持続可能な未来へ好機
大阪大 堂目卓生教授
読売新聞大阪本社版朝刊
自分たちだけが儲けようと考えるのではなく、地球全体を一つの家ととらえ、いかに資源を分け合いながら生きていくか。
これこそが真の意味での経済活動であり、「誰一人取り残さない」世界の実現を目指すSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みそのものである。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる2025年大阪・関西万博は、世界の人々の意識をそうした方向に変えていく絶好のチャンスとなるだろう。
18世紀の産業革命以後、生活は豊かになり、寿命も延びた。一方、現在80億人の世界人口は2100年には100億人に増えると見込まれ、人類の活動は地球温暖化や環境破壊といった深刻な問題ももたらしている。
今の世界を船に例えるなら、船底に穴が開いて水が入ってきている状態だ。もはや穴をふさぐだけでは済まない時期に来ている。新しい大陸を見つけなければならない。この新しい大陸こそが、万博がうたう未来社会のデザインだといえる。
では、どのような未来社会を目指すのか。まずは担い手となる若者の意見を聞く必要がある。どんな未来を望むのか。そのためには何をなすべきか。そして今を担っている我々大人が、それらが手遅れにならないよう責任を持って実現していかなければならない。
万博に向けて若者の声に耳を傾ける場となるのが、今年3月に大阪大学と関西の経済3団体が設立した「いのち会議」だ。企業やNPO、政府、自治体が議論する市民部門と、主に研究者が海外の大学と学術的な立場から展望を描く国際部門があり、私が実行委員を務める市民部門には学生らも加わっている。
いのちが輝くとはどういうことか、SDGsをどう推進していくのかを考え、話し合っていく。議論の成果を「いのち宣言」としてまとめ、万博に合わせて世界に発信する。
いのち会議は宣言の後も活動を継続し、グローバルに連携を広げながらさらに議論を深めていく。その果実はソフト面における万博のレガシー(遺産)として、SDGsの次の目標を議論する国連に提案したい。
万博は「お祭り」だが、閉幕したら終わりではない。「いのちを大切にする」未来に向けたムーブメントの始まりを告げる機会になってほしい。
(聞き手 升田祥太朗)