人ーかお

富士山の麓での弁護士活動

岡村 光男さん/弁護士

1 はじめに

 私は、中央大学法科大学院を第1期生として修了した後、新60期としての司法修習を経て、東京の法律事務所において約10年にわたって企業法務を中心とした職務に取り組みました。

 その後、縁あって山梨県富士吉田市において独立開業することとなり、現在、開業して3年目を迎えています。

2 富士北麓の状況

 まず、山梨県の司法事情や富士吉田市の環境について簡単にご説明します。

忠霊塔

 山梨県には、県庁所在地である甲府市に甲府地方・家庭裁判所(本庁)があり、その唯一の支部として都留市に同裁判所都留支部があります。その他に、甲府・都留・鰍沢・富士吉田の4ヶ所に簡易裁判所が設けられています。

 私が事務所を構えている富士吉田市は、都留支部の管轄地域にあたります。都留支部管内地域は、山梨県の東側の地域にあたり、南北に長く、11の市町村が含まれています。このうち、富士吉田市、富士河口湖町、山中湖村などは、富士山の北麓に位置しており、緑豊かな自然に恵まれ、高いところでは標高1000mを超えます。そのため、冬の寒さはとても厳しく、毎日氷点下が続くようなことも珍しくありません。現に私の事務所でも水道管が凍結してしまい、一苦労したことがありました。反対に、夏はとても過ごしやすく、クーラーはさほど必要ではなく、避暑地としても大変好まれています。

 この地域は、2013年に富士山が世界文化遺産に登録されたことも影響して、国内外を問わず、毎日大勢の観光客でにぎわっています。「富士五湖」と呼ばれる5つの湖、8つの神秘的な湧水池がある「忍野八海」、そして、最近では、『富士山』と『桜』と『五重の塔』(忠霊塔)が同時に見られるという「新倉山浅間公園」が観光客に人気のスポットとなっています。

 ちなみに、私の事務所からも富士山を眺めることができます。すっかり見慣れた景色ではありますが、季節によって様々な顔を見せる富士山は、時には癒しを、時にはパワーを与えてくれるとても頼もしい存在です。

3 業務の状況

 都留支部管内の人口が約19万人であるのに対し、都留支部管内の弁護士は私を含めて5名しかいません。山梨県内の弁護士は130名近くいますが、そのほとんどは本庁がある甲府市に事務所を構えているというのが実態です。5名というのは過去最多の人数であり、以前と比べれば、弁護士過疎という状態はかなり改善されたとはいえますが、人口数からすれば、まだ弁護士数は足りていないように感じます。

 これまでに受任した事件としては、労働問題、債務整理(任意整理、破産等)、債権回収、不動産トラブル、近隣トラブル、土地・建物明渡請求、交通事故、離婚、相続、刑事事件など、多岐にわたっています。裁判所から、破産管財人、成年後見人、相続財産管理人、清算人、仮取締役などに選任される機会も多くあり、また、富士吉田簡易裁判所では司法委員にも選任されています。また、地方自治体の委員会・審議会等のメンバーに選任されることもあり、本来の弁護士業務とは少し毛色の違う仕事を担当することもあります。

 このような多種多様な業務を行う中で、元々、東京で弁護士をしていたときに専門的に取り扱ってきた企業法務についても、その経験を活かし、県内全域の様々な業種の企業の顧問業務も行っています。

4 より身近な存在になるために

 弁護士活動の場を東京から富士山の麓に変えて強く感じるのは、弁護士という存在が地域の方々にとってあまりに縁遠い存在であるということです。

 そもそも、この地域に弁護士がいること自体、地域の方々にはまだ十分に認知してもらっておらず、「富士吉田に弁護士がいるとは知らなかった」と驚かれる方もまだまだ多くいらっしゃいます。

 本来であれば、「町医者」のように、気がかりなことがあればすぐに相談できる環境があればよいのですが、このような弁護士偏在地域ではそうはいきません。そのため、かなり事が進んでからようやく相談にいらっしゃる方が大多数のため、その時点では紛争がより深刻化してしまっており、解決に苦慮することも多くあります。

 まずは弁護士の存在を知ってもらい、そして、弁護士を身近に感じてもらえるように取り組む必要があると痛感しているところです。その上で、トラブルを未然に防止するという役割を果たせるように頑張っていきたいと考えています。

 弁護士の数が増えすぎてしまって仕事がない、というような声も業界内からは多く聞こえてきますが、地方(特に弁護士偏在地域)においては、弁護士数はまだ十分とはいえません。これから弁護士を目指す方や、都市圏から地方での開業を検討中の方は、是非、弁護士偏在の解消に向けて、地方に飛び込んでみてはいかがでしょうか。きっと、魅力ある充実した毎日が待っていると思います。

 今後も、地域に根差した信頼される「町弁」(町の弁護士)になれるよう、これからも精力的に取り組んでいきたいと思っています。

岡村 光男(おかむら・みつお)さん

2001年 立教大学経済学部経営学科 卒業
2006年 中央大学法科大学院 卒業
2007年 司法研修所修了(60期) 弁護士登録(第一東京弁護士会)
      安西法律事務所(代表 安西愈弁護士) 入所
2017年 岡村法律事務所 開設(山梨県弁護士会)
現在、企業法務、民事家事全般(離婚、遺言・相続、不動産取引、借地・借家、交通事故、労働問題、破産など)、刑事事件に取り組む。
主な著書(共著)
「労働時間管理Q&A100問」(2014年 三協法規出版)
「有期雇用・高年齢者雇用の法律問題」(2014年 労働新聞社)
「人事六法入門」(2016年労働新聞社)
「ビジネス法務体系 労働法」(2018年 第一法規)
「事例で学ぶ パワハラ防止・対応の実務解説とQ&A」(2019年 労働新聞社)
その他 多数