トップ>研究>フランスにおける同性間婚姻を認める法案をめぐって
力丸 祥子 【略歴】
力丸 祥子/中央大学法学部准教授
専門分野 日仏比較家族法、フランス私法制史、法律フランス語
フランスの上院は、本年4月9日夕、「すべての者のための婚姻」に関する法案第1条を、賛成179票、反対157票で可決した。この第1条は、異性間のみならず、同性間でも婚姻ができるよう、道を開くものである。そして、上院は翌10日、同性間カップルが養子を迎える可能性をも認めた。
上院は、親子関係が創設された場合の子の氏について修正案を出しているため、今後審議は再び国民議会に場を移してなされることとなった。国民議会では第二読会を4月17日から21日の間に予定している。
上院が、基本的に、この「すべての者のための婚姻」を認めたことにより、この法案が成立するのもそれほど遠くない気配となってきた。
そこで、フランスにおいて、同性間カップルの婚姻を認めるか否か、という問題に関するこれまでの流れをここで簡単に見てみたいと思う。
「すべての者のための婚姻」に関する法案とは、2012年5月の大統領選挙において選出されたフランソワ・オランド氏が、選挙戦の際、31番目の公約として掲げていたものの具体化である。法案は、2012年10月に提出、11月7日に閣議決定されたものであるが、「すべての者に対し、」とはいうものの、異性間のカップルにおいては今までも当然のこととして婚姻が認められてきていた。それゆえ、この法案で新たに婚姻をなすのを認めようとしているのが、同性婚であることは言うまでもない。興味深いことに、法案提出理由書においては、フランス民法典の条文自体も、この同性者間の婚姻を認める根拠の一つとして掲げられている。というのも、フランス民法典の条文においては、もともと婚姻が男女間で行われるものだというような定義規定が存在していなかったのであるが、これをもって婚姻は異性間に限る必要はない、としたのである。伝統的には、婚姻適齢の条項において、男女それぞれに婚姻適齢が示されていたことを理由として、婚姻とは男女間で行うものと読み取れる、と解釈されてきた。しかし、今回の理由書においては、まさに民法典に明文の規定が存しないことを理由として、同じ条文を今度は同性者間の婚姻を認める根拠として出してきたのである。
フランスにおいて、同性者間カップルに一定の保護を与えようという動きは、実はこれが初めてではない。1999年、当時の社会党内閣下、ギグー司法相のもと、民事連帯協約(PACS)法が可決、制定された。審議がなされている当時、ギグー司法相がしきりに強調していたのは、この民事連帯協約が協約であって、婚姻ではない、ということであった。民事連帯協約自体については、例えば、農地の相続を受けた兄弟姉妹間での締結を認める等、相続分に応じて分割してしまうと、農地として十分な規模を確保できなくなることを避けるためにも、導入することが当初は考えられた。しかし最終的には、同性、異性間を問わず、婚姻類似の共同生活を送っているカップルに一定の保護を与えるものとして可決された。
このように、法律上は特に同性間のカップルに限定はしていないものの、PACS法の成立により、今まで婚姻をなすことができない同性間のカップルに対して、全く保護のない状態から、協約を締結することによって一定の保護が得られるようになったという点で、同法が大きな役割を果たしたことは間違いない。
上でみたように、民事連帯協約は一方で一つの進歩である。しかし、他方、この法律によっては、同性者間のカップルが前婚(異性間)などで得た、カップルの片方の子供を養子にできないなど、子どもをもつ権利の面からは不十分であるとの批判も受けた。
この、子どもをもつ権利については、PACS法の審議過程を通じて、積極、消極双方の見解が存在していた。すなわち、子どもには、その成長において男親と女親の双方が必要である、ということを理由とし、同性者間カップルが子どもをもつことを批判的に関する者がいる半面、次のような反対意見も出された。すなわち、現在、フランスの家庭の中には離婚の危機を迎えている家庭も少なからずあり、そこではお宿押しがいがみ合っている。子どもの立場からすれば、男親と女親双方がいるが、その二人がいがみ合っている家庭よりは、男同士、女同士であっても、その二人が仲良くしている家庭のほうがよほど幸せである、とされたのだ。また、養子制度との比較から、同性者間カップルが子どもをもつことを認める者も存する。すなわち、養子に関しては、養親となるものが二人である必要は必ずしもなく、一人であっても養親となりうる場合がある。ここでは男親、女親双方は要求されていないのであるから、同性者間であっても、その事実だけを理由に子どもをもつ権利を否定するべきではないというのである。
そのほか、法学的見地からのみならず、社会学、心理学的見地からも様々な意見が出され、結果として現行法の立場に落ち着いたのである。
以上のような経緯を背景にしつつ、今回、すべての者に婚姻を認めるための法案が提出されたわけであるが、この問題に対する当初の世論調査によれば、賛否両論が拮抗していた。法案提出後には複数の世論調査がなされたが、そのうち、Ifopの調査によれば、65パーセントが同法案の趣旨に賛意を表している(ただし養子縁組については、賛成は52パーセントにとどまっている)。
しかし、カトリック教会をはじめとする反対派も黙ってはいないし、国民のうちでこの法案に反対する者たちも、ことあるごとに団結して全国規模での激しいデモを行っている。
昨年末には、法案の検討を前に、いくつかの市町村において同性間カップルの「婚姻」司式も行われたようであるが、法案提出直後の11月初旬に行われたものについては、法案提出前に当事者から婚姻に代わるセレモニーをという申し出があったものを、法案提出を受けて、より司式に近い形で行ったものだというのが実情である。また別の都市ではあるが、司式に先立ち、脅迫状が届けられたというような多少物騒な動きもあったようである。
法案の検討は、今年になってから行われ、国民議会が2月12日、第一読会において同法案第1条を賛成329、反対229で可決している。568名の総議員のうち、558名が投票、10名が棄権という中での可決であった。
この国民議会での可決を受けて、この法案の審議は上院に移され、3月20日に上院の、法律に関する審議委員会での検討が行われた。それによれば、賛成23名、反対21名で本会議に送ることとなったそうである。そして、今回、上院の第一読会においても「すべての者のための婚姻」法案が可決されたのである。
フランスにおいて「すべての者に婚姻」が認められる日も近くなってきたように思われる。それだけに同法案に反対する者たちの全国規模でのデモも激しさを増している。
神が男と女を創造し、それを娶わせるのが婚姻なのか、個々人の人権及びその結びつきを尊重するのが婚姻なのか、この問題は、単に婚姻とは何かという問題にとどまらず、人間の、神に対する挑戦ともいえるものではなかろうか。