研究

物理学×科学コミュニケーター=URA?

馬場 良子(ばば よしこ)/中央大学研究推進支援本部URA 
専門分野 研究支援、物理学、科学コミュニケーション

URAってなに?

URAという言葉を聞いたことがありますか?

URAは、「University Research Administrator」の略で、「ユー・アール・エー」と呼ばれます。大学等において研究者の研究活動活性化のため、専門的な知識やスキルを持ち、研究推進の一端を担う専門人材です。私は20211月より、中央大学研究推進支援本部のURAとして、研究広報をメインに研究支援業務に携わっています。

少しだけURAについて紹介しますと、URAが活躍する背景には、研究者の研究時間の確保が難しくなっている現状があります。社会が大学に期待するニーズも日々変化し、また研究は国際競争も激しくなり、さらには研究費となる競争的資金を獲得するための申請業務や研究のマネジメント業務など、研究活動に付随する業務が研究者にとって過度な負担となることがあります。このような状況の中で、研究者が研究に専念できる環境整備をし、学術研究の質を向上させ、研究活動を活性化することを目的として、文部科学省の「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備」[i]事業のもとに、リサーチ・アドミニストレーター制度が2011年より始まりました。もちろん、それ以前より"URA的"な研究支援職も存在していましたし、いまでもURAという名称以外で研究支援業務に携わっている方も多くいらっしゃいます。

中央大学のURAはどこにいるの?

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後楽園キャンパスの研究支援室オフィス。後楽園キャンパスでは、3号館の10階研究支援室内にURAがいます。

URAは大学に配置される専門人材ですが、組織によってURAの配置のされ方やミッションは異なります。中央大学では、研究推進支援本部長のもとに5名のURAが研究支援活動を進めています(202134日現在)。中央大学のURA(以下、中大URA)は、研究・教育・国際・ビジネス・科学コミュニケーションなど、それぞれが高い専門性を持ちながら、一つのチームとして活動をしています[ii]。中央大学の研究推進支援本部は、中央大学の全学的な研究活動の活性化を図り、産業界や官公庁等の学外組織との協定・連携を推進することを目的として2015年に設置され、研究の立案からプロジェクト管理・運営や知的財産の管理、技術移転まで、迅速かつ柔軟な支援を行い、研究の社会還元を目指しています。その中で、中大URAは、それぞれが培ってきた専門知識とスキルなどをフルに活用し、これまで中央大学になかった新しい視点や取り組みを企画・提案したり、すでに進行中のプロジェクトを強力に推進する役割を担っています。もちろん、URAだけで研究支援が成り立つわけではなく、研究者や事務職員の方々との協働が不可欠です。中大URAは大学関連の研究開発に一定の理解をもち、研究者や事務職員とのコミュニケーションをとりながら業務にあたる必要があります。そのため、中大URAは研究活動に従事した経験・実績を持ち、デスクは研究支援室(後楽園キャンパス)や研究助成課(多摩キャンパス)内にあり、日々事務職員と連携がとれる体制になっています。

私のURAのはじまり

私自身、URAという言葉を知ったのは、6年前の前職のURAに応募する時でした(前職は国立大学のURA[iii])。

私がURAとして研究支援に携わるまでの経緯を簡単に紹介しますと、私自身の専門は物理学で、加速器を用いた原子核物理学の研究に従事し、理化学研究所内の研究施設で研究をしていました[iv]。大学院学生の時に、周囲の研究者の会議などへの出席や書類作業が年々増え、研究時間を確保することが難しい現実を目の当たりにしたこともあり、研究関連で専門的なスキルを身につけた人材が活躍する機会があるのではと思いはじめました。しかし、周囲にはアカデミアで活躍している方が多かったこともあり、アカデミア以外のキャリアパスについて相談できる人も少なく、友達も少なかった私は情報をどこから得たらよいのかわかりませんでした。

そんなことをぼんやりと考えている時、2011年の東日本大震災をきっかけに、科学技術と社会の関係性のありかたを考える日々が続き、自分自身の次のステップとして、科学と社会の橋渡しをしよう!と考えました。学位取得後、日本科学未来館の科学コミュニケーター[v]として、社会が科学技術に期待していることを来館者との対話を通じて体感し、研究トピックスに関するブログ記事を執筆したり、研究者と共同で実験教室を開発したりと、科学技術のありかたを考えていました。研究者から社会に伝える時の伝えかたなど、もっと双方向のやりとりに工夫が必要であることを再認識し、次は研究者の近くでサポートしたいと思うようになりました。

そして、その後、私のURAとしての第一歩がスタートしました。

URAのスキル?

URAの業務は、研究資金の調達・管理や知財の管理・活用等のマネジメント、研究プログラムの企画・マネジメントなど、幅が広いため、持つべきスキルは一つではありませんが、必要とされる機能・業務と求められる能力などについては、「リサーチ・アドミニストレーター(URA)のスキル標準[vi]」としてまとめられています。多くの場合は、実際の研究支援業務にあたりながら、知識やスキルを得ることになりますが、URAにならないと必要なスキルを身につけることはできないか、というとそうでもない気がします。例えば、私の場合、従事していた加速器実験の場合、通常1030人くらいでグループをつくり、実験責任者を中心に、実験に必要な項目ごとにサブグループをつくり、サブグループリーダーのもと効率的に進めます。このような経験は、研究マネジメントに似た経験をすることができます。スケジュールの管理や、グループの連携体制の構築、情報共有の工夫や、うまくいかなかった場合のリスク管理、臨機応変な対応など、URAに関するスキルを得られていたのではないかと思います。また、科学コミュニケーターとして、社会のさまざまな立場の人との対話を通じて、さらには一緒に働く科学コミュニケーターの多様さ(科学コミュニケーターの中には、海外での研究・活動経験や企業経験のある方、バックグラウンドの研究分野も様々です)に触れ、幅広い視野を得ることができ、いまの業務にも役立っています。

おわりに

URAが配置されている大学は多くなってきていますが、昨今、産業界との連携も含めた研究力強化や大学運営に係る資金調達の多様化等の必要性が高まる中、URAの重要性はますます高まるといわれています。URAの果たす役割の重要性に鑑み、URAの質を保証するため、URAの実務能力に係る認定制度の検討も進んでいます[vii][viii]。中央大学でもURAが組織の"円滑油"となり、研究者が研究に専念できるような環境整備や学術研究の質的強化・活性化に貢献していけるよう、私自身もチャレンジし続けます。


[i] 文部科学省 科学技術・学術政策局「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備」 https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/ura/ 
[ii] 中央大学 研究推進支援本部 URAチーム https://www.chuo-u.ac.jp/research/industry_ag/clip/ura/
[iii] 東京大学大学院 理学系研究科 研究支援総括室 https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/ORSD/ 
[iv] 東京大学大学院 理学系研究科 原子核科学研究センター https://www.cns.s.u-tokyo.ac.jp/ja/
  理化学研究所 仁科加速器研究センター https://www.nishina.riken.jp/ 
[v] 日本科学未来館 科学コミュニケーター https://www.miraikan.jst.go.jp/aboutus/communicators/
[vi] 文部科学省 科学技術・学術政策局 リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備 成果報告書(スキル標準の作成) https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/ura/detail/1349663.htm 
[vii] 文部科学省 「リサーチ・アドミニストレーターに係る質保証制度の構築に向けた調査研究」成果報告書 https://www.mext.go.jp/content/20200430-mxt_sanchi01-000005991_1.pdf 
[viii] 金沢大学 リサーチ・アドミニストレーターの認定制度の実施に向けた調査・検証 http://ura-cert.w3.kanazawa-u.ac.jp/

馬場 良子(ばば よしこ)/中央大学研究推進支援本部URA 
専門分野 研究支援、物理学、科学コミュニケーション

東京都出身。
2004年 埼玉大学理学部卒業。
2006年 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。
2010年 東京大学大学院理学系研究科博士課程満期退学。博士(理学)。
2013-2015年 日本科学未来館 科学コミュニケーター。
2015-2020年 東京大学大学院理学系研究科URA
20211月より現職。