人ーかお

専業主婦から弁護士、そして調停委員になって

伊藤 祐子(いとう ゆうこ)さん/弁護士

1 弁護士になるまで

 私は、大学卒業後、専業主婦として子育て中心の生活をしていました。その間ずっと、妻や母、嫁としての立場ではなく、個人として、社会のために役立つ仕事をしたいと考えていたところ、ロースクールができるらしいという話を耳にしました。

 大学時代に法律を学んでいましたし、周りに法曹関係者もいたので、弁護士は身近な仕事でした。また、日頃、ママ友との会話の中で、家族関係の相談があっても弁護士のところに行くのは勇気がいる等と聴き、そういう感覚を理解できる私になら、弁護士の敷居を下げるお手伝いができるかもしれないと思い、まずはロースクールを受験することにしました。

 受験したロースクールのうち、思いがけず学費半額免除の切符をいただけた中央ローに入学することになりました。未修コースの3年間、(記憶力・瞬発力の衰えている40代にとって)勉強と家庭の両立は大変でしたが、優しい友人たちや辛抱強く教えて下さる教授陣に助けられ、何とか継続することができました。

 そして何よりも頑張ることができたのは、家族法務に携わりたい、弁護士の敷居を下げたいという当初の目標があったからだと思います。

2 調停委員として

 無事に司法試験に合格した後は、いわゆる「街弁」として、民事・家事事件に携わってきました。縁あって、令和2年4月、東京家庭裁判所家事調停委員に任命されました。家裁の調停委員になり家事事件に携わることは、当初の私の目標の一つでしたので、大変嬉しかったことを覚えています。

 私は、通常の弁護士業務と兼務しているため、現在は10件程度の案件を担当し、月7~8件程度の調停期日が入るようなスケジュールになっています。裁判所へ行くのは調停期日のみではありません。事前に、案件の記録を読むために裁判所へ行き、今後の進行を検討するなどしています。その際生じた疑問点は、相調停委員と協議したり、担当裁判官や書記官に伺ったりして解消したうえで期日に臨んでいます。

3 家事調停について

 専門的な話は書籍を読んでいただくこととし、以下では、実際の家事調停がどのように運用されているかにつき、私の経験を基にお伝えします。

 3-1 家事調停に関わる人々

 家事調停は、基本的に2名の調停委員(男女各1名)と裁判官1名から成る調停委員会により、進行されます。

 調停委員には、一般調停委員と弁護士調停委員がいます。私の経験上、弁護士調停委員は、法的争点整理が求められることが多い遺産分割事件に優先的に配点されているようです。

 その他、家裁調査官や書記官も重要な役割を果たしています。

 3-2 調停の進め方

 通常、調停期日は2名の調停委員で進行します。担当裁判官は、多数の案件を持っているため、調停の場に常に参加するわけではありません。もっとも、裁判官に相談して決めなければならない局面では、都度、評議(調停委員と裁判官とで案件について協議をすること)を入れ、事案の内容や進行方法を相談しながら丁寧に進めています。

 調停の所要時間は、1枠あたり最大1時間45分です。現在は、午前1枠、午後2枠入るようになっています。

 当事者双方が同席することは少なく、基本的に交替で調停室に入っていただき、お話を伺います。同席調停という方法もありますが、日本では、別席調停が主流であるように思います。双方とも代理人のみの場合は、同席で進行した方がスムーズに話が進むこともあるため、同席調停とすることもあります。

 別席調停は、先方が話している間は待合室にて待つことになるため、待ち時間が長いのですが、感情的対立が深い家事事件においては、別席にすることで安心して話をしていただける点で、非常に有益だと感じます。

 3-3 コロナによる変化

 私が調停委員に任命された年は、コロナの影響で進行中の案件の調停期日が取り消され、新規案件もなかなか期日が入りませんでした。やっと期日が入り始めた後も、いかにコロナ対策を行うか、試行錯誤の日々でした。

 今では定着したこととして、時間枠の増設・待合室の増設・調停室の消毒・送風機を利用した換気などがあります。

 最大の変化は、WEB会議が開始されたことです。IT化に関しては民間より遅れていましたが、コロナをきっかけに急速に進みました。私は、遺産分割調停でWEB会議を経験したことがありますが、以下の点で、大変、有用であると感じています。

・ 表情が見えるため、当事者と調停委員とのコミュニケーションが対面同様にスムーズである。

・ 感情的対立の深い当事者が裁判所内で出会うリスクがない。

・ 体調不良で対面が難しい場合でもWEB会議を活用し、期日を無駄にしないですむ。

 3-4 調停委員として心がけていること

 調停委員は、公平中立な立場ですので、心をフラットな状態に保ちながら、当事者の話を伺うようにしています。  

 特に、第1回期日では、当事者ご本人は様々な感情(怒りや悲しみなどの負の感情が多いです)をもって出席しているので、まずは皆さんのご意見やご主張を、時間の許す限り、伺うことにしています。

 また、家事事件(特に遺産分割事件)の性質上、調停後も親族としての関係は続きます。そのため、当事者全員が「相手も譲ってくれたのだからお互いさまかな。」などと納得でき、可能であれば笑顔で帰っていただける場所にしたい。そういう思いで臨んでいます。

 ある案件で、調停期日の席で涙を流したり怒ったりしていた方がいました。長期間かかったその案件が無事に成立したとき、その方が「調停委員が私の話を遮らず辛抱強く聞いてくれたから、ここで折り合いをつけようと決断できました。ありがとうございました。」と笑顔で伝えてくれたことがありました。限られた時間の中では、早期解決の観点から、争点には影響しないお話を一旦遮った方がよいかなと思う瞬間もあります。しかしそういう時には、この言葉を思い出すようにしています。

 今後も、微力ながら、皆さんのお役に立てるよう精進したいと思います。

4 この先もずっと

 私は、40代でロースクールに入学し、49才で弁護士になりました。

 「家庭と勉強の両立できるの?」「合格できるの?」という不安はありましたが、不安を上回る「やってみたい!」という自分のワクワクする感覚を大事にしてきました。夢を実現するのに年齢は関係ない、心からそう思います。それぞれのタイミングで、やりたいことをやればいいのではないでしょうか。第2の人生、第3の人生・・・次々と自分の人生のフェーズを変えていくことができるのは自分自身だけなのですから。

 私はこの先もずっと、やらずに後悔することのないように決断し続けたいと思います。

伊藤 祐子(いとう ゆうこ)さん/弁護士

東京都出身。1967年生まれ 早稲田大学法学部卒業後、専業主婦を経て 
2014年3月中央大学法科大学院(未修)卒業
2015年9月司法試験合格(69期) 都内法律事務所勤務を経て
2020年11月安藤総合法律事務所入所