「近居・同居」

2018.11.2

互いに助け合う家族のカタチ
いまの時代だからこそ〝近くに住む〟という選択

 子育て世代にとって、住まい選びに大きく影響するのが両親との距離の取り方です。「子育てを手伝ってくれればありがたい」という思いもあれば、「干渉されたくない」という気持ちもあり、迷う方は少なくありません。最近は同居に加え、近居という考え方も広まってきました。それぞれの特徴をじっくりと考えましょう。

これからの住まい 注目される「近居」

 「近居」にははっきりとした定義はありません。車や電車など交通手段を問わずに、おおむね30分程度で行き来できる距離に住むことを指すのが多いようです。

 近居への関心が特に高まったのは、2011年の東日本大震災がきっかけです。交通機関が混乱し、大勢の帰宅難民が生まれました。共働き世帯が増加し、「いざというときに、保育園に誰も子どもを迎えに行けない」。パパ、ママにとって、こんな悩みが切実に感じられるようになったからです。頼る存在として、親が改めて注目されたのだとみられます。

 国土交通省の住生活総合調査(図1)によると、住み替えの主な目的では、「同居・隣居・近居」が13年に10.6%と5年前の調査からほぼ倍増しました。内閣府の「家族と地域における子育てに関する意識調査」(図2)では、理想の家族の住まい方は「祖父母と近居」(31.8%)が、「祖父母と離れて住む」(21.7%)や「祖父母と同居」(20.6%)を上回りました。

 近居ならば、親と一定の距離を保ちつつ、孫の成長を間近で見せられたり、親に何かあったときはすぐ駆けつけられたりするという、同居のメリットを取り入れられる点が支持されているようです。

 近居の実現の仕方は様々です。親の家の近くに、子ども世代が家を買ったり、借りたりする例もあれば、古くなった親の家を売り、同じ新築マンションを親世帯、子世帯がそろって購入する例もあります。

環境にあわせて「同居」を選ぶ人も

 厚生労働省の国民生活基礎調査によると3世代同居する世帯の割合は17年に5・8%と、過去10年間で2・6?減りました。とはいえ、全く選択肢にならないというわけではありません。同居に際しては、家を建て直したり、リフォームしたりするケースが大半ですが、子世代にとっては、住宅に関する費用を大幅に削減できます。場合によっては、将来的な相続対策にもなります。

 祖父母と一緒に暮らすことは、孫の成長にプラスになる面も少なくありません。家事を分担すれば負担を軽くすることもできます。

条件などを見極め最適な住まいを

 住まいを決めた後もお互いへの配慮が必要です。近居の場合でも、夫婦のどちらかが実家に依存し過ぎて夫婦関係が悪化することがあります。頻繁に頼られる「孫疲れ」を嫌う人もいます。

 同居の場合は、プライバシーの確保や3世代が快適に過ごせる環境づくりが重要です。玄関、居間や水回りなど共有する範囲を具体的に決めましょう。バリアフリー化や省エネ化のためのリフォームも検討してみましょう。

住み替え前にしっかりチェック!お得な制度も

 政府は、子育てしやすい環境につながるとみて、16年にまとめた「ニッポン1億総活躍プラン」の中で、同居や近居に対する支援策を盛り込んでいます。同居のためにかかったリフォーム費用に対し、ローンを組まない場合で最大25万円を所得から控除できるリフォーム減税などの特例措置があります。千葉県松戸市は親が市内に住んでいる人が転居してきた場合、近居では最大75万円、同居では最大100万円の補助金を出しています。自治体も様々な制度を設けており、親と関係のない土地で住むよりも、近居・同居の方がお金の節約につながることは少なくありません。

 ただ、利用する制度によって、認められる条件が異なることがあります。事前申請が必要な場合もありますので、注意しましょう。

専門家からのメッセージ

 近居と同居、一概にどちらがいいとは言えません。住まいの立地や土地の広さによっても、取り得る選択肢が違うからです。実の両親だとしても、うまくいくとは限りません。大事なのは両親との間でしっかりとしたルールを設けることです。お金は大切ですが、お金を節約することを目的に、住まい選びを考えるのは失敗のもとです。まずは、自分たちが、どのような暮らしを送りたいかを考え、それにふさわしい住まい選びをしましょう。

<監修> 住宅ジャーナリスト 山本 久美子さん
リクルートにて、「週刊住宅情報」「都心に住む」などの副編集長を歴任。現在は、住宅メディアへの執筆やセミナー等の講演にて活躍中。「SUUMOジャーナル」「All About(最新住宅キーワードガイド)」等のサイトで連載中。

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