タイアップ企画TIE-IN
【全7回シリーズ 第5回】
三井住友信託銀行
タイアップ企画
「地域とともにSMTB
“With You活動” 中京圏版」
~支店の若手が、後輩へつなぐ
木曽三川の天然記念物イタセンパラ~
三井住友信託銀行の各支店がそれぞれの地域で取り組む活動を紹介する「目覚めよJAPAN」のタイアップ企画。第5回は、愛知県や岐阜県などをカバーする中京圏エリアで行われている生き物を守る活動を追う。木曽川、長良川、揖斐川の木曽三川をなす肥沃な濃尾平野で育まれた生態は、治水整備や外来種の流入などで脅かされている。経済発展とともに希少となり、絶滅の危機に直面するイタセンパラもその一つだ。この地域、地理的条件だからこそ生息してきた“タカラ”を次世代につなぐため、地道な活動に三井住友信託の支店がかかわっている
■地域文化を伝える天然記念物
国が指定する淡水魚の天然記念物とは――。天然記念物と聞いて、トキやタンチョウ、オオサンショウウオといった特別天然記念物を思い浮かべる人は多くても、淡水魚の名前を挙げる人は少ないだろう。国が指定する天然記念物は、「動物」で約200件。このうち生息地を指定しない淡水魚の天然記念物は4種で、愛知県と岐阜県の県境を流れる木曽川水系にも生息するイタセンパラがその一つだ。イタセンパラは、氾濫を繰り返し、流れが変わる木曽川の歴史とともに毎年子孫を残してきた。自然保護だけでなく、文化を守り、地域の自然と人々の営み、そしてそれぞれの歴史を結ぶ天然記念物として大きな存在だ。
だが、希少さゆえに、天然記念物は一部の動物を除いて、その知名度は思うように高まらないもどかしさがある。イタセンパラも同じだ。
イタセンパラは、板のような体形で、繁殖期になるとオスの腹あたりが鮮やかな色になることから「イタ(板)セン(鮮)パラ(腹)」と呼ばれる。1974年文化財保護法に基づく天然記念物に、1995年に環境省の「国内希少野生動植物種」に指定された。
■地域の宝を受け継ぐ
三井住友信託銀行一宮支店(愛知県)では2016年から環境省の認可を得て、イタセンパラを飼育・展示する。少しでも知名度を高め、イタセンパラを通じて、木曽川水系が育む地域の自然や文化に触れてもらうのが狙いだ。飼育が認められている一般企業は数少ない。昨年秋にイタセンパラを受け入れてから、毎日のエサやりと毎週の水槽の水替えを同期とともに担ってきた入社2年目の大矢真理子さんは、「水の入れ替えは力仕事で大変ですけど、イタセンパラを通じ地域の自然や環境保護にも興味を持つきっかけになり、環境に対する意識も変わった」と、話す。
同支店では、入社して半年後の新人社員が、イタセンパラの飼育係になる。今年も9月に新たなイタセンパラ5匹を迎え入れ、飼育係は、大矢さんから今春入社の竹川紀香さんに託す。1年で成熟する単年魚のため、ほとんどのケースは1年と生き続けられない。しかし、昨年受け入れた5匹のうちの1匹は、水槽で元気に回遊する。「前の代と新しい代が“同居”する日がきた」と、水槽をのぞき込む大矢さんと竹川さんの笑顔がはじける。
イタセンパラは、成長しても10センチ程度と派手さはない。天然記念物のため、保護が目的で、普及啓発として限定的に飼育・展示が認められている。一宮支店も適切な管理を前提に、環境省の認可を得て、産卵を終えた成魚のみを飼育している。2016年から毎年成魚を受け入れて、飼育するが、これまでいずれも数ヶ月で天命を迎えてきた。しかし、今年は違う。昨年9月に新たなイタセンパラを迎え入れるにあたって水槽の側面のうち2面を黒幕で覆い、水槽内には大きめの立木を置いて、工夫を施してきた。イタセンパラの保護・繁殖を手がける「世界淡水魚園水族館(アクア・トトぎふ)」(岐阜県各務原市)の館長、池谷幸樹さんは、「イタセンパラは1年魚でありながら、一生の半分以上を産卵した二枚貝の中で過ごす。鮮やかに魚体を輝かせるのは繁殖期の1か月だけ。淡水魚の世界のサクラの木。しかし、自然界ではなかなか見られないし、繁殖期だけの美しさだと水族館では地味に思われがち。目に留まるのは興味・関心のある人が中心になる。銀行という幅広い人が来る場所で、静かに見てもらえる環境が続いていることで、認知度のアップにつながる」と、喜ぶ。
■地元高校生と連携。地域の縁がもたらす変化
支店での取り組みは、次世代を担う地域の若者との交流にもつながっている。
一宮支店と同様に2016年から飼育を始めた県立一宮高校との連携だ。同校生物部の1年生が毎年、文化祭に向けてイタセンパラの生態を研究して1枚のポスターにまとめている。支店社員にイタセンパラを学んでもらおうと、一宮支店が門戸をたたき、接点ができた。昨年は、一宮高校の生徒が作成したイタセンパラのポスターを一宮支店の水槽脇に展示した。同校教諭で生物部顧問の原いずみさんは、「地域の天然記念物であるイタセンパラを学ぶことで、身近な生き物や環境への気づきにつながっている。銀行での展示で、研究発表だけでなく、周知広報という視点で幅広く知ってもらうためにはどうしたらいいか、生徒たちが考えることにもつながった」と、地域の縁がもたらした変化を感じる。
■イタセンパラが問いかける地域の価値
イタセンパラが生息しているのは、木曽川のある濃尾平野、富山県の富山平野北西部、琵琶湖淀川水系の3か所のみとされる。治水による河川整備や外来種の流入、密漁といった課題に直面している。
アクア・トトぎふの池谷さんによると、イタセンパラは藻食魚で、氾濫を繰り返し、浅瀬で広く藻が生息する水域を好む。治水が進み、砂利採取やダムの影響で、川岸は樹木が生い茂るようになって、イタセンパラにとっては住みにくくなっているという。池谷さんは、「人間の生活を守る治水は欠かせないが、その中で、地域の貴重な生態が本来のように生息できるようにどう両立していくか考えていく必要がある。地域の魅力を持続可能にするためには、新しい価値観が求められるようになっている」と話す。
地域の人々の生活と、地域の文化、自然をどう守っていくのか。支店長の福井さんも、「支店の取り組みも飼育による周知・広報だけでなく、高校との交流も続けながら、河川清掃などにも幅を広げていきたい。地域の宝を知ってもらうことで、自分たちの生活を考えるきっかけになってもらえたら」と願う。木曽川を挟んで隣県の岐阜支店では以前から、木曽三川の一つ、長良川の清掃活動に参加しており、各支店の取り組みにつながりがみえつつある。
全国の地域でも、同様にそれぞれの環境の下で、生態が育まれ、人々の営みが織りなされ、文化を醸成している。地域の魅力を次世代にどう伝えていくのか。水槽の中で、天然記念物のイタセンパラが語りかけている。