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行政機関における法曹有資格者の有用性

橋本 拓朗(はしもと たくろう)さん/弁護士

1 消費者庁で経験したこと

 2018年4月に消費者庁総務課の情報公開・個人情報保護・公益通報係の担当課長補佐として任用され、情報公開関係業務や公益通報の受付窓口としての業務などを行ってきました。2019年には消費者庁の公文書管理に関する業務を追加で担当することになり、2020年には従前の業務からは離れて,法規専門官としての業務を行うことになりました。

 特に法規専門官としては、行政不服審査法に基づく審査請求がなされた場合に審理員として審理を行うなど、弁護士としての知見が深まるような業務に携わりました。

2 行政機関内における法曹の活躍が期待される場面

 行政機関において法曹の活躍が期待される場面として,従来から,行政機関が当事者となる訴訟の場面,法令や条例などの立案の場面,行政機関内部における法的アドバイスの場面,国民・住民との対応が挙げられるところですが,個人的な体験から,以下に挙げる分野での法曹の活用が進んでよいと思っています。

(1)情報公開・個人情報保護の分野

 私が消費者庁で担当した業務のうち主だったものの一つとして,消費者庁に対する情報公開請求の対応があります。情報公開請求でのポイントの一つは,請求者が請求対象として記載した内容で,行政文書が特定できるかどうかという点です。

 例えば,「平成〇年〇月〇日付けxxx第〇号の決裁に関する文書」ということであれば,比較的該当する文書は明瞭なのですが,記載内容からはどういうものを求めているのかがはっきりしないこともあります。そのような場合には,請求者に連絡して,どのような文書をイメージしているのかを具体的に聞き出し,文書を持っていそうな部署とも相談しつつ,請求対象となる文書が特定できるような記載を検討し,請求者に補正をお願いしたり,請求者の同意を得て職権で補正したりするというようなことをしていました。このあたりは,相談者の意図を把握し,法令を説明し,取りうる手段を検討して説明するという法律相談に通ずるところがあり,弁護士としての知見が活きる場面ではないかと思います。

 また,実際に対象文書が特定され,開示・不開示の決定をするにあたって,行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条の不開示情報の考え方について,過去の裁判例や答申例を踏まえて担当部署にアドバイスをしていましたが,この業務はまさに法曹としての能力を活用した業務であったと思います。他府省では情報公開請求の対応に法曹が関与しているところはほとんどないらしく,他府省から情報公開に関する相談が寄せられたことも何度かありました。個人情報保護の分野でも,保有個人情報の開示請求の対応や,個人情報の取得において注意すべきことを庁内の担当者に説明し,個人情報の取得同意書案を検討するなど,法曹としての知見が活きる場面は多いと実感しました。

(2)行政不服審査法の分野

 行政不服審査法は総務省が所管しており、各行政機関向けに研修を行うなどしているのですが、どこからどう伝わったのか、消費者庁では審理員を法曹資格者が務めているということを総務省の担当者が知り、結果として,私が審理員及び審理員補助者向けの研修の講師を担当したことがあります。

 そのときの研修の打合せで、行政不服審査法に基づく審理に関わる職員に法曹有資格者をあてている府省はほとんどない、というようなことを聞きました。
 行政不服審査法に基づく審査請求では、行政処分の適法性のみならず、妥当性も審査します。行政処分が行政手続法その他の法令の定める手続を順守しているかどうか、処分の要件を充たしているかどうか、適法に処分を行える場面であっても、下した処分の内容が妥当であるかどうか、ということを、審査請求人と処分庁が提出した資料から事実を認定し、それを法的に評価して判断することが求められます。
 法曹有資格者であれば、少なくとも民事裁判修習、刑事裁判修習のときに、当事者の提出した証拠から事実を認定し、それを評価するという訓練をしていますし、また、当事者の主張を法律の要件にそって整理するという訓練もしていますから、審理手続における争点整理や最終的な審理員意見書の作成などの業務を行わせるのにふさわしい能力を有していると思われます。

 総務省の行政不服審査会のウェブサイトには,行政不服審査会の答申が掲載されており,職業訓練受講給付金不支給決定に対する審査請求や,立替払事業に係る未払賃金額等の不確認処分に関する審査請求など,比較的件数も多く定型的と思われる審査請求の案件も多く見受けられます。一方で,特定商取引法や景品表示法に基づく行政処分の取消を求める審査請求のように,審理関係人から訴訟と同じようなレベルの主張や証拠が提出される案件もあり,このような案件の場合,審理不尽とならないためにも,審査庁において法曹を活用することが望ましいと感じました。

3 まとめ

 特定任期付職員になりたいという場合、法執行に携わりたいとか、法の制定に関わりたいというようなことを考えて応募することが多く、またそのような部署での募集も多いと思うところですが、審査請求であるとか、各府省が有する知的財産権に関わる業務など、法曹としての知見が求められる場面に法曹有資格者が携われていないところはまだ数多く残っていると感じました。

 法曹有資格者が行政機関の内部にいることにより,行政実務を知ったうえでのアドバイスが可能となり,より法令に即した行政運営が可能となると思われますので,行政機関側としても法曹有資格者の活用を検討すべきと思いますし,法曹有資格者としても応募の機会があれば前向きに検討していただきたいと思います。

橋本 拓朗(はしもと たくろう)さん/弁護士

鹿児島県出身。
1999年中央大学法学部卒業。
2006年中央大学法科大学院(既習)修了。新司法試験合格。
2007年弁護士登録(千葉県弁護士会)新60期。弁護士法人リバーシティ法律事務所に入所。
2018年特定任期付職員として消費者庁入庁(2021年3月まで)。情報公開・個人情報保護・公益通報担当課長補佐、公文書監理官室室員、法規専門官として、様々な業務に携わる。
2021年4月弁護士再登録。伊藤綜合法律事務所に入所。

著書に『最新著作権の基本と仕組みがよくわかる本』(共著、秀和システム刊、2009年)、『すぐに使える!契約書式文例集』(共著、秀和システム刊、2011年)がある。