地域によって表れる伝統工芸品の特色
京都ならではの"品"大切に
京友禅に用いられる金箔加工をする工房「二鶴(ふづる)工芸」。光の具合や見る角度によって立体的に浮かび上がる神秘的な金彩の技法で、2025年大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」を描いたガラストレイを発売した。シンプルながら神秘的な商品づくりを心がけている金彩工芸職人・上仲昭浩さんに、金彩工芸の特徴や伝統工芸のこれからについて聞いた。
「京都の仕事は“品(ひん)”」。7年間修業を積んだ工房の師匠の言葉で、私もそれを心がけながら、今も仕事に向き合っています。
金箔をたくさん使いすぎると、どうしても下品な印象になってしまします。金彩は友禅染の生地を引き立たせるための技術として、自分が物足りないな、と思うくらいがちょうどよい塩梅だと思っています。
京都には皇族・公家や貴族といった位の高い方やお寺さん、お祭りなどのお誂え品を作ってきた歴史があります。工芸品によっては、一見、豪華絢爛に見えるものもありますが、京都らしい品が備わっています。一方で、東京には“粋”という感性がありますよね。どちらが良い、悪いと言う訳ではなく、それぞれの地域によって感性の違いがあります。伝統工芸品にもよく表れていて、その土地ごとの特色があって面白いな、と思います。
修業していた頃は、厳しく叱られることも少なくありませんでした。バブル期だったこともあり、毎日大量の依頼品が運び込まれる中で、多くの経験を積むことができました。
特にこの仕事で大事なのは糊の扱いです。糊の厚みを調節して箔の発色を変えることもできます。使う糊自体からその置き方などまで、職人によりそれぞれ違うため、正解はありません。プロとして、仕上がりが良いものを生み出すことができれば、その手法に正道、邪道は無いと思っています。
修行4年目くらいのころ、師匠から「着物はこれから右肩下がりになるだろう」ということで、師匠の作品展示会への一部出展をきっかけに、金彩技術を使った商品開発に取り組みました。確かに、将来的に工芸品、着物は業界全体で衰退していくだろうなと感じていたので、何か新しいことを始めるべきだと考えていました。
今では、金彩に限らず、様々な伝統技法を活用した商品開発が当たり前になっていますが、当時は他の職人から「なんでそんなことをする必要があるんや」と言われることもしばしばありました。
金彩ガラストレイも、こうした商品開発から生まれたアイデアです。ガラスと金彩の輝きは相性が良いだろうというところから出発しました。完成品は、ガラスを通して金彩を施した生地を見ることになるため、発色の仕方やガラスと生地を圧着する際の熱による変色なども考慮しながら、うまく着物に使っていた技術を落とし込むことができた商品です。
一方で、多くの伝統工芸品が新しい商品を展開することで、ありふれた雑貨と化してしまうのではないかという不安もあります。仕事として成り立たせるために、商品開発を推し進めるか、海外展開に舵を切るかという流れが業界全体にあると思います。いずれにしても、新しい価値を生み出すことが私たち職人にも求められているのではないでしょうか。
今回、万博に関わらせていただいたことは、一生に一度のことだと思うのでとてもありがたいと思っています。「ミャクミャク」というキャラクターを通じて、工芸に興味を持ってもらうきっかけになれば、伝統工芸の業界に寄与できるかなと思います。
【金彩工芸】
室町時代から江戸時代にかけて確立されたとされる、帯や着物といった布生地に金箔を施す技術。諸説あるが、平安時代中期には技術の素地があったとされ、室町時代に中国から日本に伝わった袈裟の印金をもとに、能衣装に施された「摺箔(すりはく)」として発展したとされる。明治時代後半から友禅染に施されだした。
昭和に入ると技術革新が進み、様々な種類の箔や合成樹脂を使った糊が開発され、加工の可能性が一層広がりを見せた。
基本の技術には、金箔を貼る「箔押し」、金の線を描く「筒描き」、竹筒を使って細かな金を撒く「振り砂子」の大きく3つがある。これらから更に派生して色々な技法が生み出され、時代のニーズに対応しながら進化を続けている。
「金」といっても、明るいものや暗いもの、赤みがかったものや黄色っぽく見えるものなど多くの種類があり、銀箔や色箔も加えると数百種類のバリエーションに及ぶ。どの箔を選び、どのような加工を施すかによって、仕上がりが大きく変わる。
読売新聞は、日本の伝統文化を守り、次世代に伝えるため、伝統的な技術やデザイン、美術品等を用いた2025大阪・関西万博公式ライセンス商品を制作、販売しています。