研究

拘禁刑の創設

-処遇の一層の充実、立ち直り支援のための諸制度の導入-

只木 誠(ただき まこと)/中央大学法学部教授
専門分野 刑事法学

 現在、いわゆる束ね法案として、「拘禁刑の創設」、「刑の執行猶予制度の拡充」、「施設内・社会内処遇の一層の充実」、及び「侮辱罪の法定刑の引上げ」等を盛り込んだ刑法改正の法律案が国会に提出されている(同法案は、本年(2022年)6月13日に可決、成立したが、本稿は5月末の段階での法案の説明を行うものであり、「改正案」「現行法」等は、その時点の表記であることをお断りしておきたい)。本稿は、これらのうち、とくに「拘禁刑の創設」につき、その内容を簡潔に紹介し、関連して、受刑者の改善更生・社会復帰を目指す取り組みについて述べるものである。

1.再犯についての現状

 昨年の犯罪白書によれば、刑務所を出所後、2年以内に再び罪を犯して入所した者の「再入率」は約16%であるところ、特に、保護観察がつかない満期釈放者については、出所後の支援が届きにくい面もあることから、その再入率は仮釈放者のそれと比較して2倍以上と高く、再犯防止対策の強化が課題となっている。また、入所受刑者人員に占める再入者の比率、いわゆる再入者率は58%と高止まりしている状況である。他方で、再入受刑者においては無職者の割合が高く、また、職業訓練を受けた者の再入率が低いことは一般に知られている。今回の改正案が議論された背景には、このような現状や課題についての認識が存していたものと思われる。

2.法案説明

 今回の「刑法等の一部を改正する法律案」においては、現行の懲役刑、禁錮刑を廃し拘禁刑を創設することが示されたが、あわせて、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰という目的のもと、施設内・社会内処遇の一層の充実を図るための所要の規定の整備も予定されている。すなわち、以下に述べる、受刑者の資質・環境の調査(処遇調査)における鑑別の活用、刑執行終了者等に対する援助拡大や、被害者等の心情等を踏まえた処遇の実施などがこれである。また、拘禁刑の導入に伴っては、刑事収容施設法においても、拘禁刑の執行を受ける受刑者には個々の特性・必要性に応じた作業を課し、改善指導や教科指導を行うこととし、また、矯正処遇の一環として、被害者等が希望する場合には、被害者等から聴取した心情等を受刑者に伝達する制度を設けることなどが新たに盛り込まれた。

 一方、勤労意欲を高め、規律ある就業態度を養い、職業上有用な知識及び技能の習得を目的とした作業活動、犯罪の責任の自覚と規範意識の涵養や健全な社会人たるに必要な能力の獲得等を目的とした改善指導、社会生活の基礎となる知識の習得等を目的とした教科指導については、いずれも、受刑者の改善更生および出所後における再犯防止という観点から重要な処遇方法であるところ、学力の不足が顕著である、高齢で福祉的な支援が必要である、薬物等への依存が見られる等々、受刑者が抱える問題は多様であり、その特性に応じた、作業と指導のバランスの良い処遇が鍵となる。そのため、 作業に替えて指導に重点をおくなどの対応も同時に必要となってくるのであり、その意味からも、単一刑の導入は必要性に合致したものであった。そして、個々の受刑者にそぐう柔軟かつ効果的な処遇を目指すために、受刑者の個々の問題性等に応じての作業、指導が必要と認められる場合には、その実施を専ら受刑者の意思に委ねることは適当ではないと考えられることから、受刑者の遵守事項として、正当な理由なくこれらを拒否してはならない旨、定められるにいたっている。

 また、以上のような拘禁刑受刑者に対する改善・矯正処遇につき適正な判断を担保するためになされる処遇調査にあたっては、専門的な知識に基づいた科学的調査を行う少年鑑別所の鑑別機能の活用・導入が考えられており、さらに、刑の執行終了者等の出所後の生活環境の整備や生活資金の安定的な確保が立ちゆかない場合の更生緊急保護等、「その後」の切れ目のない援助なども視野に入れたものとなっている。

3.自由刑の単一化の必然性

 今回の改正で取り上げられることとなった自由刑の単一化の議論については、少年法の適用対象年齢の18歳未満への引き下げや若年受刑者の処遇の在り方に関する検討を契機として、近時、新たに注目されるようになっていたが、そもそも単一化の流れは、理論的にも実務上も必然性を有していたように思われる。

 現行刑法では、かつては、禁錮刑は非破廉恥罪に対して科されるものとして説明されてきたが、しかし、現在では、犯罪を破廉恥罪と非破廉恥罪とに区別することに合理性はないと考えられている。すなわち、禁錮の主たる対象犯罪は政治犯や過失犯であるところ、両者を同列に扱う根拠はないとか、刑務作業は破廉恥罪に対して苦痛ないし恥として科されるものだとする解釈は労働を蔑視する考え方に親和的であるとか、そして、禁錮受刑者の8割強が請願作業に就いているという現状では懲役と禁錮との間の差異は事実上存しない、などの理由からである。また、禁錮刑の現状を見てみると、受刑者のうち禁錮刑は例年0.3%(50人程度)にとどまっており、しかも、非破廉恥罪としてではなく非難の程度が軽い過失犯の事案にかぎられていること、少年法では、執行の面でも両者の区別はすでになくなっていること、刑事収容施設法においては、受刑者には、矯正処遇として、作業と、改善指導及び教科指導を行うことが定められており(84条1項)、受刑者にはそれを受講する義務があると解され、改善指導・教科指導については、懲役受刑者と禁錮受刑者とで取扱いを区別していないことが指摘されてきたのである(注1)

 以上のように、禁錮刑の受刑者に作業を課さないことの意味、それとともに禁錮刑を刑罰として維持する必要性も希薄化し、懲役刑・禁錮刑の区別それ自体にもはや意義を見いだしがたくなっている現在、刑事施設においては、懲役には作業を課するとしていた点を改めることで、作業以外の処遇に十分な時間を振り向けるといった処遇の個別化や、作業と指導とをベストミックスした柔軟な処遇が可能になるものと思われる。

4.受刑者の改善更生・社会復帰を目指す取り組み

 以上述べた自由刑の単一化という点に関して、受刑者の改善更生・社会復帰を目指す取り組みを見てみたいと思う。

 出所後の受刑者の更生のための支援実施の具体的な取り組みの例として、民間と協働して受刑者処遇にあたる、PFI手法を活用した刑事施設の設置・運営がある(注2)。その目的・意義は、「過剰収容対策」、「地域との共生」、民間のノウハウの活用による「人材の再生」などであり、その結果、PFI刑務所では2年以内の再入率が全国平均と比較して10%以上減少したとされている。この15年間、実践経験を積み上げてきたPFI刑務所の、そこで培われた処遇技法については、これから拘禁刑のもとで、より柔軟に活用できるようになり、施設外処遇、作業や職業訓練から直接雇用に結びつける取り組みなどの民間のノウハウは、今後の刑事施設運営に活かされ、より発揮されることが期待できると思われる。

 また、近時、CSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の観点から、高い公益性を伴ったビジネスを志向する企業が増え、また、ESG投資(注3)と呼ばれる、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)といった収益性以外の要素から企業活動を評価し投資の動機とする考え方が広まり、ソーシャルビジネスと位置づけて刑務所運営事業に協力する企業が増えてきている(注4)。企業が、刑務所運営事業を公益的取組としてとらえて事業スキームを展開し、刑務所が、再犯防止や地方創生といった、社会と共有する価値を創出し、地域の課題に取り組む「場」として民間企業や社会に認知されていくことで、受刑者にあっては社会への貢献の意識の涵養が、社会にあっては受刑者への意識の変化と再犯防止につながる協力雇用主等の受け皿の裾野の広がりが、それぞれ期待されるところである。

 他方、そのような刑事施設における処遇の変化に対応し、受刑者の更生・社会復帰を支えようとする社会や市民の動きも注目される。政府は、犯罪に強い社会の実現に向けて「安全安心なまちづくりの日」を設け、地域社会における防犯活動又は再犯の防止等に関する個人・団体等の取り組みを広く普及させようとしているが、これに応えるのは、「就労・住居の確保のための取組」、「保健医療・福祉サービスの利用の促進等のための取組」、「高齢者・障害のある者、薬物依存を有する者への支援」等の多様かつ、広範囲にわたる活動である。

 こうした民間支援の気運が高まっている今日、自由刑の単一化のもと、作業と処遇が最適化されたプログラムを刑事施設が提供することには大きな意義があると思われる。

 以上、今回の刑法改正案については、受刑者処遇の一層の充実、社会復帰・立ち直り支援の強化を目標として、これに結んで拘禁刑の創設を目指したものであり、高く評価できるものであるといえよう。


(注1) 川出敏裕「自由刑の単一化」刑法雑誌57巻3号(2018年)441頁以下参照。なお、高橋直哉「自由刑の単一化」刑事法ジャーナル69号(2021)4頁参照。
(注2) https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei7.html(法務省HP)。拙稿「PFI手法による刑事施設の運営の現状」法学新報125巻11=12号(2019年)169頁以下参照。
(注3) https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/esg_investment.html(経済産業省HP)
(注4) 「PFI手法による刑事施設の運営業務の在り方に関する検討会議 報告書」参照。https://www.moj.go.jp/content/001375792.pdf

只木 誠(ただき まこと)/中央大学法学部教授
専門分野 刑事法学

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。
中央大学大学院法学研究科刑事法専攻博士前期課程(修了)・後期課程(退学)。
法学博士(中央大学)
獨協大学法学部教授を経て、2002年より現職。
専攻分野(研究テーマ):生命倫理と法、故意論・錯誤論
主な著書:『コンパクト 刑法総論』(新世社、2018年)、『罪数論の研究[補訂版]』(成文堂、2009年)、『刑事法学における現代的課題』(中央大学出版部、2009年)など。