五十畑 浩平 【略歴】
五十畑 浩平/中央大学経済学部助教
専門分野 社会政策、人事労務管理論、キャリア教育
フランスと言えば、フレンチやワインといったグルメ、エッフェル塔や凱旋門などの観光スポットをはじめ、一見すると華やかなイメージがある一方、フランスの若年失業率は、2012年11月時点で26.1%と、15歳から24歳までの若者のうち4人に1人が失業状態となっており、彼らの雇用情勢は厳しいことも事実である。さらに、若年層では非正規雇用の割合が過半数を占めている。2011年現在の全雇用に対する非正規雇用の割合は、15歳から64歳までの全年齢層で15.0%であるのに対し、若者に限ってみると53.5%にのぼっているのである。
このように、フランスの若者は職を見つけにくいのみならず、たとえ運よく就職したとしても、得られた職が不安定な雇用である割合も高くなっている。では、フランスの若者は、どのように「就活」に挑んでいるのであろうか? ここでは、フランスの就活やキャリア形成の実態をひもといていきたい。
まず、フランスの若者はどのようなスタイルで就活を行っているのであろうか? フランスでは就活の際、即戦力が重視される傾向にある。フランスやその他の欧米諸国でも一般的であるが、日本のように職務経験のない新卒者を採用し人材を育成する慣行はなく、あくまで個人の保有する資格や職務経験によって採用される。
こうした即戦力重視の採用では、したがって、働いたことのない学生は必然的に一番不利になるのである。新卒一括採用制度の浸透している日本では、即戦力が求められるいわゆる中途採用の人材とはべつに「新卒」として扱われるため、人間性やモチベーション、将来性などが重要な要素であると考えられるが、一方で、専門の資格や職務経験などはほとんど問われず、ある意味「新卒ブランド」に守られるため、職務経験のある「中途」と競合せずに済む。しかし、フランスでは、「新卒」・「中途」の区別はない。すなわち、「新卒」だからといって日本のように働いた経験がなくてもいいということにはならず、あるポストに応募する場合、そのポストに対応する資格や同様のポストに就いていた職務経験が重要視されるのである。
では、職務経験のない一般的な学生はどのように就職をするのであろうか? フランスでは、職務経験の乏しいあるいはまったくない若者は、有期雇用や派遣などの非正規雇用を経験し、職務経験を積んだうえで、日本の正社員に相当する無期限雇用にたどり着くのが一般的である。こういった労働市場への参入を、私は「段階的参入」と呼んでいる。
実際、職業資格調査研究所(Ceréq)のジェネラシオン2004の調査によると、2004年に学業を終えて就職した若者のうち、3人中2人にあたる66%が有期雇用や派遣などの非正規雇用からキャリアをスタートさせている(表1参照)。3年後の追跡調査でも、無期限雇用のポストに就くことができたのは全体の63%にとどまっている。言い換えると、この世代の6割以上が無期限雇用に就けるようになるまで3年を費やさなければならないのである。
このようにフランスにおける若者のキャリア形成の特徴として、第1に、若者は不安定な雇用を繰り返すなかで職務経験を積み、段階的に労働市場に参入していくこと、第2に、若者が安定した職に就けるまで数年かかることがあげられる。
(%) | ||||
初雇用 | 3年後の雇用 | |||
---|---|---|---|---|
雇用形態 | 正規雇用 | 30 | 63 | |
非正規雇用 | 66 | 33 | ||
有期雇用 | 38 | 19 | ||
派遣 | 19 | 8 | ||
雇用政策など | 9 | 6 | ||
自営業など | 4 | 4 | ||
計 | 100 | 100 | ||
(出所)Ceréq, Enquête Génération 2004. |
卒業後数年かけて、非正規雇用から安定した正規雇用に徐々に移行していくフランス。こうしたフランスのキャリア形成の実態から日本との違いが見えてくる。
ひとつは、就活の時期についてである。新卒一括採用制度が浸透している日本では、卒業前に就活を行い、卒業するまでに内定をもらうのが一般的となっているが、フランスでは、卒業後に就活をするのが一般的である。実際、就職活動の開始時期を比較した表2によれば、無回答を除いて計算した場合、97%が卒業前に就活をはじめたのに対し、フランスでは卒業前には2割ほどの学生しか就活を行っておらず、3人に2人に近い63%が卒業後から就活を行っている。
(%) | |||||
卒業前 | 卒業の頃 | 卒業後 | 無回答 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
フランス | 9.9 | 8.2 | 31.2 | 50.7 | 100.0 |
日本 | 88.0 | 1.8 | 1.0 | 9.2 | 100.0 |
(出所)独立行政法人労働政策研究・研修機構(旧日本労働研究機構)(2001)、『日欧の大学と職業―高等教育と職業に関する12カ国比較調査結果』、59ページ。 |
またひとつとして、非正規の職から正規の職へのキャリアパスについてである。日本の場合、最初から正社員として正規の職に就くのが一般的となっており、それゆえ、逆に非正規から正規の職に就くのが難しい。新卒一括採用制度のもと日本の大学生は、卒業前に正規の職を見つけるのが一般的だが、ひとたび、就活のタイミングを逸し卒業までに内定先を見つけられない場合は、「既卒」として扱われる傾向が強く、職務経験のないまま「中途」と競合せざるを得なくなる場合がある。そのため、正規の仕事を見つけようとしてもなかなか見つからず、非正規の職に就かざるを得ないケースも多くなるのである。このように日本の労働市場の特徴的な問題として、いったんこうした非正規の職に就くとその後のキャリアパスが描けず、そこから脱出するのが難しいことが指摘されている。
一方で、フランスの場合、非正規の職から正規の職に徐々に移行するのが一般的ととらえられている。もちろん、日本とくらべると最初から正規の職に就くのは難しい状況ではある。卒業したての若者は経験不足であるため、すでに職務経験のある「中途」との競争に負け、やむを得ず非正規の職に就かざるをえないからである。しかしながら、非正規の仕事からキャリアをスタートさせるのが一般的であるため、非正規の職から正規の職へのキャリアパスは、日本よりたやすくできると言える。
最後に、若者は就職先をどのように見つけているのであろうか? その手段も日本とフランスでは異なっている。日欧の高等教育卒業生を対象としたReflex調査によると、日本の場合、大学のキャリアセンターをはじめとした「高等教育機関の支援」によって就職先を見つける割合が34.6%ともっとも高い。次いで、就職サイトなど「インターネット」を通して就職先を見つける割合が多い(表3参照)。
フランス | 順位 | 日本 | ||
---|---|---|---|---|
自主的に企業にコンタクト | 21.4% | 1位 | 高等教育機関の支援 | 34.6% |
高等教育在学中のインターンシップ | 16.8% | 2位 | インターネットを通して | 25.1% |
公的職業あっせん機関 | 16.3% | 3位 | 新聞広告 | 13.4% |
家族、友人・知人の紹介 | 11.3% | 4位 | 家族、友人・知人の紹介 | 11.7% |
高等教育機関の支援 | 7.6% | 5位 | 民間職業あっせん機関 | 4.6% |
(出所)Reflexデータより筆者作成。 |
一方、こうした手厚い高等教育機関の支援や就職サイトが充実した日本からすると意外かもしれないが、フランスではそうした「ツール」に頼らず、「自主的に企業にコンタクト」している学生の割合が21.4%ともっとも高い。この要因として、日本のように就活が新卒一括採用のように画一化されておらず、企業によって募集時期や募集方法が異なることが考えられる。
また、フランスにおいて就職先を見つける第2の手段となっているのが「在学中のインターンシップ」であり、全体の16.8%を占める。フランスでは、インターンシップがごく当たり前のように就活の一環として取り入れており、学生は数カ月から場合によっては1年にわたり、企業などでインターンシップを行っている。こうした本格的なインターンシップがいわば「試用期間」として使われており、インターンシップを通して採用されるケースが多いため、就職先を見つけるための第2の手段にまでなっているのである。このように、フランスではいわば就職の「登竜門」としてインターンシップがすっかり浸透しているのである。
もちろん、一概には言えないが、日本のようにどの会社も類似したプロセスにしたがって、敷かれたレールに沿って選考に進んでいくというよりは、自主的に企業にコンタクトしたり、インターンシップをしながら、1社1社自ら開拓していくというイメージが、フランスにはあてはまるのかもしれない。
失業率が25%を超えるなど厳しい雇用情勢におかれたフランスの若者たちは、日本とはまったく違う方法で職を得ている。とくに、即戦力が重視されるフランスでは、卒業後数年かけて、非正規雇用から安定した正規雇用に徐々に移行していくキャリアパスが一般的である。また、多くが非正規からキャリアをはじめるため、キャリアをスタートさせた直後は生活が安定しないというデメリットがある一方で、非正規の職から正規の職へのキャリアパスに関しては、いったん非正規の職に就くとそこから抜け出すことが難しい日本にくらべ、たやすくできると言える。さらに、手厚い高等教育機関の支援や就職サイトが充実した日本とは違い、フランスでは、自主的に企業にコンタクトしたり、在学中にインターンシップを実施することで就職先を見つけているのである。