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トップ>教育>ハイレベルな研究発表を支える研究支援体制~大学院理工学研究科~

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石井 洋一

石井 洋一 【略歴

ハイレベルな研究発表を支える研究支援体制~大学院理工学研究科~

石井 洋一/中央大学理工学部教授・理工学部長・大学院理工学研究科委員長
専門分野 有機金属化学

 近年、本学理工学研究科の研究力の高さに注目が寄せられています。理工学研究科生の学会等での発表件数は、2007年度は352件(海外58、国内294)、2008年度は374件(海外109、国内265)という実績を残し、国内他大学の追随を許さない世界水準の知的生産量を誇っています。

 この高い研究力を生み出すシステムについて紹介します。

受賞にみる研究レベルの高さ

 “科学技術創造立国”の実現に向け、優れた研究開発成果をあげた全国の理工系学生と企業の若手研究者、技術者を表彰する、『第23回独創性を拓く 先端技術大賞』(主催・フジサンケイビジネスアイ)の授賞式が2009年7月23日、高円宮妃殿下をお迎えし、東京・元赤坂の明治記念館で行われました。学生部門の最優秀賞にあたる文部科学大臣賞には、望月理香さん(当時、情報工学専攻博士課程前期課程2年/現、情報セキュリティ科学専攻博士課程1年;趙 晋輝研究室)が発表した「色弁別閾値に基づく個人特徴に対応できる色弱補正法の提案」が選ばれました。これは、私立大学の学生としては初めての受賞という快挙であり、一躍注目を浴びました。

 この他にも、中央大学公式Webページに紹介された学会賞などの学生の受賞報告件数は、2007年度が7件、2008年度が16件であり、これらは研究レベルの高さを示すものと言えるでしょう。

時代のニーズに対応した教育研究体制

 理工学研究科では、研究と教育はかなりの部分で一体化しており、研究活動を通じた教育に主眼の置かれた教育研究体制となっています。すなわち、理工学研究の理論的基礎に最先端研究のトピックスの紹介を組み合わせた密度の高い専門科目群と、問題の発見から解決法の提案、実験計画、データ収集と解析、成果発表までを行う実践の場としての論文研修を車の両輪として、まさしく「実地応用の素を養ふ」教育が行われていると言えるでしょう。

 また、この主専攻に加え、2003年度から副専攻制度を導入しています。主専攻が、伝統的な研究分野の中でひとつの研究テーマを追うことを想定しているのに対し、副専攻では、学際的な性格を持つ最先端のトピックを体系的に学ぶ教育プログラムとなっています。現在は、6つの副専攻(「防災・危機管理工学」、「環境理工学」、「データ科学」、「ナノテクノロジー」、「電子社会・情報セキュリティ」、「感性ロボティクス」)を擁していますが、いずれも本学理工学研究科の“得意分野”であり、将来の発展が大いに期待される分野であるとも言えます。副専攻では、異なる専攻の教員が連携し、講義とリサーチペーパーの作成を通した研究指導により、それぞれの分野を体系づけて学べるようなカリキュラムが組まれています。主専攻と異なる分野の研究アプローチや当該分野の専門的知識の修得を図ることで、主・副専攻の教育的相乗効果によって大学院生が所属する主専攻の分野にとらわれることなく、広く豊かな学識と、その応用に資する素養を涵養することができるのです。

 学士課程との連携の面では、学内推薦入学決定者に対して、学部4年次に科目等履修生として大学院授業の履修を認め、大学院入学後に単位を認定する制度を導入しています。このことにより、博士課程前期課程における学修の効率化とより早期からの論文指導が可能となります。早期からの研究への専念は、より質の高い研究成果に繋がっていきます。

 一方、産学連携教育においては、本学理工学部・理工学研究科が取り組んでいる、「産学連携教育による女性研究者・技術者育成(理工系女子学生のための産業キャリア教育プログラム)」が文部科学省の平成18年度~20年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」に採択され、事業期間終了後もこの取組を推進しています。この取組は、男女共同参画を支え、将来のリーダーとなりうる優秀な女性研究者・技術者を育成するためのプログラムですが、このプログラムの定着により、先述の望月理香さんをはじめ女子学生の活躍も顕著になってきています。

 これらの教育研究体制は、世界トップレベルの研究者でもある教授陣※の熱心な研究指導により支えられていることは、言うまでもありません(※2009年度科学研究費補助金採択率は38.1%で、国内の大学・研究機関全体で5位、私立大学ではトップ)。

本学が誇る助成制度

 大学院には「学会発表助成制度」があります。これは、国内外の学会での研究発表に対して旅費を補助しており、学術国際会議における発表に対しては、ほぼ滞在費相当までカバーしています。博士課程前期課程の学生は、国内外いずれかの学会について年1回、博士課程後期課程の学生は、国内外の学会それぞれ1回ずつの助成が受けられます。

 この助成制度を利用して発表した件数は、2007年度は257件(海外36、国内221)、2008年度は260件(海外93、国内167)、2009年度は279件(海外87、国内192)にのぼり、本研究科の学生が学会において発表するケースは、他の大学院と比べても群を抜いて多いと言えます。この制度は、普段ではなかなか参加することのできない海外での国際学会での発表を促進するため、研究活動に対するモチベーションの向上に繋がっています。同時に、国際的に活躍する第一線の研究者との交流や世界最先端の研究動向を把握する機会にもなっており、研究の質の更なる向上をも生み出しています。

 この他にも、ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)といった研究支援制度も充実しています。前者は、院生が学部生の授業を補助するもので、院生は「教えることによって学ぶ」という経験を積むことになります。後者は、博士課程後期課程の院生が本学研究プロジェクトの研究活動を補助するもので、院生の研究能力の向上につながります。いずれの制度も、院生に対して給与が支払われます。

さらなるレベル向上を目指して

 科学技術の急速な進歩と高度化に伴い、理工系の大学院においては研究者、高度専門職業人育成機能を持つ博士課程前期課程への社会的ニーズが年々高まっています。このような趨勢の中で理工学研究科では、「個性ある専攻、特色ある大学院」をモットーに副専攻を含む広範囲の専門分野に対応可能なカリキュラムを用意し、研究指導体制を整え、国際的に第一線で活躍できる優秀な人材の育成に今後も鋭意努力していきます。

 その取組の一つとして、今年度から博士課程前期課程1年生を対象に、プレゼンテーションスキル向上講座を実施し、これまでバラつきのあったプレゼンテーションスキルの底上げと質の均一化を図ります。また、英語能力の向上と学術国際会議での研究発表を視野に入れた、外国人講師による英語プレゼンテーション演習科目の設置を検討しています。

 さらに、文部科学省より平成21年度「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム」に選定された、理工学部『段階別コンピテンシー育成教育システム』に基づくコンピテンシーを理工学研究科にも導入することにより、従来型教育と人間力育成教育を組み合わせ、段階的かつ能動的に学生が自らの行動特性を向上していくことのできる体制作りを行っていきます。

 最後に、理工学部では2008年度に生命科学科を新設し、順調に学部生の教育が進んでいます。その完成年度に合わせて、生命科学専攻(仮称)を2012年度に開設すべく、現在、設置申請の準備を進めております。これにより、理工学研究科は理工学のほぼすべての分野をカバーできる体制になり、ますます充実したハイレベルな研究実績が期待されることとなるでしょう。

石井 洋一(いしい・よういち)/中央大学理工学部教授・理工学部長・大学院理工学研究科委員長
専門分野 有機金属化学
東京都出身。1958年生まれ。東京大学工学部合成化学科卒業。1986年東京大学大学院工学系研究科合成化学専門課程博士課程修了。工学博士。東京大学大学院工学系研究科助教授を経て2002年より現職。2009年11月~理工学部長・大学院理工学研究科委員長。主要著書に『若手研究者のための有機・高分子測定ラボガイド』(共著:講談社サイエンティフィク)。趣味は古美術鑑賞。