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自治体内弁護士の重要性を感じる日々

宮里 民平(みやさと たみへい)さん/草加市役所総務部特命副参事、弁護士

1 草加市役所で勤務しております

 6年間の法律事務所での弁護士経験を経て、2019年4月から草加市役所で自治体内弁護士として勤務しています。自治体内弁護士とは、いわゆるインハウス(企業内弁護士)の自治体版であり、自治体の正規職員として、週5日・1日7時間45分、役所内で常勤しています(自治体によって異なります)。

 自治体内弁護士となって約4年しか経っていませんが、自治体内弁護士の重要性を日々感じており、自治体内弁護士の魅力や特徴を少しでもお伝えしたいと思います。

2 自治体内弁護士って何してるの?

 主な業務は職員からの法律相談です。相談を受けると、法令等を調査の上、対応方法についてアドバイスするということを繰り返していますが、私の場合は1年間で150件を超える相談があります。

 相談される案件は、行政が行っていることすべてが対象であり、極めて多岐にわたります。例えば、水道、道路、公園、境界、都市計画などのインフラ関係や、保育園、生活保護、障害者、高齢者といった社会福祉関係、人事労務関係、入札などの契約関係、債権管理、税金、議会、学校運営にかかわることなど、まだまだあります。

 関連する法律も多く、行政三法や地方自治法をベースに、墓地埋葬法、子ども子育て支援法、地方税法、空家特措法、道路法など、今まで全く知識のなかった法律に関する相談をうけます。

 それに加えて、自治体の条例規則の解釈も必要になります。自分の知らない法律・分野の法律相談をうけるので、絶えず知識がアップデートされていきます。そんな法律あるの!?というところから始まり、調査を進めて、法律家としての思考で解釈することは、大変面白いものです。

 なお、この幅の広さは、自治体の規模によって変わり、小規模な自治体になるほど幅広い対応が求められる傾向にあるようです。

3 ロースクールの学びを生かして

 法律相談に対応するためには、行政法の知識が必要になりますが、いわゆる一般民事事件の弁護士活動をしていても、行政法に触れる機会はほとんどありません。また、自治体内弁護士の業務においても、行政法が直接聞かれる相談というのはありません。問題の前提として、行政法の知識、理解、思考方法が必要になるのです。

 私も、ロースクール以外で行政法をきちんと勉強したことはなかったため、日々、ロースクールで学んでおいてよかったと改めて実感しています。

4 自治体内弁護士の魅力とは!?

 1つ目は、行政である以上、裁判に勝てるかどうかだけがすべてではないという点です。裁判例など何もない分野の法律相談もありますし、法令解釈が確立していない分野、法の文言と実務に乖離が見られる分野もあったりします。また、法律上は行政の義務ではないけれど、行政としては行った方がいいことなども多々あります。

 それらの事情を踏まえて、実務に適合させながら法解釈をしつつ、行政としての公平性や平等原則といった観点からも、法的アドバイスをすることは、自治体内弁護士ならではのやりがいです。

 2つ目は、市長たちとの距離も近く、行政としての意思決定に関与できることです。自治体の規模や組織の在り方などにも左右されるかと思いますが、私が勤務する草加市(人口約25万人)では、直接、市長と話す機会もあります。市長と意見交換をして、直接アドバイスしたり、市長の政治的な意見も踏まえた対応を考えたりするなど、意思決定に関与できるというのも、自治体内弁護士の魅力でしょう。

5 多くの自治体に弁護士を!

 タイトルにもある通り、私は自治体内弁護士として勤務しながら、日々、その重要性を実感しています。

 というのも、法律による行政の原理という言葉があるとおり、行政は法律にしたがって事業を実施しなければなりません。しかし、自治体職員のみで十分に法を理解しながら、行政を進めることができるかというと、なかなか難しい面があります。

 例えば、簡単なところでは、保育園の利用調整結果について、誤ったお知らせをしてしまいクレームになってしまっているという相談があったとき、法的知識がなければ、謝罪して誤記であることを理解してもらうという対応方法にばかり目が行ってしまいます。しかし、この前提として、保育園の利用調整結果のお知らせは行政処分に当たるのか、行政処分である場合、行政庁の内部的意思決定と外部的意思表示が異なる場合における行政処分の効力はどうなるのか、という前提の問題があり、それを踏まえて、まずは行政処分の職権取消をしなければならないといった対応も行政としては必要になります。

 これは、行政法の知識や法解釈と事案へのあてはめという能力がなければ難しく、まさに、弁護士の能力が生かせる分野です。

 地方分権が提唱されていますが、これは単に独自の政策を行うということだけでなく、法解釈・法適用についても自治体が責任をもって行わなければならないということも意味します。

 このような要請に対して弁護士はうってつけであり、私は多くの自治体に弁護士が常勤して法的アドバイスを実施したほうが良いのではないかと考えています。

6 おわりに

 弁護士の役割が拡大している中、ロースクールの役割は小さくなく、司法試験合格後を意識してもらうこと、ロースクール在学中に豊富な人脈を形成してもらうことは重要でしょう。実務では、他分野の専門家や研究者の協力が必要となる場面は多くあります。私自身、草加市役所の行政不服審査会の委員の選任にあたり、まさに中央大学ロースクールのつながりでご紹介いただくことができました。

 自治体内弁護士というキャリアは、まだまだマイナーですが、大変、魅力的であり、多くの方に興味・関心を持っていただき、自治体内弁護士が各自治体に一人はいるというのが当たり前の時代になることを期待しています。

宮里 民平(みやさと たみへい)さん/草加市役所総務部特命副参事、弁護士

熊本県出身。1986年生まれ。
2009年 一橋大学法学部卒業。
2011年 中央大学法科大学院(既修)修了 司法試験合格。
2012年 旬報法律事務所に入所し、主に労働者側の労働事件を取り扱う。
2019年 特定任期付職員として草加市役所に入庁。

寄稿に「リース方式による公共施設の建築」(「月刊 判例地方自治」No.473 株式会社ぎょうせい)、「売買は賃貸借を破る」(「月刊 判例地方自治」No.480 株式会社ぎょうせい)。