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志々目 友博

志々目 友博 【略歴

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地球温暖化国際交渉と日本の貢献

志々目 友博/中央大学理工学部教授・大学院公共政策研究科教授
専門分野 環境政策・環境工学

1.はじめに

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第一作業部会が今年9月に地球温暖化の自然科学的な根拠をまとめた報告書[1]を公表した。ここで示された新しい知見では、人為的な要因で温暖化が進んだことの確実性が引き上げられ(95~100%の可能性)、また、温暖化にともなう海水温の上昇も裏付けられた。

 この他、同報告書はCOの累計排出量が気温に与える影響も分析している。累積排出量(産業革命以降)の最大値が1兆tCを超えない場合、世界が目指す気温上昇を2℃以下に抑制できる確率が66%になる。既に2011年までに5310億tCが排出された。つまり、世界に残された炭素収支(Carbon budget)の残高が4690億tCに限定されることになる[2]。現状の排出レベルが継続することを仮定しても、あと15~25年で使いきってしまう[3]。毎年の排出量が増加すると更にこの年数は短くなる。

 ここで世界の排出量の推移をみると、1990年には先進国からの排出量は、全体の約50%を占めていたが、2010年には35%に低下した[4]。代わって中国、インドを含む途上国からの排出量が65%近くを占めた。これらの国々は、人口増加と経済が発展し今後も排出量が増加するため、途上国も含めた温暖化ガスの削減が不可欠である。

 このような中、日本は米国、中国等の全ての主要国が温暖化ガスの削減に参加すべきとしてきた。2013年から始まった京都議定書第二約束期間では、主要国が参加しないことから日本は削減目標を掲げていない。この代わりに、自主的な2020年の削減目標を掲げ対応している。

 昨今、国内は原発停止があり、また京都議定書の日本の目標がなくなったため、温暖化への対応姿勢が低下してきているように感じる。

 しかし、温暖化問題が無くなったわけではない。国外の動きを捉え、長期的な視野でこの問題をみないと、将来、日本が厳しい立場に追い込まれる可能性がある。

2.温暖化への国際的な対応

 現在、温暖化への国際的な対応として、①京都議定書に基づく第二約束期間の削減、②カンクン合意による2020年までの自主的な削減、③2015年にパリで採択予定の新枠組による2020年以降の削減、の三つが進んでいる。

 この11月にワルシャワで開催されたCOP19では、日本は原発の停止を踏まえ、カンクン合意で掲げた温暖化ガスの削減目標「90年比25%削減」を「2005年比3.8%削減」に変更した。一方、米国、中国の削減目標をみると、それぞれ温暖化ガス17%削減(2005年比)、GDP1単位あたりのCO削減40~45%(2005年比)である。

 国内では、米国や中国が温暖化対策には熱心でないとの受け止め方もあるようだが、この認識は正しいのだろうか? 今年の7月に米中首脳(バラク・オバマ氏と習近平氏)が会談した際、両国は石炭燃焼で生じる二酸化炭素を地中に隔離するCO地下貯留、ビルの省エネ効率の改善、スマートグリッド、温暖化ガスの代替フロンの削減等を推進することが協議された[5]。両者の協議は、二酸化炭素の削減量を決めるものではないが、効果的な改善対策を進め実質的に温暖化ガスを削減するものである。この二カ国で全世界の排出量の約4割を占める。両国が連携すると新たな温暖化防止に向けた国際展開につながる可能性がある。

 振り返ってみると、1997年に京都議定書の削減目標が決定された際、終盤になると米国、中国、英国、インドの四カ国が協議し、当初0%削減を模索しているといわれていた米国は7%削減を受け入れた。結果的に日本も6%削減を受け入れた。国際交渉では突然流れが大きく変わることがある。

3.日本の貢献

 それでは、日本はどのように対応すべきか。一つだけ取り上げてみたい。原発の再稼働の是非とは別に、省エネにもう少し焦点をあててみてはどうか。これは、エネルギー調達、エネルギー安全保障、温暖化、経済のいずれの観点からも役に立つ。

 例えば、国内では民生部門のエネルギー消費量が伸びている(1973年比 2007年は2.5倍)。特にオフィスビル等の省エネは重要である。国際的にもネットゼロエネルギービルの推進が課題となっている。この分野で建築物・設備、電気製品等の省エネやコジェネレーション(熱と電気の同時供給)、燃料電池、蓄電池等の普及を徹底すれば、日本の経験と技術を最大限に発揮できる。この時、大切な点は、最新の技術を駆使し無理せずエネルギーを削減するためのイノベーションを行うことである。

 一方、国外に目を向けると、ASEANの10か国は2035年までにエネルギー需要が80%以上増加する見込みである[6]。中国、インドとともに世界のエネルギー需要の重心がアジアに移動している。国際エネルギー機関(IEA)はエネルギー効率の改善(すなわち省エネ)の重要性を強調している。ここに日本も貢献できるチャンスがある。ただし、日本の省エネ技術を普及するための工夫も必要である。

 私の少ない経験でいえば、例えばインドでは投資回収年数3年以下の省エネ設備でないと普及しにくい。そのため、日本の技術は投資回収年数が長すぎると現地の研究者から再三指摘された。また、日本の企業は海外で知的財産権が侵害されることを必要以上に恐れる。これらの改善策の一例として、国内では既に使用されていない技術・知的財産権の有効活用がある。途上国との交流を深め、戦略的に日本の省エネ技術を普及すべきではないか。日本と途上国が協力し、削減された温暖化ガスのクレジットの一部を日本が得ることができる二国間メカニズムの活用も重要である。

 国内・国外の省エネに関する高い目標を掲げて対応すれば、温暖化対策や関連の技術開発が進み、経済的なメリットにも繋がる。この11月には、政府が「攻めの地球温暖化外交戦略」を策定した。これが契機となることを期待したい。

 今年のCOP19では、すべての国が参加する2020年以降の温暖化ガス削減の新たな枠組み作りに向けて、各国が自主的な削減目標や行動計画を2015年に提出することが決まった。来年9月には世界各界のトップが国連に集まり気候サミットも開催され、気温上昇を2℃以内に抑えるための政治宣言が公表される見込みである。また、10月には、IPCCの第5次評価報告書がまとまる予定であり、2020年以降の温暖化防止枠組の形成を後押しする。

 国際的におかれた日本の状況、日本の強みを再度認識し、戦略的に温暖化対策を進め、世界に貢献できる日本を目指すべきではないか。

  1. ^ Intergovernmental Panel on Climate Change新規ウィンドウ(2013年11月30日アクセス)
  2. ^ Earth Negotiations Bulletin新規ウィンドウ(2013年11月30日アクセス)
  3. ^ Nicholas Stern, World leaders must act faster on climate change, Financial Times, September 29, 2013.
  4. ^ 環境省資料(原典はInternational Energy Agency)
  5. ^ Anna Fifield, China and US agree non-binding climate plan, Financial Times, July 10, 2013.
  6. ^ International Energy Agency, World Energy Outlook Special Report 2013: Southeast Asia Energy Outlook, 2013.
志々目 友博(ししめ・ともひろ)/中央大学理工学部教授・大学院公共政策研究科教授
専門分野 環境政策・環境工学
1961年鹿児島県生まれ。
1984年京都大学工学部卒、1993年ロンドン大学インペリアルカレッジ大学院環境技術コース修士課程修了。
京都大学博士(工学)。
1984年厚生省入省後、環境省、厚生労働省、地方公共団体において主に環境政策を担当。また、(財)地球環境戦略研究機関、リコー経済社会研究所において、日本の低炭素技術の海外への適用、企業のエネルギー・環境問題への対応に関する研究に従事。2013年4月より現職。
近著に、“Carbon tax policy progress in north-east Asia,” in Larry Kreiser et al.(eds),Environmental Taxation in China and Asia-Pacific:Edward Elgar Publishing Inc.,2011(共著)、「インドにおける低炭素技術適用に関する研究」『京都大学環境衛生工学研究会第33回シンポジウム論文集』、2011年(共著)などがある。