地方で弁護士をすること
渡部 俊介(わたなべ しゅんすけ)さん/弁護士
1. はじめに
私は、現在、茨城県つくばみらい市と石岡市にそれぞれ事務所を構えて仕事をしています。
2015年1月1日から執務を開始し、約3年で独立しました。
弁護士として働き始めてからは、新しい出会いや挑戦が数多くあり、毎日大変刺激的です。その分、緊張する機会や分からないことに遭遇する機会も多く、悪戦苦闘しています。
そんな私のこれまでの経験から、茨城県のような「地方」で弁護士をすることについて、私なりの理解をご紹介できればと思います。この記事をお読みの皆様に何かしらの参考になれば幸いです。
2. 茨城県や茨城県弁護士会について
茨城県は、つい最近まで、都道府県魅力度ランキングで最下位を独走しており、誰もが認めるいわゆる「田舎」です。しかし、東京へは30分から1時間程度あれば電車で行けるほど近いです。東京が近いことから近郊農業が発達していたり、大きな会社の工場がいくつもあったり、意外と産業は盛んで、平成29年度のデータですが、都道府県別1人あたりのGDPも全国で7位になっています。県庁所在地である水戸にほど近いひたち海浜公園というところでは、野外フェスROCK・IN・JAPANが開催されたり、ネモフィラやコキアがインスタ映えすると話題になっており、シーズンになると他県から大勢の人が押し寄せてきます。そのほかにも茨城県の知られざる魅力はたくさんあるのですが、それだけで原稿が終わってしまうので、この辺にしたいと思います。万が一ご興味があるかたは下記をご参照ください。
・指標からみた茨城
https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/tokei/fukyu/tokei/sugata/ibaraki/index.html
・茨城県の名所
https://www.ibarakiguide.jp/
・茨城の名産品
https://www.ibarakiguide.jp/matome/page-104738.html
そんな茨城にある茨城県弁護士会はですが、10数年前は、弁護士が100人も所属していませんでした。司法制度改革によって合格者が増えてから会員数が増え始め、現在は300人前後の弁護士が登録しています。大体人口1万人あたりに1人弁護士がいる計算になります。特に弁護士が増えている地域は、茨城県南部エリアです。このエリアは、茨城県で唯一人口も増加している地域です。
弁護士の人数が増えたとは言っても、茨城県弁護士会はまだまだ規模は小さい単位会です。しかし、所属している会員の中で委員会を運営していかなければなりませんから、各委員会は常に人手不足であることが多いです。かくいう私も、5つの委員会に入って活動しております。私のような若手には「多重会務者」が多数存在するのが実情です。
弁護士会の会務についてはいろいろな考え方があると思いますが、弁護士として業務を行う以上は、弁護士会費を納めるだけでなく、地域や弁護士会に実働して貢献することが責務だと考えておりますので、積極的に会務には参加したいと思っています。というのは表向きの理由で、実際は会議の後に弁護士仲間とご飯を食べに行ったり、飲みに行ったりするのが楽しくて参加しているといったところです。各委員会は、各分野の先端的な内容を取り扱っていますので、実務に通じる学びがあります。もちろん委員会活動の負担というのはそれなりになるのですが、委員会後の懇親の場では、実務で悩んでいることを先輩弁護士に相談させていただくことができますし、そういったところで信頼関係を築いておくと、他の弁護士からお客さんの紹介を受けるということもあります。ですので、積極的に委員会活動をするメリットも十分にあるように思います。私たちのような規模の小さい単位会では、このような顔の見える交流というのも重要な意味を持つことも多いです。
3. 地方で弁護士をすること
私は、少しでも早く独立して自分の事務所を持ちたいと考えていたので、当初入った事務所でも、給料や仕事を事務所から与えられない、いわゆる「ノキ弁」として執務を開始しました。もちろん当初は収入の面で不安はありましたが、幸い茨城県は上記のとおり弁護士がそれほど多くないため、一定程度、弁護士会の名簿で回ってくる案件(法律相談、LAC、中小企業相談、刑事当番弁護等)や法テラス案件、飛び込みの案件等があったので、食べていくのには困らない収入はありました。また、他士業との交流会なども頻繁に開催されており、そこに顔を出して他士業の方と顔見知りになることで、お客さんを紹介してもらうということもたくさんありました。そうして接点を持てたお客さん一人ひとりに対し、一生懸命対応することで、そのお客さんが再度相談に来てくれたり、ほかのお客さんを紹介してくれたりしてくれました。そうこうしているうちに、経済的な心配については、あまりしなくてもよいようになっていきました。東京のような大都市では、競争も激しいでしょうからそんなに甘くはないのでしょうが、弁護士が増えたといっても、まだ地方では、きちんと受けた仕事の内容や依頼者に向き合っていれば、弁護士業で食いっぱぐれるということは無いような気がします。
また、地方の特色として、経験年数にかかわらず、幅広くいろいろな業務を担当することになるということがあげられると思います。茨城のように弁護士も多くなく、人口密度の低い地方では、法律事務所もある分野に特化して集客することは難しいので、多様な業務を取り扱う事務所がほとんどです。そうすると、一般民事はもちろん、離婚や相続などの家事事件、刑事事件や債務整理事案等、毎日色々な仕事をすることになります。飽きない反面、仕事が入るたびに新しいことを勉強していくような感覚があります。また、茨城県では、国選弁護人登録をしている弁護士であれば、1年目から裁判員裁判を担当する可能性があったり、若手でも委員会から自治体の第三者委員会に派遣される等、経験年数にかかわらず、いろいろな職務に当たる機会を得ることができます。
それから、雑な仕事をすると裁判所や同業者にそのような弁護士であるという認識をされてしまうことは、地方の怖いところかなと思います。東京では一度相手方になった代理人と再び相まみえるということはほとんどないと聞いたことがありますが、茨城ではよくあることです。私自身、常に自分の仕事が外に出して恥ずかしくないものであるかは気を付けているつもりですが、よく裁判所からの補正の要請があるので、改善の余地はまだまだありそうです。
4. 今後の展望
そもそも、私が地方で弁護士をしようと思ったのは、地域に密着し、地元の人のいろいろな悩みを、大きい小さい関係なく相談してもらえるような存在になりたいと思ったからでした。町医者のように、何かわからないことや不安なところがあるからとりあえず相談してみようと思ってもらえるような事務所運営をしていきたいと思っています。私が事務所を構えているつくばみらい市や石岡市というところは、もともと弁護士が少なかった地域でもあり、そのような役割をより一層果たせるかなと思っています。地域の人から気軽に相談をしてもらい、適切な解決方法を提案し、私だけで解決できない場合には他の専門家や、行政機関と連携しながら業務に当たれるようになりたいと思っています。
地方ではまだ弁護士という存在はレアであり、分不相応の接遇を受けることもあります。そんな中でも調子に乗ることなく、しっかり足元を固めて、依頼者に頼られるような弁護士になりたいと思っています。
渡部 俊介(わたなべ しゅんすけ)さん/弁護士
茨城県出身 1985年生まれ
2009年 筑波大学第一学群社会学類 卒業
2012年 中央大学法科大学院 未修コース 卒業
2013年 司法試験合格
2015年 弁護士登録(茨城県弁護士会)
2018年 みらい中央法律事務所 設立
2021年 事務所法人化 つくばみらい本部オフィス、石岡オフィス設置