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研究一覧

土田 伸也

土田 伸也【略歴

法科大学院教育とICT

土田 伸也/中央大学法科大学院教授
専門分野 行政法

1 ICTを活用した授業が注目される背景

 法科大学院制度にはさまざまな問題があることが指摘されているが、そのうちの一つに法科大学院での学修に要する時間的・経済的負担が重いという問題がある。とりわけ、働きながら法曹を目指す社会人や地方在住者にとって、この問題は重くのしかかり、法曹の道をあきらめる一つの要因にもなっているといわれる。そこで、数年前に法科大学院においてもICT(Information and Communication Technology)を活用して社会人や地方在住者が学修しやすい環境を整えるべきではないかという提言がなされ、一定の議論を経て、ICTを活用した授業を本格普及させるための新たな環境づくりが行われた。

2 ICTを活用した授業のタイプ

 ICTを活用した授業といっても、さまざまなタイプの授業がある。この間に検討されたのは以下の3つである。

 第1はサテライト方式の遠隔授業で、大学間をオンラインで接続して授業を実施するタイプである。このタイプの授業には、配信先の受講者が地方大学の教職員のサポートを受けることができるというメリットや、場所や回線が固定化されているので、比較的機材トラブルが少ないというメリットがある。他方、デメリットとしては、受講希望者がサテライトキャンパスに通うことができない場所に住んでいる場合(いわば「地方の中の地方」に住んでいる場合)、結局、遠隔授業を受けられないということがある。

 第2はモバイル方式の遠隔授業で、法科大学院で実施されている授業に受講者がモバイルを利用して参加するタイプである。このタイプの授業は、職場や、自宅など、どこにいてもインターネットさえつなぐことができれば、授業に参加できるので、上述の「地方の地方」に住んでいる者であっても、受講可能であるというメリットがある。他方、デメリットとしては、大学外での受講になるため、大学の教職員によるサポートを得にくいということや、個人の機材を利用することになるので、比較的機材トラブルが発生しやすいということがある。

 第3はオンデマンド方式の授業であり、録画された法科大学院の授業を後に受講者が視聴するタイプである。このタイプの授業は、いつでも、どこでも受講できるというメリットがある。他方、デメリットとしては、双方向・多方向性および同時性がないため、教育効果の低減が見込まれるというデメリットがある。

3 新しい見解

 新しく示された国(文部科学省)の見解によれば、以上の3つのタイプのうち、サテライト方式による授業は全面的に正規の授業として認められることになった。したがって、地方在住者であっても、たとえば地方大学で首都圏の法科大学院の授業を受講することが技術的に可能であれば、最終的に地方在住のまま当該法科大学院を修了することができる。

 これに対し、モバイル方式の授業は部分的にしか正規の授業として認められない。たとえば15回の授業のうち、5回まではモバイル方式による授業であっても、正規の授業として認められるが、残りは正規の授業としては認められない(ただし、許容される授業回数については明確なルールはない)。そのため、すべての授業回にモバイル方式で参加しても、一定回数分以上は授業に出席したとはみなされず、最終的に単位の取得もできない。

 また、オンデマンド方式の授業は法科大学院で求められる双方向・多方向の授業が担保されないことを理由に、正規の授業としては認められないことになった。

4 新しい見解に対する評価

 ICTを活用した授業のうちサテライト方式による遠隔授業は、従来、関係法令との関係で疑義があることが指摘されてきた。そのため、上記の新たな見解によって、この疑義を解消し、正規の授業として認められるということを確認した意味は大きい。

 モバイル方式による遠隔授業も正規の授業として認められるとした点は積極的に評価されるべきである。これにより、たとえば出張のため法科大学院の授業に参加できない社会人であっても、出張先で正式に授業に参加できるようになった。しかし、モバイル方式による遠隔授業が回数制限をされることになった点は疑問がないわけではない。なぜなら、回数制限をされると、たとえば地方在住のまま法科大学院の単位を取得するということが難しく、法科大学院においてせっかくICTを活用した授業を導入しても、その効果は薄いと考えられるからである。

 また、オンデマンド方式の授業は正規の授業として認められないことが確認されたが、回数制限付きで正規の授業として認めるということがあってもよかったのではないかとも思われる。

 いずれにせよ、ICTを活用した授業の導入は法科大学院における社会人や地方在住者の学修環境を改善し、時間的・経済的負担を軽減するという目的をもっていたはずであるから、上記の新しい見解の下で各法科大学院がどのような取組を行うのか、また、それによって、当初の目的が実現されるのか、見守っていく必要がある。

5 法科大学院におけるICTの活用と今後の展開

 中央大学法科大学院をはじめ複数の法科大学院では、サテライト方式を中心としたICTを活用した授業が既にスタートしている。今後は、ICTを活用した法科大学院間のさらなる連携が期待されるほか、現在、議論が進んでいる、いわゆる「3プラス2」(学部3年、法科大学院2年の法曹養成コース)に関連して、学部と法科大学院が連携し、科目等履修や、共同開講の形で、たとえば首都圏の法科大学院がICTを活用して地方大学の法学部生に法科大学院の授業を提供することなどが検討されることになっていくものと思われる。

土田 伸也(つちだ・しんや)/中央大学法科大学院教授
専門分野 行政法
岐阜県出身。1971年生まれ。1994年中央大学法学部法律学科卒業。1997年中央大学大学院法学研究科公法専攻博士前期課程修了。2000年ヴュルツブルク大学大学院法学研究科修士課程修了。2003年中央大学大学院法学研究科公法専攻博士後期課程単位取得退学。愛知県立大学外国語学部専任講師・助教授・准教授・中央大学大学院法務研究科准教授を経て2014年より現職。主に道路や河川等の公物に関する法理論および法制度を研究。著書に『基礎演習行政法(第2版)』(日本評論社、2016年)などがある。