福岡 文恵さん【略歴】
福岡 文恵さん/法務省 法務総合研究所 国際協力部 法務教官 検事
「建国途上のエリトリアで」「法律作り手伝います」
昨年9月、当時の勤務地であった大阪から久しぶりに横浜の実家に帰省したわたしは、自分の部屋の机の引き出しから、懐かしい新聞記事の切り抜きを発見しました。
その新聞記事は1997年のものであり、弁護士である土井香苗さんの大学生時代のインタビュー記事です。
記事の冒頭では、「司法試験に最年少で合格した女子大生がこの春から一年間、アフリカで最も若い独立国エリトリアの法律整備に一役買うことになった。」と紹介されています。
エリトリアは、1993年に独立したばかりであり、その当時、憲法制定に続いて法整備を進めようとしていました。それを知った土井さんが、法整備のボランティアを思いつき、現地で刑法改正の素案づくりに携わるという内容が続きます。
この新聞記事を最初に目にした際、大学在学中に司法試験に合格し、合格後は現地の法務大臣に直談判して法整備支援に携わろうとする土井さんの行動力に強く憧れました。当時高校生だったわたしは、小学校高学年の頃から法曹を目指していたのですが、この新聞記事の切り抜きを机の目の前の壁に貼り付け、早く司法試験に合格し、国際社会において、法律分野で活躍することを夢見て、必死で勉強しました。
20年前のこの新聞記事を発見したことによって、やる気に満ち溢れた当時の感情を思い出すと同時に、20年も前から法整備支援活動に興味を持っていたことを再認識し、希望が叶って今の仕事に就けたことの喜びを改めて感じました。
わたしが所属する法務省法務総合研究所国際協力部(以下「国際協力部」という。)は、法整備支援に専従する部署として2001年4月に設立されました。約16年間、大阪において活動を続けてきましたが、2017年10月、東京都昭島市に新設された国際法務総合センターに移転しました。
わたしは約12年間検事として捜査・公判に従事した後、2017年4月に秋田地検から国際協力部に異動となり、その半年後には大阪から昭島への転勤となったわけですが、転勤族の検事にとっては引越しなど慣れたものです。異動のたびに心の故郷が増えていきます。そんな異動(移動)には慣れっこのわたしでも、国際協力部勤務となってから約10か月間での国内外の出張の多さには驚きを隠せませんでした。ですが、自ら積極的に足を運び、直接人と会って話をすることは、何よりも大切だということを改めて学びました。検事時代、自ら事件現場に出向くこと、証拠物の現物を確認することがいかに大切であり、また、被疑者・被害者・参考人のみならず、担当警察官と直接会って話をすることは、捜査記録を何度も読み返すよりも得るものが大きいことを痛感していましたが、それは今の仕事でも全く同じなのです。
昨年5月、担当国であるカンボジアに初めて出張した際、事前に多くの資料を読み込んで情報を得ていても、実際に現地に行って現地の人々と接し、話をすることによって得られる情報は桁違いでした。また、今の仕事は、検事として働いていたとき以上に多くの人と接し、多くの関係機関・関係者間の連絡・調整を図ることが求められる仕事です。メールや電話で複数回やり取りするよりも、1回でも直接会って話をし、その人の人柄に触れることによって、その後の連絡・調整がどれほどスムーズになるでしょうか。
検事の仕事は、今の仕事に着実につながっています。
先日、法務省法務総合研究所が主催する法整備支援連絡会が開催されました。
法整備支援連絡会とは、毎年一回、法整備支援に携わる各機関・関係者が参加し、情報交換や討論を行う会合です。今年のテーマは、「日本の法整備支援の発信力」。日本は、約20年にわたって法整備支援活動を続けてきたわけですが、これらの活動を通じて、その具体的な成果を超えて、誰かに対し、何らかメッセージを伝えてきたのか、また、今後どんなメッセージを伝えることができるのかについて、講演やパネルディスカッションが実施されました。
わたしは、この会合の準備のため、ニューヨークに出張し、ゲストスピーカーとしてお招きする国連の方々などとお会いする機会に恵まれたのですが、そのときに聞いたのが次の言葉です。
「日本人はもっと英語で発信していなかければならない。世界では、一般の方も研究者も、誰もが何かを調べる際には、まず英語でキーワードを検索する。そのため、英語で発信しなければ、そもそも土俵にも上がらない。」
こう言われたとき、まさにそのとおりだと思いました。当部でも、ホームページの更新はできる限り頻度を上げているものの、まだまだ時間がかかっている上、英語での発信となると、ネイティブチェック等でさらに時間がかかるのが現状です。
しかし、メッセージを発信していくには、まずは少しでも多くの人にその存在を知ってもらうことが大きな一歩です。そのためには、最初は時間がかかっても、英語で発信していくことを日頃から心がけていきたいと改めて思いました。
わたしには、土井さんのほかにも、法整備支援の魅力を教えてくれた憧れの先輩がいます。その方は先輩検事であり、長期専門家としてカンボジアに約2年間派遣され、カンボジアの裁判官や検察官を養成する学校で人材育成支援を続けてこられました。そして、そのときのご経験を、わたしが参加していた研修で講演されたほか、法律雑誌に連載されており、その講演や連載記事で、いつか法整備支援活動に携わりたいという思いを強くしました。その連載記事の中の先輩検事の言葉を、わたしは常に忘れないように心がけています。「いつか日本が支援を止めるとき、カンボジアに何を残せるのか、それを考えないといけない。」という言葉です。支援はいつか終わるのであり、支援が終わった後、対象国が自立して発展していくためには、何ができるのかを考え、活動していかなければならないのです。
わたしが土井さんや先輩検事から多大なる影響を受けたように、発信していくことによって、それまで全く存在を知られていなかった人のアンテナにキャッチされ、その人のその後の人生を変え得る大きな影響を及ぼすことができるかもしれません。それはとても素敵なことです。今後も、仕事をしていく上で、これからの活動が誰に対して、どんなメッセージを伝えられるのか、そして、より効果的にメッセージを伝えるにはどうすればいいかを創意工夫し、発信していきたいと思います。
国際協力部の活動は、こちらのホームページに掲載されています。少しでも興味のある方は、是非ご覧ください。http://www.moj.go.jp/housouken/houso_icd.html