これまで東京都選手権大会や全国大会、インターハイにも出場し、メダルを取ったことも数多くあります。文化部ですが、アウトドア系運動部に近いです。生物部の生徒は中附に来てからオリエンテーリングを学ぶわけですが、生物部の卒業生で、大学生になってからスキーオリエンテーリングで日本代表選手となり、2017年度にエストニア、2018年度にロシア、スウェーデンで開かれる国際大会に出場した女子選手もいます。

 2018年度からは、サンゴの調査・研究も始まりました。日本財団から海洋教育プログラムで助成金を受けたことと、SSH指定校になったことでサンゴ飼育水槽が入りました。サンゴを飼育するにはどのような水質が良いのかセンサーを使って調べたり、サンゴの成長や生態の調査などを行っていきます。サンゴの研究は、高校3年生の理系クラスの卒業研究で行う生徒もいます。夏季休暇中に鹿児島県の喜界島へ行き、サンゴ礁研究所のアドバイスを受けながら研究を進めます。

生物実験室でサンゴの飼育・研究に取り組む

大菩薩峠で自然観察

日本進化学会でムササビの食性について研究発表

日本進化学科の高校生ポスター部門で最優秀賞を受賞

尾瀬での夏合宿

研究に貢献してくれたムササビのグルル

Project in Science Ⅰ「ランカウイ島の自然環境調査と観光資源開拓」について

 サンゴを復元するプログラムは、高校2年生のProject in Science Ⅰでマレーシアを選択した生徒たちもランカウイ島で行います。これはインドネシアの大地震による津波で破壊されたサンゴを復元するプログラムで、昨年からランカウイ島研修旅行で現地の教授の指導を受けながら行っています。この他、マレーシア北部に位置するランカウイ島では、熱帯多雨林に生息するダスキーリーフモンキー、カニクイザル、スローロリス、ヒヨケザル、オオアカムササビ、モモンガ、イノシシなどの哺乳類やサイチョウ、シロガシラトビ、ウミワシ、ナンヨウショウビンなどの野鳥、マレーオオトカゲやトッケイゲッコウ(ヤモリ)などの観察や、熱帯多雨林、世界地質遺産(ジオパーク)も観察します。マングローブ林ではカヤックで生物観察や、養魚場でカブトガニやテッポウウオの観察、石灰岩の洞窟でコウモリの観察もします。さらに2018年度から観察だけでなく、現地の高校との交流や調査したことをまとめてパンフレット作成を目指します。将来的にはランカウイ島の高校生たちと一緒に調査研究し、政府観光局にプレゼンしたいと考えています。

 今回はSSH指定を受けて、これまでに行っていることや今後行うことを書きました。紙面の都合で一部しか紹介できませんが、「忙しいけれど楽しい!」というのが多くの生徒の感想です。SSHはまだ取り組みが始まったばかりですが、今後さらに検討しながら、より魅力的なカリキュラムを開発し、創造力豊かな人材の育成に取り組んでいきたいと考えております。大学の附属校ならではのSSHへぜひ一度足を運んでみてください。

 私たちと一緒に科学を楽しみませんか。

5億5000万年前の地層の観察

マングローブ林で自然観察

ボートからワシタカを観察

地質学的に貴重な特徴を有するキリム ジオフォレスト パークにて教え子たちと

岡崎 弘幸(おかざき・ひろゆき)/中央大学附属中学校・高等学校理科(生物科)教諭
専門分野 動物生態学 生物教育学 理科教育法
1958年東京生まれ。筑波大学第二学群生物学類卒。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻修了。都立高校勤務25年を経て、2009年より現職。元NHK高校講座生物講師(1994年~2008年)。大学時代よりムササビの研究を始め、高尾山へは通算1000回以上登る。現在の研究テーマは、ムササビの分布と環境要因との関係。生徒たちと多摩地区の山地、丘陵地でムササビや野生動物の調査を行っており、生徒たちからはムササビ先生と呼ばれている。2003東京新聞教育賞受賞。2007東京都教育委員会職員表彰。2008文部科学省優秀教員表彰。日本哺乳類学会リスムササビネットワーク所属。日本生物教育学会所属。
主要著書:「ムササビに会いたい!」(晶文社2004)。東京都の不思議事典(新人物往来社1997共著)。日常の生物事典(東京堂出版1998共著)。
HAKUMON Chuo

2019年冬号
学生記者が、中央大学を学生の切り口で紹介します。

外務省主催「国際問題プレゼンテーション・コンテスト」最優秀の外務大臣賞に 及川奏さん(法学部2年)/赤羽健さん(法学部1年)

箱根駅伝予選会を初取材 注目度の高さを実感

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本学の歴史・建学の精神が卒業生や学生に受け継がれ、未来の中央大学になる様を映像化

Core Energy
世界に羽ばたく中央大学の「行動する知性」を大宙に散る無数の星の輝きの如く表現

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