新興企業を誘致・育成
SBC大阪国内外13社 大手と協業

読売新聞東京・大阪本社版朝刊

世界の有望なスタートアップ(SU、新興企業)を選抜・育成する「スタートアップブートキャンプ・スケール・大阪」(SBC大阪)が2月末、1年目のプログラムを終えた。大阪・関西は2025年の万博などSUが活躍できる舞台が目白押しだ。産官学が連携し、さらにSUを呼び込む仕掛け作りが求められている。

ビデオ収録でSBC大阪に参加した成果などを語るスタートアップの経営者(2月28日、大阪市北区で)=川崎公太撮影

 「大阪を起点にビジネスを成功させたい」――。2月末、大阪市北区のビルの一室は熱気に包まれていた。SBC大阪に参加したSUの経営者らがビデオカメラの前に立ち、意気込みを語った。

 いずれのSUもこの8か月、パートナーの日本企業と実証実験などを重ね、日本でのビジネス化の可能性を探ってきた。本来であれば、華々しく成果をお披露目する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で発表会は中止に。後日、ホームページで掲載できるよう成果やビジネスへの思いを動画で収録することになった。

 SBC大阪を運営するのは、世界的なSU支援大手の英レインメイキンググループ。これまで世界18都市で開催してきた経験をもとに、初めて日本でプログラムを開催した。1年目の応募は455社。選考の結果、オーストラリアや香港など8か国・地域から、人工知能(AI)や画像認識、遺伝子解析などの先端技術・サービスを持つ13社が参加することになった。

ナチュラルマシーンズの食材加工技術をテストする関係者ら(阪急電鉄提供)

 このうちの1社、スペインの「ナチュラルマシーンズ」は3次元(3D)プリンターの技術を使い、野菜やチョコレートなどの食材を様々な形につくりかえる技術がある。これまで阪急電鉄、電通とビジネス化に向けて協議を進めてきた。

 今後も、阪急阪神グループのホテルに食材の3Dプリンターを導入し、料理の装飾に使ったり、食ビジネスの支援施設「大阪フードラボ」(大阪市)に常設したりして、料理への応用を検討していく。ナチュラル社のエミリオ・セプレベダ最高経営責任者(CEO)は「大手企業との協業で、日本での展開に弾みをつけたい」と期待する。

 香港の「マプサス」は、商業施設などの建物内でユーザーが行きたい場所へスマートフォンなどで案内するナビゲーションサービスを手がける企業で、阪急電鉄、JR西日本イノベーションズと組んだ。JR西の「京都鉄道博物館」(京都市)での実証実験では、ベビーカーや車いす利用者向けの経路を正確に案内できるなどの成果が得られた。

 読売新聞大阪本社は、世界の180か国以上で使われている旅行者向けSNSアプリを展開する「トラベロ」(オーストラリア)と組んだ。グループの読売旅行が扱う両国国技館(東京)での相撲観戦と昼食付きのツアー商品をSNS経由で販売したところ、訪日客を中心に大きな反響があった。マーク・カントーニ最高執行責任者(COO)は「大阪は住みやすく、支援も手厚い。優れた環境下でビジネスを成功させたい」と笑顔を見せた。

 SBC大阪は来年度も新たなSUを大阪・関西に誘致し、パートナー企業との協業を広げていく。

◆SBC大阪のパートナー企業◆
阪急電鉄、さくらインターネット、JR西日本イノベーションズ、電通、日本たばこ産業、三井住友銀行、読売新聞大阪本社

事業化に手応え

英SU支援大手 日本法人代表 ジョシュア・フラネリー 氏

 SBC大阪の成果や手応えについて、レイン社日本法人代表のジョシュア・フラネリー氏に聞いた。

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 SBC大阪の狙いは、大阪・関西の活性化など地域課題の解決にある。世界から455社ものSUの応募があったことは、世界からみた大阪がいかに魅力的かということを示している。

 今回、SUとパートナー企業の大手企業との取り組みを見ていると、両者で非常に円滑なコミュニケーションが取れていることがわかった。これはSUが地域に根付くかどうかの重要な要素になる。

 大阪・関西の特徴とされる、新しいことをどんどん取り込もうとする雰囲気も肌で感じた。東京ほどは大きくない経済圏の中で、人や企業間の距離が近く、全体で「One OSAKA」を醸成して盛り上げようとしている。今回、SBC大阪で始めた実証実験では、既にビジネス化が視野に入った事業も出てきており、今後も期待できる。

 海外のSUを呼び込むことができれば、優秀な人材や新しい技術・サービスが付いてくる。大阪・関西が世界に誇るSU都市に成長できるよう、これからも貢献していきたい。

「うめきた」新産業の呼び水

 SUが集積する上で欠かせないのが、様々な企業や研究機関が交流し、イノベーション(革新)を起こすための拠点だ。JR大阪駅北側に広がる再開発区域「うめきた」(大阪市北区)の2期がその担い手として注目されている。

 うめきたは「関西最後の一等地」とされ、2期は2024年夏頃の街開きを予定している。都心部では異例となる広大な公園に加え、新産業創出の支援拠点や国際交流拠点を設ける計画だ。三菱地所やオリックス不動産、阪急電鉄など9社の企業連合が開発を担う。

 民間事業者の開発区域は北側の「北街区」(1.6ヘクタール)と中央部の「都市公園」(4.5ヘクタール)、南側の「南街区」(3.0ヘクタール)の3ゾーン。北街区にはロボットや創薬などを想定した新産業創出の支援拠点を設ける。南街区には国際会議が開ける施設などを設け、海外からビジネスマンや研究者らを呼び込む計画だ。

 都市公園ゾーンでは自然豊かな「うめきたの森」や、1万人規模のイベントに対応できる「リフレクション広場」などを整備する。うめきた2期のこうした機能がSUの呼び水となることが期待されている。

京阪神 拠点へ名乗り

 政府は2019年6月、起業家や投資家が集積する「スタートアップ・エコシステム拠点都市」の構想をまとめ、国内にSUを集積させる取り組みに着手した。公募に応じた都市のなかから、今春にも「グローバル拠点都市」2~3か所と、それに準じた「推進拠点都市」数か所を選ぶ方向だ。

 グローバル拠点都市に選ばれれば、起業家に資金調達や上場などを支援する「アクセラレーションプログラム」の実施や、自動運転などの実証実験で規制緩和の特典が受けられることも検討されている。

 関西では、大阪、京都、神戸の3都市がタッグを組み、グローバル拠点都市への選定に名乗りを上げた。経済団体もこの動きをバックアップしている。ロボット技術、医療・創薬など各地域の強みを結集して臨む方が効果が大きいと判断したためだ。

 大阪商工会議所の尾崎裕会頭は「京阪神はライフサイエンスで連携の実績がある。多様で豊富なリソース(資源)を活用して大きな仕掛けに取り組むことができ、多くのSUを成長させる基盤がある」と強調する。

 これまでに約20都市が名乗りを上げ、東京、福岡などが選定に向けたライバルとなる。SUを支えるための施策や施設の充実度などが総合評価される見通しで、「産官学一体でSUを支える気概が感じられるかどうかが、合否を分けるポイントになる」(政府関係者)としている。