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研究一覧

稲葉 次紀

稲葉 次紀 【略歴

教養講座

「アークプラズマの研究とその応用」

-全てを焼き尽くす1万度の炎は地球に優しい?-

稲葉 次紀/中央大学理工学部教授
専門分野 電力工学・環境工学

「アークプラズマ」とは何か

 自然界では夏の風物詩として「雷」が有名である。「雷」はアークプラズマの一種であり、数千度に達する超高温を有しているものの、時間的には十万分の数秒という超短時間の世界であり、瞬間的なインパクトを電気系統に与えるものの、エネルギーという仕事量から見ると、僅かなものである。

 この「雷」を長時間安定的に維持・制御したものが「アークプラズマ」と言えよう。

 氷を加熱してゆくと、水、水蒸気と相変化し、更に高温に加熱すると、酸素・水素原子に分解し、更に、電子を放出して「物質の第4の状態」である「プラズマ」となる。「アーク」は、一般的に「プラズマ現象」の電気事業における呼称といえる。「アーク」と「プラズマ」の区別が難しいため、「アークプラズマ」と合成して使用する場合が多い。

 この「アークプラズマ」には「大気圧熱プラズマ」や、「低気圧高周波プラズマ」など各種の「アークプラズマ」があるが、この内、「熱プラズマ」の特徴としては、「雷」に見られるように、その超高温性、高エネルギー性、高輝度性などが挙げられ、電流を制御することで、ms(ミリ秒)級の高制御性も可能である。 これらの特徴を有効に活用して、溶接・切断・溶射などの加工や、金属の還元・精錬などの冶金、化学工業、大規模照明や、超微細なナノ(nm)テクノロジーなど様々な分野に応用が図られている。

環境問題の提起 -廃棄物処理への活用-

 特に、十年ほど前の政府間世界環境会議COP3京都大会以来、地球温暖化対策を含めた環境対策が世界規模で社会問題化し、環境改善技術の進展が顕著となっている。その一翼として、「アークプラズマ」による廃棄物の処理や減容化が注目されている。 特に、土地の狭い日本では、減容化の効果は甚大であり、医療廃棄物や有害物の無害化・低害化処理にも、その本領を発揮している。(1)

電気事業における研究・開発例

 「知の回廊」(第72回:アークプラズマの研究と応用)では、電気事業における具体的な研究・開発例として、放射性廃棄物の減容処理・乾式表面除染処理、超微粒子などの新材料創製、優秀な断熱材ながら発ガン性が発見されたアスベストの無害化と再資源化処理などに言及している。さらに、これらの研究・開発を支える「アークプラズマ」の基礎特性も解明している。

 「アークプラズマ」は、材料の溶融処理の展開技術として、新材料の創製にも如何無くその性能を発揮している。また、「アークプラズマ」は、基材表面の洗浄化にも適しており、原子炉解体で生じた放射性廃棄物の表面層を薄く除染することも可能である。さらには、基材表面を凹凸に粗面化し、その表面に溶射膜を密着させることで、基材に対する密着強度を従来の3~4倍に向上させることにも成功しており、「アークプラズマ」の応用範囲はますます拡大している。

社会における環境浄化への貢献

 超高温、高輝度、高エネルギーという特徴を持つ熱プラズマ(5000度以上の超高温プラズマ)は、溶接、切断、溶射、材料合成、照明、表面処理、廃棄物処理まで、多種多様な応用・展開を見せてきた。現在までに、熱プラズマに関しては、様々な研究が行われ、特に、ここ数年は、モデリング(計算、シミュレーション)技術の発達、小型廃棄物処理装置の開発、小型溶射装置の開発、超高速表面処理など、新しい展開が見られる。(2)

 圧力が1/100気圧程度の減圧アークによる表面処理に関し、有害成分が含まれる廃棄物の中には、表面層にのみ有害成分が存在する場合がある。表面に有害成分を含む代表的な例として、鋼材表面に酸化層を含む金属廃棄物が挙げられる。また、耐食性、耐摩耗性、耐熱性等を持った高機能膜は再資源化する際に、難処理膜となり再資源化の妨げになっている。このため、これらの有害表面層のみを効果的に取り除く技術として減圧下におけるアークを利用した表面処理・表面クリーニング手法の採用が考えられる。現在、表面クリーニングにおいては、酸・アルカリ溶液による化学的処理、あるいはプラスト(微細粒子吹き付け)による機械的処理が主流であるが、それぞれ大量の廃液、スラッジ(固形物の入った粘性のある液体)、粉塵、騒音等の2次有害生成物が発生する。一方で本クリーニング技術は乾式・閉空間処理であり、環境にやさしく、2次生成物を回収できる利点がある。本「回廊」では、直流アークプラズマの陰極点を利用した金属表面処理・表面クリーニング・溶射前処理特性等を紹介している。

熱プラズマを用いた廃棄物処理の現状と新展開

 次いで、熱プラズマを用いた廃棄物処理の現状と新展開を紹介する。熱プラズマは、超高温・高エネルギー密度・活性な化学反応を得ることや迅速なプラズマ制御が可能であり、アルゴンやヘリウムを用いた不活性雰囲気、酸素を用いた酸化雰囲気、窒素や水素を用いた還元雰囲気などを自由に選択できるため、各種の材質が分別される廃棄物処理には好都合である。「知の回廊」では、熱プラズマを用いた廃棄物処理の現状と新展開として、最初に現状を総括した後、焼却灰、放射性廃棄物、フロン、PCB、アスベスト、医療廃棄物等の各処理の現状と技術及び課題に関しまとめている。近年、熱プラズマによる廃棄物処理技術は、実用化、大規模化、簡便化、高効率化等が図られつつあり、本技術のさらなる発展が期待される。

今後の環境研究の方向性 -電気自動車によるCO2ガスの抑制-

 加えて、電気自動車の導入によるCO2ガスの抑制効果について言及したい。ガソリン車を電気自動車に切換えることで平均的には同一距離に対するCO2ガスの発生量をほぼ半減化することが期待できる。ただし、何種類もの条件が重なっており、石炭火力のみで発電するという最悪の場合には、ガソリン車と同じで、何らのCO2抑制も期待できない場合もある。CO2ガスの発生は、石油火力発電では石炭の約8割に、天然ガス火力発電では同じく約7割に抑制され、効果が生じる。もちろん、原子力発電や水力発電、風力や太陽電池などの自然エネルギー発電ではほとんど零となり、CO2ガス抑制効果は絶大となる。(3)

 この様な「アークプラズマ」応用の発展時期に、「知の回廊」という本学の教養番組で「アークプラズマの可能性」について紹介できることは、産業界のみならず、一般社会への貢献という意味からも、嬉しく感じている。今後とも、電力輸送を担う送配電系統における絶縁機材の性能向上から原子力発電所廃止措置という広範囲にまたがる高付加価値を持つ技術革新や社会貢献にますます貢献することが期待される。

執筆者監修の教養番組「知の回廊」(「アークプラズマの研究と応用」(第72回))はこちら新規ウインドウ

参考文献
  • (1)稲葉、「アークプラズマの新利用技術」、中央大学「草のみどり」、110号、24-27頁(1997)
  • (2)稲葉・岩尾、「材料プロセッシングを支える熱プラズマの新展開」、プラズマ・核融合研究、82巻、8号、470-471頁(2006)
  • (3)劉・稲葉、「電気自動車導入に見るCO2ガス排出量の動態的低減効果」、電気学会論文誌、Vol.129-D, No.2, pp.232-233(2009)
稲葉 次紀(いなば・つぎのり)/中央大学理工学部教授
専門分野 電力工学・環境工学
三重県出身。1966年名古屋工業大学卒。1971年名古屋大学大学院博士課程満了。三菱電機(株)、アデカ・アーガス化学(株)、(財)電力中央研究所等を経て1994年から現職。電気学会所属。研究テーマは電力故障対策・アークプラズマの利用技術・有害廃棄物の無害化。主著「電気工学ハンドブック」(オーム社)、「独創エネルギー工学」(講談社)「放電ハンドブック」(コロナ社)