研究

少子高齢化と幸せの関係

松浦 司(まつうら つかさ)/中央大学経済学部准教授
専門分野 人口学、応用計量経済学

1. 世界と日本の高齢化

 高齢化は世界中で急速に進展している。最新(2022)の国連の人口推計によれば、2002年には世界の高齢化率(65歳以上人口比率)が7%を超えて、世界全体が高齢化社会に突入した。また、図1でも示されるように、今年には高齢化率が10%を超え、今後も高齢化が世界中で進展していくことが予想される。世界の高齢化の大きな要因として、東アジアの高齢化がある。東アジアは今後、急速に高齢化が進展していくことが予想される。1997年には高齢化率が7%を超えて高齢化社会になり、2020年には14%を超えて高齢社会に突入した。今後も東アジアでは高齢化が進展していき、2050年には30%を超えることが予想されている。

図1 世界、東アジア、日本の高齢化

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 東アジアのなかで日本は高齢が突出して高く、今年は30%を超えることが予想されており、現在世界で最も高齢化率の高い国となっている。今後も日本は高齢化が進展していくことが予想され、2050年には40%近くとなる。さらに、日本のなかでも、高齢化の進展には地域差がある。図2が示すように、2020年では高齢化率が35%を超える県は秋田県と高知県であり、大都市圏では高齢化率は低い。一方、2045年では全体的に高齢化が進展するが、特に東北地方では高齢化が顕著に進むことが予想される。例えば、秋田県は2045年には高齢化率が50%を超えて、人口の半分以上が65歳以上となることが予想される。

2 都道府県別高齢化率:2020

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3 都道府県別高齢化率:2045

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2. 高齢者の単身世帯化

 それに対して、東京都、大阪府、愛知県などの大都市圏では2045年時点でも高齢化率が30%を程度である。しかしながら、これらの大都市圏では高齢化が深刻でないということを意味しない。高齢化が進展するにつれて、高齢者の単独世帯数も増加する。特に、これらの大都市圏では高齢者の単独世帯数が大幅に上昇することが予想されている。図4が示すように、東京都では65歳以上の単独世帯数が100万人を超えて、65歳以上の高齢者の27.7%が単独世帯となることが予想されている。大都市圏では高齢者の単独世帯がいずれも高くなり大阪府や神奈川県も50万人を超えることが予測されている。

図4 2035年の高齢者の単独世帯数の予測

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 このように、大都市圏では高齢化率は地方圏よりも低いものの、高齢者の絶対数が増えることと単身世帯化が進むことによって、高齢者の単独世帯が増えるという特徴がある。

3. 単身高齢者の貧困と幸福度

 高齢者の単身世帯化は何をもたらすのであろうか。高齢単身世帯は、一般的に貧困と関係が深い。橘木・浦川(2006)では、女性の単身高齢世帯の貧困率の高さを指摘している。このように、高齢者の単独世帯が増えることは貧困率の上昇が懸念される。

 一方で、高齢者の単身世帯化は必ずしも悪いことばかりではないという指摘もある。Klinenberg(2012)は、高齢者の単身世帯はプライバシーを確保して、自分の生活を自分で決めることができるという積極的な側面を強調する。そこで、日中の高齢者のデータを用いて高齢者の単身世帯であることが幸福度や生活満足度といった主観的厚生に与える影響を検証したのが、筆者と法政大学の馬欣欣教授とのJournal of Happiness Studiesに掲載されたMatsuura and Ma(2022)である。そこでは、中国では男女ともに高齢者の単身世帯であることが主観的厚生に与える影響は確認されなかったが、日本の場合、高齢女性では単身世帯であることが主観的厚生にプラスに影響し、高齢男性では顕著にマイナスになることを示した。

 さらに、筆者が世界各国のサンプルを利用できるWorld Values Survey(世界価値観調査)を用いて、未婚であることの主観的厚生に与える影響の男女差を年齢、経済の発展段階、時代による変化を分析したのが、Matsuura(2022)である。その結果、年齢が若いと未婚であることの主観的厚生に与える影響の男女差は確認されないが、60歳以上であると未婚であることの主観的厚生に与えるマイナスの影響は男性のほうが顕著に大きいことが示された。また、このような傾向は発展途上国よりも先進国のほうが顕著であること、近年ではこのような傾向は弱くなっているが、2010年以降のデータを用いても先進国の60歳以上の場合は、男性のほうが女性よりも未婚であることの主観的厚生に与える負の影響は顕著に大きいことが示されている。

4. 子どもを持つことと幸せの関係

 このように高齢社会の現状を幸福度や満足度といった主観的厚生を手掛かりに考察してきた。人口学では高齢化の決定要因として、出生率と平均寿命の延びがあるとされ、そのうち出生率が高齢化率を決定する要因が大きいとする。政府も高齢化問題を対処するために少子化対策を推進し、実際に岸田政権では「異次元の少子化対策」を提唱する。

 低出生率は日本だけではなく、東アジアに共通する傾向であり、韓国、台湾、香港では合計(特殊)出生率も1を割り込む年もある。それに対して西欧はおおむね1.5から2の間で推移している国が多い。

 そこで、子どもが親の満足度への効果が東アジアと西欧では異なるのではないかという仮説を検証したのが、明海大学の影山純二教授との研究である、Kageyama and Matsuura(2023)である。この論文では、既婚女性を就業の有無、子どもの有無で4つに分類して、子ども無し/非就業ベースにして、子どもなし/就業(W_NP)、子どもあり/非就業(NW_P)、子どもあり就業(W_P)の満足度を東アジアと西欧で比較した。

 その結果が図5に示される。東アジアでは2010年代では子ども無し非就業に比べて、他の場合は顕著に満足度が低い。逆に言うと、子ども無し非就業は顕著に満足度が高いことを意味する。また、2000年代と比べて2010年代は子どもがいることは就業の有無に関係なく、女性の満足度が低くなる。それに対して、西欧では最近になるにつれて、子どもがいることの女性の満足度が高くなる傾向がある。このことから、西欧と異なり東アジアの低出生率の一因として、特に女性の場合に、子どもがいることの負担感が大きくなっている可能性が考えられる。

図5 子どもが母親の生活満足度に与える影響:東アジアと西欧

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5. まとめ

 本稿をまとめると次のようになる。世界全体が高齢化しており、特に東アジアが主要な原因であり、そのなかで日本は世界で最も高齢化が進み今後もその動きは加速することが予想されている。また地方でこの傾向が強い。一方、都心では高齢者の単身世帯化が進むことが予想されている。高齢者の単身世帯化は貧困の原因である一方、幸福度に与える影響は男女で異なり、日本の女性の場合、高齢者の単身世帯化は幸福度の低下の要因とは限らない。さらに、未婚であることの幸福度の低下は男性のほうが大きく、年齢が上昇すると男女差は顕著になる。これは世界的傾向である。また、高齢化に直面した日本では少子化対策が政府も主張しているが、東アジアでは西欧と異なり女性の子どもを持つことの負担感が高まっていることも、東アジアの低出生率の一因であることが推察される。


【参考文献】

橘木俊詔・浦川邦夫(2006)『日本の貧困研究』東京大学出版会
Kageyama. J. and Matsuura, T. (2023). "How Do People in East Asia Feel About Parenthood and Work?" Kageyama, J and Teramura, E. (eds). Perception of family and work in low-fertility East Asia. Springer.
Klinenberg, E.(2012). Going Solo: The extraordinary rise and surprising appeal of living alone. New York: Penguin Press.
Matsuura, T. & Ma, X.(2022). "Living Arrangements and Subjective Well-being of the Elderly in China and Japan," Journal of Happiness Studies, 23(3), pp. 903-948.
Matsuura, T.(2022). "Gender Difference in the Effect of Never Married on SWB" IERCU Discussion Paper 368 2022-04-26

松浦 司(まつうら つかさ)/中央大学経済学部准教授
専門分野 人口学、応用計量経済学

福井県出身。1977年生まれ。2001年早稲田大学政治経済学部卒業。
2005年京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。
2008年京都大学大学院経済学研究科博士課程学修認定後退学。 
2011年京都大学大学院経済学研究科博士課程学修了。博士(経済学 )。
中央大学経済学部助教を経て、2012年より現職。

専門は人口経済学、労働経済学である。また、主要著書に『現代人口経済学』(日本評論社、2020年)、主要論文にMatsuura and Ma(2022)."Living Arrangements and Subjective Well-being of the Elderly in China and Japan," Journal of Happiness Studiesなどがある。