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トップ>研究>超スマート社会の実現に向けた沿岸都市における防災プラットフォームの開発

研究一覧

有川 太郎

有川 太郎【略歴

超スマート社会の実現に向けた沿岸都市における防災プラットフォームの開発

有川 太郎/中央大学理工学部教授
専門分野 海岸工学、津波防災

本研究開発の概要

 本研究開発は、一言で言うと何を目指すのか?この執筆依頼をいただいたときに改めて考えさせられた。結論から言えば、様々な防災・減災に関するデータを用いて、避難やまちづくりの支援につながるツールを構築することを目指す、ということになるであろう。そして、それを実現するために、様々な防災・減災に関係するデータの収集・生成を行うとともに、その収集されたデータを用いて避難やまちづくりの支援を行うための仕組み(アプリケーション)を開発し、それら全体をプラットフォーム化していくことが最終の目標となると考えている。

事業の全体像

自然外力と持続可能な社会

 そのようなプラットフォームは、なぜ必要なのだろうか?近年、気候変動や、巨大地震の発生に対して、どのように社会が適応していくのか、それは、とても大きな課題となっている。2015年の国連サミットにおいて、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が採択され1、そこでは17のゴールと169のターゲットが掲げられている。そのなかで、目標 11.「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」につながる研究であり、特に、11.5や11.bにつながるものであると考えている。11.bでは「2020 年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レ ジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。」が述べられている2。また、目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」では、13.1で、「すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応力を強化する。」とあり、さらに13.3「気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。」とあり、持続可能なまちづくりだけでなく、人々の意識改革が重要であることが述べられている。

近年の津波・高潮による犠牲者数

  1. ^ https://www.un.org/sustainabledevelopment/sustainable-development-goals/
  2. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf

具体的な方策

 この研究を進めるにあたって、4つのワーキングに分けて行うこととした。WG1のテーマは外力の予測、つまり、豪雨・高潮・津波に対する浸水計算データベースの構築を行う。これは、観測機器が脆弱な国や地域への展開も踏まえ、どのようにデータベースを構築するのが良いのか、その場合、どの程度の予測精度があるのか、などを議論する。WG2のテーマは、構造物の脆弱性の評価であり、防護施設、避難場所、避難経路などの脆弱性を評価しながらデータベースを作成していくものである。WG3のテーマは、災害時の行動予測、つまり人の避難行動に対する評価手法の構築や、避難を促すツールの構築を行っていく。最後にWG4のテーマは、災害に対する政策評価手法の構築であり、これは、災害にまつわる法体系の整理を行いながら、そもそも災害に適応できる都市のあり方とはということを検討していくものである。それぞれのワーキングを年に数回行いながら、データを作成・収集し、体系化していくことを考えている。

沿岸防災プラットフォームの全体像

災害適応学(Disaster Adaptation Science)

 豪雨・高潮・津波時における浸水データ、実験や現地のデータに基づく構造物の脆弱性、人の災害時の行動データ、都市デザインに関するデータ、まちづくりに関する法律や訴訟の判例データ、人口予測のデータを集めた、沿岸防災プラットフォームを構築し、そのプラットフォームにあるビッグデータを用いて、Society5.0に基づき、適切な避難情報発信を行う避難誘導システムならびに、超過外力を踏まえた災害に強い都市デザイン生成ツールの開発を行っていきたいと考えている。また、実験施設を構築し、実際に流体力の検討などを行うことで、それを具体的に学ぶ環境も整えている。そのうえで、50年後、100年後の「まち」がどうあるべきか?ということを考えることを行っていくベースを確立する。さらに言えば、それは自然災害というものに対して、どのように適応していくか?それらを、まちづくりというハード面だけでなく、避難や住み替えといった、人々の意識や、生活様式といったソフト面もしっかりと考えていかなければならず、これは、単なるプラットフォームの開発というだけではなく、自然と今後どのように共生していくかという哲学的な部分も入るのかと考え、そのような学術を体系化していくことが重要ではないかと考えている。ここでは、それを「災害適応学」と呼ぶことにした。防災や減災につながることはもちろんであるが、あえて「適応」という言葉を前面に出し、人々の意識を変えていかないといけないのだということを強く押し出した言葉になっている。このプロジェクトではそれに対してロゴマークを作っている。それは、「自然災害に適応する術を世界中の人達と一緒に考え、災害で人命が失われないような世界を目指したい」という願いが込められており、しっかりと成果を残したい。

実験水槽の様子

ロゴマーク

有川 太郎(ありかわ・たろう)/中央大学理工学部教授
専門分野 海岸工学、津波防災
東京大学工学部土木工学科1995年卒。
東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学専攻博士課程2000年修了。博士(工学)。
2000年に運輸省港湾技術研究所入省、
その後、独立行政法人港湾空港技術研究所に組織名変更。
2015年4月より現職。
2004年のスマトラ沖地震津波以後、国内外の津波の被災調査を精力的に行うとともに、現場、実験、数値計算を組み合わせ、現象の解明に努める。
特に、防護施設の破壊メカニズムの解明や、粘り強さ、効果に関する研究を主として行っている。「どうする!?巨大津波」(日本評論社)