卵の殻から 生地を生む
ファーマフーズ 大阪・関西万博推進本部長 原田清佑さん
読売新聞大阪本社版朝刊
来年4月に開幕する大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をメインテーマに据える。機能性食品素材を手がけるファーマフーズはこの舞台で、わずか3週間で新たな命を育む鶏卵に着目し、「命のベール」のような役割を持つ「卵殻膜」から作り出した繊維を披露する。大阪・関西万博推進本部長の原田清佑氏は「小さな卵には偉大な可能性が秘められている。常識の『殻』を破った研究の成果をみせたい」と意気込む。
ファーマフーズは1997年の設立以来、短期間でひよこが生まれてくる鶏卵の生命力に注目し、研究に取り組んでいる。これまでに卵由来の成分を配合した育毛剤や葉酸を多く含んだ卵を生み出してきた。卵由来以外の素材も開発しており、ストレスの緩和や睡眠改善に効果のあるアミノ酸の一種「GABA(ギャバ)」は、世界トップのシェア(市場占有率)を持つことでも知られる。
鶏卵を研究する中で、殻の内側の薄い卵殻膜が「美しい繊維状の構造をしている」(原田氏)ことを発見。水に溶けにくい卵殻膜を糸にする独自の技術を約20年がかりで開発し、新たな繊維素材「オボヴェール」の実用化にこぎ着けた。カシミヤやシルクに近い肌触りの良さに加え、肌の潤いの維持に役立つ効果が確認されているという。
万博では「大阪ヘルスケアパビリオン」に出展し、京友禅の作家とコラボレーションして、オボヴェールで作った美しい布が空中を舞うさまをみせる。原田氏は「幻想的な世界を演出し、生地本来の美しさに心をときめかせてもらいたい」と話す。オボヴェールの服が試着できるイベントや、卵そのものの魅力を紹介する展示も計画している。
日本では年間26万トンの卵の殻が廃棄され、そのうち1万トンが卵殻膜に相当するとされる。卵殻膜を有効に活用する道筋をつけたオボヴェールは、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の貢献にもつながると期待される。
原田氏は「今まで捨てられていたものに新しい価値を与え、購入しやすい適正な価格で提供することは、SDGsの理想形ではないか。万博で世界へ発信したい」と力を込める。
(都築建)