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生井澤 葵さん【略歴】
~熊谷支部での街弁ライフ!~
生井澤 葵さん/中央大学法科大学院実務講師・弁護士
「先生に出会えてよかったです」
「優しい先生でよかった」
私を支えてくれている言葉たちは、全て依頼者たち、あるいは被告人からいただいたものです。これほど率直な感謝の言葉をいただける仕事もなかなかないだろうなと、私は弁護士になれた喜びを今でも噛みしめて仕事をしています。
自己紹介が遅れました。私は埼玉県熊谷市で弁護士をしております。得意分野は離婚問題やその関連問題、そして不貞の問題です。ただし、いわゆる“街弁”ですので、裁判員裁判、医療事故の証拠保全、労働審判、建物明渡し、投資詐欺、クレサラ事件、遺産分割等様々な事件を扱って参りました。
人と直に向き合う“街弁”の仕事は、生々しいものですから過酷なこともあります。
それでも、弁護士の仕事は素敵だと思います。だって、「先生で良かった!」と、私を必要としてくれる依頼者の方たちがおられるのですから!!!
弁護士ブログ「弁護女子。~熊谷の女性弁護士の日々~」携帯版トップページ画像
カッコよい書き出しにしましたが、私の弁護士ライフはそうカッコのよいものではなく、人間味の溢れるものです(私の弁護士ライフの詳細は、弁護士ブログ「弁護女子。~熊谷の女性弁護士の日々~:https://blog.goo.ne.jp/bengojoshi」でご覧ください。ほぼ毎日更新しております)。
熊谷名物のうちわ祭り
「弁護士になりたい!!!」という念願叶った私は、縁もゆかりもなかった埼玉県熊谷市で弁護士ライフをスタートすることになりました。
あんな事件をやってみたい!こんな事件をやってみたい!・・・色々な思いがあり変化もありましたが、一貫していたのは、「人とガチで向き合いたい」、「組織の歯車の1つではなく、私の名前で仕事をしたい」、「バッジを付けて法廷に立ちたい」という情熱でした。
情熱だけはあるものの、当時の私は、社会人経験ゼロ、弁護士以外の資格もなし、だらだらと勉強だけをしてきた世間知らず、地域に密着するにも地盤となる地域もない。・・・「アツイ」のは熊谷の気温だけ。
さらに、追い打ちをかけたのが、知的さ・厳格さ・迫力・威厳・・・等々求められる「厳めしい弁護士の雰囲気」の一切を私が持ち合わせていなかったことです。事務所のボスと法廷に出れば「修習生ですか???」と聞かれる。ボスと示談交渉に伺えば「スタッフの女性」と言われる。初めて担当になった被疑者国選の初接見に向かった帰りには痴漢に遭い、今度は被害者として警察署に舞い戻る・・・(某警察署には私が指印の代わりに職印を押した調書があります)。
そして、私がいただいた称号は「弁護士のコスプレ」でした。
あまりにも的を射ていたので、むしろ気に入ってしまいました。
「弁護士のコスプレ」と言われた私に、仕事を頼みたいと思ってくれる方がいたと思われますか?・・・答えは、「イエス!」です。
私が熊谷で働き始めた当時、埼玉弁護士会熊谷支部の弁護士の人数は約60名で、女性の弁護士はその1割程度でした。女性の弁護士に対する期待・ニーズが、思っている以上にあったのです。
実を申しますと、私は弁護士の仕事に就くまで、自分の性別を強く意識したことはありませんでした。男女に違いはないと平和に思って生きてきて、性別を意識することなく弁護士の道を志しました。逆に「女性だから」という言葉はあまり得意ではありませんでした。
ところが、実際に弁護士になってみると、「女性なのに弁護士になられるなんて、立派ですね」という評価をいただいたり、「女性の先生にお願いをしたかったんです」と喜んでいただいたり、実は少し戸惑いました。
みなさんが私に見出してくださる、「女性であること」は何を意味しているのだろうか?これまで、意識をしてこなかった「女性であること」は自分のどこに備わっている個性だろうか?私は考えました。
そして同時に、社会に出て、弁護士という仕事を始めたことで、性別に敢えて拘らなくてよいほどに、まだ女性が自由に生きていけるわけではないことに気づきました。例えば、私を悩ませた、「厳めしい弁護士の雰囲気」を持っていない理由の1つは、まさに私が女性であることです。
これまで意識しなかった自分の「女性であること」に目を向けると、コミュニケーションの傾向や、意見の伝え方、話し方、そして見た目の雰囲気まで、男性と比較をすれれば、かなりの個性があります。適切な例かは分かりませんが、法科大学院時代に、男子学生に本を貸したところ、ふと見たときに自分の席に本がドン!と斜めに置かれて返されていました。男の子だからぶっきらぼうだな~と、笑って受け止めましたが、私であれば、「ありがとう」という付箋と飴玉1つを本に添え返すのです。些細なことでも、結構違いがあって、受け止め方も違うのです。
依頼者の方が、「女の先生で良かった」と言ってくださる言葉を聞いて、「私は男性の弁護士のマネをしようとしていたけれども、それは違う。一生男性の弁護士みたいになりたいと思うのは嫌だ。私は、“女性の弁護士”をやる!!!」と、はっきりと決めることができました。
事務所での法律相談風景
弁護士は戦う仕事です。これは女性の弁護士であってもです。
「法廷で弁護士が異議を出すことは珍しい」と言われることがありますが、私は自分が担当する尋問では、かなりの確率で「異議があります」とスッと手を伸ばします。
これはあくまで「戦い方」の例えなのですが、女性であっても、大きな声でなくても、相手の弁護士が自分より数十期先輩であっても、きちんと異議の要件を覚えていて、きちんと尋問の内容を聞いていれば、異議は認められます。さらに申し上げると、自分の依頼者と打ち合わせ重ねておくことで、そのまま敢えて語らせることが良いのか判断することもできます。あとは異議を出すと、依頼者が喜んでくれるということもあります。
弁護士の「戦い方」は数えきれないほどあって、私もそれを学んでいる最中ですが、弁護士が大きな声で怒鳴り散らせば、裁判で勝てるというわけではないのです。
ここからは、私の勝手な趣向なのですが、私は自分の依頼者が好きです。自分を選んでくれた・・・という感謝の気持ちもあります。さらに、オーダーメイドで事件を処理しているので、代わりが効かないことから、みなさん私の健康状態・ライフワークバランス等に配慮してくださるのです。そうすると、もう、自然と、「うぉぉ!絶対に何とかしますからね~!!!」と力が湧いてくるんです!そうして、思うんです、「うん!私、弁護士してる!!!」って!!!
最後に申し上げたいのが、「あなたの個性を待っている依頼者がいる!」ということです。時に「自分ではああなれない・・・」と気後れしてしまうくらい、立派で素敵な弁護士の方にスポットライトが当たっているのを見ることもありますが、それは、それ。
人と向き合う仕事です。人は千差万別、だから弁護士も千差万別でいいはずです。
そして、そんな弁護士である私を間近で見ていただくために、私は中央大学法科大学院の実務講師をさせていただき、生徒さんに関わっています。
「こんな弁護士もいるんだな」と気軽に感じていただければいいなと、私は思っています。