河田 弘道 【略歴】
河田 弘道/中央大学総合政策学部客員教授
専門分野 スポーツアドミニストレーション論
2005年9月、本学理工学部(後楽園キャンパス)において、最初にスポーツ科学の授業を担当させて戴きました。翌年4月からは、多摩キャンパスにある総合政策学部の客員教授に就任。スポーツアドミニストレーション論(総称:SAD)を講義科目とし、その付帯ゼミ(FLPスポーツ健康科学プログラム)を担当する事になりました。中大キャンパスは恵まれた環境ですが、米国生活が長かった私にはその環境を有効に活用していないように見え、戸惑いを覚えたのです。日米大学スポーツの最大の違いは、アメリカの大学競技スポーツが明確に「教育の延長線上」と位置付けられているのに対し、日本では「学生の自治活動」という点にあります。前者であるアメリカは、「フェアネス」も重視。よって、「ルール」が定められているのです。例えば、アメリカでは学生選手が大学を代表する対抗競技に出場する為の出場資格には、大学生として維持すべきGPA(学業成績の判定基準)の最低の数値がルールブックに明記されています。これに違反した学生選手、指導者、及び大学管理者に対する重い罰則も明記されており、実際にペナルティーが課せられます。また大学スポーツは、興業も行う点で違いがあります。
日本の場合は、「学生の自治活動」と位置付けられているがゆえに全てにおいて不透明なアドミニストレーションが絶えないのが実情で、その点に、残念な思いがしてなりません。
日本の大学スポーツのありかたに新しい視点が必要であると思います。その為にも、スポーツアドミニストレーションの観点から、今後明るい未来を見据えた大学スポーツを再考していく必要があると思います。
今日我が国の大学では、スポーツ・ビジネスマネージメント、スポーツ・マネージメント、スポーツ・マーケテイング、等々と称される学科、科目をよく目にする時代になりました。
スポーツアドミニストレーションは、これら「専門分野、部門、部署をトータルマネージメント(統括、運営・管理)する行為の総称である」と考えて戴けるとわかりやすいと思います。既にスポーツ先進国では、体育(Physical Education)という表現を見聞きすることが難しくなっています。我が国の大学においても近年段々とこの表現を変更する大学が増えています。スポーツは、専門的に、スポーツリクレーション&レジャー、スポーツ健康医科学、競技スポーツ、観るスポーツの4分野に大別できます。スポーツ・マネージメントは、こうした概念のスポーツに、マネージメントという「手」を加える事により新しい「ソフト」を生み、新しい「生命」をもたらすものです。よってこの分野、部門は、スポーツを生産する為に重要不可欠な一つの要素となります。
本来、大学競技スポーツは、大学教育の延長線上に位置するべき重要な意義、目的を有すると考えられます。即ち、大学は、アカデミックな場であり、競技スポーツは、競技活動を通して人が共存共栄して行く為に必要な「フェアネス」を学び醸成する場でもあります。このことからも、大学競技スポーツに参加する大学は、共通の意義、目的、使命を「明文化」する事が必要です。その為にも日本全国の大学競技スポーツを統括運営、管理する組織団体の設立が急がれます。次に、大学教育の本質と競技スポーツのフェアネスを維持するためには、「ルールと罰則」を明確にし、これらを裁く「第三者機関の設置」が重要なのです。よって、大学スポーツが伝統的に盛んな中央大学にこそ、率先して大学競技スポーツのルールブックの必要性を発信してもらいたいと考えます。
(1)大学競技スポーツの活動の意義・目的は、学生、教職員、卒業生だけでなく、地域社会にも共通の話題を提供し、関係者の心を1つにまとめるパワフルなツールとなり、これら関係者に還元されることにあります。また大学の士気高揚にも大きく貢献し、母校の名誉と伝統及びそのパワーを内外に誇示するスポークスマンの役割も担うことにあります。
(2)学生選手にとって、競技スポーツは、自己の身体能力と技術を発揮する場であり、それらの限界に挑む場なのです。また、人間形成においては、協調性、社会性を学び、母校のプライドとブランド力を高め、愛校心と連帯感を学ぶ場でもあります。このように学生選手にとっては、「心学技体」のバランスの取れた「志の高い人間を育成する場」であると言えます。
(3)学生選手の大学における使命とは、大学を代表するに値する模範となることと共に、大学競技スポーツの意義、目的を遂行する実践者となることです。
理工学部で講義を始めて半年余り、スポーツ専門学部のない中央大学で如何にして学生達にスポーツ活動と競技スポーツの必要性や重要性を指導できるか思案しました。そして、その結果、06年4月から客員教授として5年間の任期中に実行すべき「5カ年計画」を作成し実行に移したのです。
講義授業のスポーツアドミニストレーションは、ティーチング(知識付与)の場と位置付け、付帯する河田ゼミは、コーチング(実学としての実践演習活動)の場としてスタートしました。本学における河田ゼミのスポーツ実践演習活動が、スポーツにあまり興味を抱かない人の多い中で、将来の中大スポーツの発展になくてはならない、地道であるが必要不可欠な環境作りの第一歩と位置付けたのです。また、ゼミ生達には、本実学を通して知識の付与のみでは決して体験出来ない個人、集団、組織に関わる人々の思考を体感し、自分達の思いを理解してもらう為にはやはり相手の言い分にも耳を傾ける事の重要性に気付き、社会におけるフェアネスの大切さを学んで欲しいのです。スポーツアドミニストレーションの基盤は、フェアネスにあり、我が国のスポーツ界に必要な次世代のスポーツアドミニストレーターに継承し発展して行って欲しいという願いでスタートしました。
河田ゼミが中大スポーツに関わる事を課題、テーマに選んだ理由は、履修学生達の身近に存在する話題であり、課題の成果を求めるに当たり中大スポーツに貢献もでき、且つ関係者に還元できるためでした。
中大スポーツカレンダーは、スポーツにあまり関心のない人達に対して「このキャンパスにはこんなに努力し、輝いている学生選手がいる」という事を知らせるための装置です。一般学生は、自分の勉強机の前のカレンダーを見て頑張っている仲間達の姿に励まされ自らも勉学に励みます。全国の父母の皆さまもスポーツカレンダー(母校の伝統を背負って他大学生達と競い合う姿)に目をやるとそれぞれ中大への思いと我が子への思いを重ね合わせる事となるでしょう。その意味で本カレンダーは、全中大関係者の母校愛を紡ぐ「信頼と絆」の証なのです。よって本プロモーション活動は、カレンダー(制作物)を媒体に中大、中大スポーツへの関心を高めて戴く事をMission=使命としているのです。
このスポーツを楽しむ文化をキャンパスに根付かせるための実践活動こそが「中大スポーツシンポジウム」であり、そこには重要なMissionがあります。我々河田ゼミは、中大スポーツの発展の為、学内スポーツの改革活動に3年間、情熱とエネルギーを注いできました。新しいスポーツ文化を中大に根付かせることを目的とするスポーツシンポジウムでした。中大スポーツシンポジウムは、大学キャンパスにおけるスポーツの楽しさ、素晴らしさを青春期の皆さんに知ってもらう文化的な活動です。
ゼミ生の本活動に対する成果の一つは、中大スポーツシンポジウムの「集客」目標を達成する事でした。
中大リレーマラソンは、日頃中大スポーツに興味のある人もない人も年に一度キャンパスに集まり、それぞれの健康と母校の現状を確かめ合い、自ら競技に参加して汗を流して語り合って戴く為の「場」です。そして参加者には、一人でも多く、スポーツ活動の楽しさ、爽やかさを味わっていただきたいのです。ゼミ生は、参加者達と励まし合い、愛校心と母校へのロイヤルティーをお互い確認し合い、協調性を醸成する場と環境を提供する。またそれは、「コーディネーター」の役割をも担っているのです。この中大リレーマラソンは、中大スポーツの変革の象徴として125周年を記念して今後毎年晩秋の多摩キャンパスで継続開催することが、大学全体にとっても大変重要な意義を持つと思われます。
河田ゼミの研究課題と実践演習活動は、スポーツカレンダー、シンポジウム、リレーマラソンと言う三本の矢(課題)を、中大における大学スポーツと競技スポーツの改善、改革、構築を目指す上で、重要な「インフラ整備」事業になると位置付けて来ました。一期生、二期生、三期生は、与えられた年月を強い信念と情熱に加え、常に高い志をもって各課題、テーマに当たって参りました。本年11月6日には、河田ゼミ5カ年計画最後の中大リレーマラソンを以って実践演習活動の集大成とする予定であります。私は、担当教員として縁あって出会った素晴らしい学生達並びに全ゼミ生達の個々の潜在能力とエネルギーに驚嘆しました。彼ら彼女らに今必要なのは、ポジテイブでクリエイテイブな環境であることを教えられました。ゼミ生達の日々の努力と責任ある実践・行動力に対して心から感謝を捧げ、今後の幸運と活躍を祈る次第です。河田ゼミの実践演習活動は、内外の多くの方々の温かいご協力により支えられて参りました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。